30 / 49
炎の凪唄
国境通過
しおりを挟む
ふみっ、と頭を踏まれた。
「……ボルネア。寝ているときと、呼吸の仕方が違うぞ」
空寝をしていたらしい、人猫が全力で踏み潰しにきたので、起き上がろうとすると。
「つぁっ!?」
げしっ、と犬人に蹴り飛ばされ、座席の端に頭をぶつけてしまう。
「女の寝顔を見るのは、最低」
「アルも見ていたんだが」
「アル様と、男は、別の生き物だから、問題ない」
到頭、魔雄は、四英雄という固有種になってしまったようだ。
「わかっていると思うが、俺は今、起きたばかりで、引っ掛けただけだ。二人の寝顔も寝息も知るはずがない」
知らないわけではないが、覚えるほどに、じっくり堪能してはいない。
「わかってないわね。デリカシーの問題よ」
それは、その通りだ。
確かに、俺が悪かった。
領都を発った頃に比べれば、二人との距離感が縮まり、配慮が足りなくなっていた。
「国境を越えて、ミュスタイアに入ります。二人とも、魔力を空にしてください」
「にゃー」
「わーん」
俺も体験したが、魔力を根こそぎ吸い取られるのは、気分の良いものではない。
ただ、俺のは魔力ではなく、生命力かもしれないので、注意が必要だ。
俺が感じている、熱の正体を、アルは、明らかにしていない。
もしかしたら、寿命を削っているのかもしれないが、怖くて聞けない。
「また、頼むな」
俺を経由し、魔法陣の描かれた紙を、二人に渡す。
魔法陣の、古代期の文字に見覚えがあるので、また透明な球を生み出す魔法だろう。
振り返ると、国境の壁が視界にーー。
「アルっ! 急げるか!」
遠目に見えた瞬間、アルに駆け寄った。
「了承しました。そうと気づかれない範囲で、最速でいきます。他に、何かありますか?」
「アルは、楽器を持っているか」
「魔器ならあります。オルタンス、僕の荷物から、銀色の、板状のものを取り出して下さい」
「はいっ!」
そこまで気合いを入れなくても良いのに、と思うほど懸命に、アルのお願いを遂行するオルタンス。
「アル様っ、あたしは!」
「だそうです、ラクンさん」
あっさり流され、膨れっ面で、俺を睨んでくるボルネア。
「俺たちの後ろで、笑顔で手でも振ってくれれば良い。オルタンスは、そういうのは苦手そうだから、二人で仲良さそうにくっついて、怪しまれないようにしてくれ」
獣国だから、当然、警備も獣種だ。
不謹慎だが、魅力的な美女が二人もいれば、彼らの警戒も緩むだろう。
「間に合いそうですね」
ミュスタイアの王都である、ユングフラウに向かう街道ではないから、人通りは少ない。
検問所に二人並んでいるから、俺たちが間に合えば、終了してからの交代になる。
「よぉ、おっちゃん!」
「ん? おぉ~、兄ちゃんじゃねぇか!」
さすがアル。
絶妙な時機で到着。
俺は、顔見知りの猿人に、嘘偽りのない笑顔を向ける。
「アントさん、お知り合いですか?」
おっちゃんの相方は、人鰐だった。
嘗て、居館でアルが話していたが、鰐族は、階級に拘泥する傾向がある。
それ故に、時折、融通が利かない者がいる。
どうやら、彼がそうらしい。
難敵だが、やることは変わらないので、あとは全力でやるだけだ。
「兄ちゃんたちは、幻想団の人たちだよ。はっは、半年ぶりかなぁ」
「幻想団……」
青年期の人鰐が、まじまじと俺を見てくる。
「まっ、そういうわけで、通して構わないよ」
「いえ、アントさん。そんな特例は……」
人鰐の視線が、男二人を通り越し、釘づけになる。
ボルネアは、上手くやってくれたようだ。
「そうだぞ、おっちゃん。仕事は、ちゃんとしないとな。まぁ、そんなわけで、同じ時間を取るなら、二人ともっ、観客になってくれ! 未だ、欠員が出たときの代わりさえ真面に務められない、拙いものだが、楽しんでいってくれ!」
人鰐が惚けている内に、一気に畳み掛ける。
アルが、俺の逃げ道を塞ぐように、勝手に始めてしまう。
「ーー幻魔星唄」
銀板の魔器を、アルの繊細な指が、一撫でする。
すると、どこからともなく、水音が響く。
澄明な音の内側から、芽生えるような、風に流れる砂の音。
舞い上がる、羽搏きに続くのは。
雨音に、葉擦れの音。
めぐる世界に、音の洪水が魂を洗い流す。
「綺麗……」
「うん……」
音に染まった、二人は、短く言葉を零す。
どこかで、聞いたことのある、忘れていない記憶。
世界の、何気ない日常が、一つの物語となる。
触れていた願いは 君とともに
夢の続きは ここから始まる
歩いていこう
風の速さで 君の隣を
星の巡りに 心を預けて
手をつなごう
凍えていた 二人の世界は
芽吹きを迎える
輪は 広がる
物語は 紡がれる
果てのない大地に 刻まれる
見上げてみよう
明日を拾っていけば 君とともに
夢の終わりは 新たな始まり
振り返った 世界は二人を
優しく今も 見守っているから
アルは、酷い奴だ。
だが、それを糾弾している暇などない。
「次に逢ったときも、聴いてくれるか?」
アルが魔器から手を離しても、音に染まっていた、人鰐に声を掛ける。
「……あっ、はい、是非!」
「はっは、そうだろうっ、そうだろう! だがな、兄ちゃんのファン一号の座は譲らねぇぞ」
感謝半分と、申し訳なさ半分で、国境の門を潜り抜ける。
そして。
面倒な問題が一つ、残っていた。
アルが、膨れっ面だった。
「何を拗ねているんだ?」
空気が溜まった、頬を、ぐりぐりしてやる。
ぷ~、と息を吐いてから、アルは、愚痴(?)を零す。
「てっきり、僕が、ラクンさんのファン一号だと思っていたのに。でも、僕は、ラクンさんに弱みを握られているので、二号でも我慢します」
ーー弱み?
それは、色々あるのかもしれないが、アルには、弱みでもあるような気がする。
兎にも角にも、居館に着くまでに、球を割らないといけないようだ。
二人が生んでくれた、抱えられるくらいの大きさの球を持ち上げながら、アルに尋ねる。
「魔器には、すでに魔力が籠められていたのか?」
「はい。自然の音を、蓄えられる、楽器というには原始的な、魔器です。皆さんは、初めて聞いたので、誤魔化されてくれました」
アルといえども、演奏の技術だけで、人々を魅了することは敵わないだろう。
それでも、同様の効果を齎すことができるのだから、幻想はとんでもない。
「この魔器は、幻想団が厭うような、聞いた人に影響を及ぼすことはーー」
「わかっている。魔雄がそんなものを作るはずがない」
皆まで言わせない。
これまで共に歩んで、俺は。
アルの、その有様を、美しいと思った。
一貫している。
正しいのではない。
答えを持った者の、透徹した魂。
それに惹かれ、俺はーー。
「ラクンさん。今日の夜は、僕の抱き枕になって下さい」
「にゃぶぅ~~っ!!」
「ばぁ~~ぶっ!!」
ルススさん効果だろう。
何やら妄想を逞しくしたらしい、二人の叫びが、おかしなものになっている。
二人とも、ここまで旅を続け、様々な方面で成長したというのに。
こんなところだけは変わらないので、ーー嬉しくなってくる。
「二人は、魔力切れなのに、休まなくて大丈夫なのか?」
またぞろ、悪意が俺に向かないように、話題を転換することにする。
何か、色々、台無しだが、今後のためにも、二人の変化について聞いておかなければならない。
「よくわからないわ。魔力切れのはずなのに、魔力が巡っているみたい」
「使っていなかった魔力を、使えるようになった気がする」
「魔力の変換効率か?」
アルが言っていたことからすると、その線で間違いないだろう。
「正解です。人は、内にある魔力の、半分しか使っていません。生得的に、そうなっているのです。機能が制限されています。ですので、その軛を、打っ壊しました。これで二人は、称号的には、『魔導士』になりました」
まだ拗ねているのか、必要なことだけを淡々と語っていく。
「魔導士、というのは、聞いたことがないから、古代期の話なのか?」
「そう、ではあります。正確には、起源期に定められた、カテゴリの一つです。今では知られていませんが、往時、そうした基礎部分を作り上げた、ヘルマンという有名な魔法使いがいて、それまでバラバラだった規格を統一したのです」
魔雄に魔法ーーと言いたくなるくらいに、アルの機嫌が上向いていく。
「重要視されなかったのか、『大図書館』にも所蔵されなかったので、それ以外の、重要な彼の研究成果が散逸してしまいました」
「それ以外というと、どんなものなんだ?」
「一言で言うと、仮説、です。彼は、様々な問題に対して、筋道をつけようと思ったのです。ですが、当時の常識からすると、荒唐無稽なものも含まれていて、奇書扱いされてしまいました」
「う~ん? アルの言い様からすると、そのヘルマンさんの仮説は、だいたい合っていたのか?」
「はい。すべて、とは、もちろんいきませんでしたが、多くの部分で、彼の仮説が正しかったことを確認しました」
アルの、最後の言葉で、続く言葉を失ってしまった。
確認したーーということは、間違いだった部分も含め、検証したということだ。
これ以上、聞けば、絶対に、深みに嵌まる。
だのに、滑らかになった、アルの口は、秘宝を駄々洩れにする。
「この前、第二段階、と言いましたよね。あれは、第三段階、まででしたが、後にヘルマンは、最後の著書で、第五段階まで見通しました。最終段階である、五段階は、さすがに試すことはしませんでしたが、大凡は解明しました」
ーー聞きたくないのに。
興味が湧いてしまい、ポロリと口から転び出てしまった。
「それは、何の研究なんだ?」
「不老不死です」
さらりと、アルは、言葉にする。
聞かなければ、良かった。
後悔しても、ネーラは踊り出す。
ーー現実逃避をしている場合ではない。
アルの言った、第二段階、とは、ベルニナに関することだ。
彼女に施した、魔法使いは、とんでもない研究をしているということになる。
ーー不老不死。
魔法の素人でも、そこには、多くの犠牲が伴うであろうことは、容易に想像することができる。
生命の、根幹に迫ろうというのだ。
そうであるなら、命を軋ませる、ことが必要になるだろう。
ベルニナも、その一人。
歪んだのか、軋んだのか、その結果が、ーー半月という余命。
間に合わないかもしれない。
俺に、何ができるとは思えない。
それでも。
あの感触を、温もりが消えない内に、諦めることなど、動かずにいることなど、ーーあのときに生じた、俺の何かが許さない。
「はぁ~」
だが、今から気を張っていても、仕方がない。
国境が遠ざかっていく。
近づくために、今は、離れていかなければならない。
「上手くいって、良かった」
S級カードや絶雄を持ち出すことなく、国境を抜けられたので、一安心。
困ったことに、俺は、アルに幻滅されることを、恐れてしまっている。
しかし、子供の頃の、親父に対してのそれとは、明確に異なる。
大きな違いは、ーーそれでも俺は楽しめている、ということだ。
兎にも角にも、現状を確認し、心を緩める。
「この球を割りつつ、熱を使い切らないように、か」
子供たちと遊べなかったので、球を撫で撫でして可愛がると、生みの親から、凄い目を向けられてしまう。
「起動」
目を閉じ、見なかったことにする。
「収束」
領都までは、もう少し掛かるので、俺は、透明な球と向き合うことにしたのだった。
「……ボルネア。寝ているときと、呼吸の仕方が違うぞ」
空寝をしていたらしい、人猫が全力で踏み潰しにきたので、起き上がろうとすると。
「つぁっ!?」
げしっ、と犬人に蹴り飛ばされ、座席の端に頭をぶつけてしまう。
「女の寝顔を見るのは、最低」
「アルも見ていたんだが」
「アル様と、男は、別の生き物だから、問題ない」
到頭、魔雄は、四英雄という固有種になってしまったようだ。
「わかっていると思うが、俺は今、起きたばかりで、引っ掛けただけだ。二人の寝顔も寝息も知るはずがない」
知らないわけではないが、覚えるほどに、じっくり堪能してはいない。
「わかってないわね。デリカシーの問題よ」
それは、その通りだ。
確かに、俺が悪かった。
領都を発った頃に比べれば、二人との距離感が縮まり、配慮が足りなくなっていた。
「国境を越えて、ミュスタイアに入ります。二人とも、魔力を空にしてください」
「にゃー」
「わーん」
俺も体験したが、魔力を根こそぎ吸い取られるのは、気分の良いものではない。
ただ、俺のは魔力ではなく、生命力かもしれないので、注意が必要だ。
俺が感じている、熱の正体を、アルは、明らかにしていない。
もしかしたら、寿命を削っているのかもしれないが、怖くて聞けない。
「また、頼むな」
俺を経由し、魔法陣の描かれた紙を、二人に渡す。
魔法陣の、古代期の文字に見覚えがあるので、また透明な球を生み出す魔法だろう。
振り返ると、国境の壁が視界にーー。
「アルっ! 急げるか!」
遠目に見えた瞬間、アルに駆け寄った。
「了承しました。そうと気づかれない範囲で、最速でいきます。他に、何かありますか?」
「アルは、楽器を持っているか」
「魔器ならあります。オルタンス、僕の荷物から、銀色の、板状のものを取り出して下さい」
「はいっ!」
そこまで気合いを入れなくても良いのに、と思うほど懸命に、アルのお願いを遂行するオルタンス。
「アル様っ、あたしは!」
「だそうです、ラクンさん」
あっさり流され、膨れっ面で、俺を睨んでくるボルネア。
「俺たちの後ろで、笑顔で手でも振ってくれれば良い。オルタンスは、そういうのは苦手そうだから、二人で仲良さそうにくっついて、怪しまれないようにしてくれ」
獣国だから、当然、警備も獣種だ。
不謹慎だが、魅力的な美女が二人もいれば、彼らの警戒も緩むだろう。
「間に合いそうですね」
ミュスタイアの王都である、ユングフラウに向かう街道ではないから、人通りは少ない。
検問所に二人並んでいるから、俺たちが間に合えば、終了してからの交代になる。
「よぉ、おっちゃん!」
「ん? おぉ~、兄ちゃんじゃねぇか!」
さすがアル。
絶妙な時機で到着。
俺は、顔見知りの猿人に、嘘偽りのない笑顔を向ける。
「アントさん、お知り合いですか?」
おっちゃんの相方は、人鰐だった。
嘗て、居館でアルが話していたが、鰐族は、階級に拘泥する傾向がある。
それ故に、時折、融通が利かない者がいる。
どうやら、彼がそうらしい。
難敵だが、やることは変わらないので、あとは全力でやるだけだ。
「兄ちゃんたちは、幻想団の人たちだよ。はっは、半年ぶりかなぁ」
「幻想団……」
青年期の人鰐が、まじまじと俺を見てくる。
「まっ、そういうわけで、通して構わないよ」
「いえ、アントさん。そんな特例は……」
人鰐の視線が、男二人を通り越し、釘づけになる。
ボルネアは、上手くやってくれたようだ。
「そうだぞ、おっちゃん。仕事は、ちゃんとしないとな。まぁ、そんなわけで、同じ時間を取るなら、二人ともっ、観客になってくれ! 未だ、欠員が出たときの代わりさえ真面に務められない、拙いものだが、楽しんでいってくれ!」
人鰐が惚けている内に、一気に畳み掛ける。
アルが、俺の逃げ道を塞ぐように、勝手に始めてしまう。
「ーー幻魔星唄」
銀板の魔器を、アルの繊細な指が、一撫でする。
すると、どこからともなく、水音が響く。
澄明な音の内側から、芽生えるような、風に流れる砂の音。
舞い上がる、羽搏きに続くのは。
雨音に、葉擦れの音。
めぐる世界に、音の洪水が魂を洗い流す。
「綺麗……」
「うん……」
音に染まった、二人は、短く言葉を零す。
どこかで、聞いたことのある、忘れていない記憶。
世界の、何気ない日常が、一つの物語となる。
触れていた願いは 君とともに
夢の続きは ここから始まる
歩いていこう
風の速さで 君の隣を
星の巡りに 心を預けて
手をつなごう
凍えていた 二人の世界は
芽吹きを迎える
輪は 広がる
物語は 紡がれる
果てのない大地に 刻まれる
見上げてみよう
明日を拾っていけば 君とともに
夢の終わりは 新たな始まり
振り返った 世界は二人を
優しく今も 見守っているから
アルは、酷い奴だ。
だが、それを糾弾している暇などない。
「次に逢ったときも、聴いてくれるか?」
アルが魔器から手を離しても、音に染まっていた、人鰐に声を掛ける。
「……あっ、はい、是非!」
「はっは、そうだろうっ、そうだろう! だがな、兄ちゃんのファン一号の座は譲らねぇぞ」
感謝半分と、申し訳なさ半分で、国境の門を潜り抜ける。
そして。
面倒な問題が一つ、残っていた。
アルが、膨れっ面だった。
「何を拗ねているんだ?」
空気が溜まった、頬を、ぐりぐりしてやる。
ぷ~、と息を吐いてから、アルは、愚痴(?)を零す。
「てっきり、僕が、ラクンさんのファン一号だと思っていたのに。でも、僕は、ラクンさんに弱みを握られているので、二号でも我慢します」
ーー弱み?
それは、色々あるのかもしれないが、アルには、弱みでもあるような気がする。
兎にも角にも、居館に着くまでに、球を割らないといけないようだ。
二人が生んでくれた、抱えられるくらいの大きさの球を持ち上げながら、アルに尋ねる。
「魔器には、すでに魔力が籠められていたのか?」
「はい。自然の音を、蓄えられる、楽器というには原始的な、魔器です。皆さんは、初めて聞いたので、誤魔化されてくれました」
アルといえども、演奏の技術だけで、人々を魅了することは敵わないだろう。
それでも、同様の効果を齎すことができるのだから、幻想はとんでもない。
「この魔器は、幻想団が厭うような、聞いた人に影響を及ぼすことはーー」
「わかっている。魔雄がそんなものを作るはずがない」
皆まで言わせない。
これまで共に歩んで、俺は。
アルの、その有様を、美しいと思った。
一貫している。
正しいのではない。
答えを持った者の、透徹した魂。
それに惹かれ、俺はーー。
「ラクンさん。今日の夜は、僕の抱き枕になって下さい」
「にゃぶぅ~~っ!!」
「ばぁ~~ぶっ!!」
ルススさん効果だろう。
何やら妄想を逞しくしたらしい、二人の叫びが、おかしなものになっている。
二人とも、ここまで旅を続け、様々な方面で成長したというのに。
こんなところだけは変わらないので、ーー嬉しくなってくる。
「二人は、魔力切れなのに、休まなくて大丈夫なのか?」
またぞろ、悪意が俺に向かないように、話題を転換することにする。
何か、色々、台無しだが、今後のためにも、二人の変化について聞いておかなければならない。
「よくわからないわ。魔力切れのはずなのに、魔力が巡っているみたい」
「使っていなかった魔力を、使えるようになった気がする」
「魔力の変換効率か?」
アルが言っていたことからすると、その線で間違いないだろう。
「正解です。人は、内にある魔力の、半分しか使っていません。生得的に、そうなっているのです。機能が制限されています。ですので、その軛を、打っ壊しました。これで二人は、称号的には、『魔導士』になりました」
まだ拗ねているのか、必要なことだけを淡々と語っていく。
「魔導士、というのは、聞いたことがないから、古代期の話なのか?」
「そう、ではあります。正確には、起源期に定められた、カテゴリの一つです。今では知られていませんが、往時、そうした基礎部分を作り上げた、ヘルマンという有名な魔法使いがいて、それまでバラバラだった規格を統一したのです」
魔雄に魔法ーーと言いたくなるくらいに、アルの機嫌が上向いていく。
「重要視されなかったのか、『大図書館』にも所蔵されなかったので、それ以外の、重要な彼の研究成果が散逸してしまいました」
「それ以外というと、どんなものなんだ?」
「一言で言うと、仮説、です。彼は、様々な問題に対して、筋道をつけようと思ったのです。ですが、当時の常識からすると、荒唐無稽なものも含まれていて、奇書扱いされてしまいました」
「う~ん? アルの言い様からすると、そのヘルマンさんの仮説は、だいたい合っていたのか?」
「はい。すべて、とは、もちろんいきませんでしたが、多くの部分で、彼の仮説が正しかったことを確認しました」
アルの、最後の言葉で、続く言葉を失ってしまった。
確認したーーということは、間違いだった部分も含め、検証したということだ。
これ以上、聞けば、絶対に、深みに嵌まる。
だのに、滑らかになった、アルの口は、秘宝を駄々洩れにする。
「この前、第二段階、と言いましたよね。あれは、第三段階、まででしたが、後にヘルマンは、最後の著書で、第五段階まで見通しました。最終段階である、五段階は、さすがに試すことはしませんでしたが、大凡は解明しました」
ーー聞きたくないのに。
興味が湧いてしまい、ポロリと口から転び出てしまった。
「それは、何の研究なんだ?」
「不老不死です」
さらりと、アルは、言葉にする。
聞かなければ、良かった。
後悔しても、ネーラは踊り出す。
ーー現実逃避をしている場合ではない。
アルの言った、第二段階、とは、ベルニナに関することだ。
彼女に施した、魔法使いは、とんでもない研究をしているということになる。
ーー不老不死。
魔法の素人でも、そこには、多くの犠牲が伴うであろうことは、容易に想像することができる。
生命の、根幹に迫ろうというのだ。
そうであるなら、命を軋ませる、ことが必要になるだろう。
ベルニナも、その一人。
歪んだのか、軋んだのか、その結果が、ーー半月という余命。
間に合わないかもしれない。
俺に、何ができるとは思えない。
それでも。
あの感触を、温もりが消えない内に、諦めることなど、動かずにいることなど、ーーあのときに生じた、俺の何かが許さない。
「はぁ~」
だが、今から気を張っていても、仕方がない。
国境が遠ざかっていく。
近づくために、今は、離れていかなければならない。
「上手くいって、良かった」
S級カードや絶雄を持ち出すことなく、国境を抜けられたので、一安心。
困ったことに、俺は、アルに幻滅されることを、恐れてしまっている。
しかし、子供の頃の、親父に対してのそれとは、明確に異なる。
大きな違いは、ーーそれでも俺は楽しめている、ということだ。
兎にも角にも、現状を確認し、心を緩める。
「この球を割りつつ、熱を使い切らないように、か」
子供たちと遊べなかったので、球を撫で撫でして可愛がると、生みの親から、凄い目を向けられてしまう。
「起動」
目を閉じ、見なかったことにする。
「収束」
領都までは、もう少し掛かるので、俺は、透明な球と向き合うことにしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる