めぐる風の星唄

風結

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炎の凪唄

魔雄の隠し事

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 ーー勘違いしないで、良かった。
 どうやら、俺は、ベルニナにとっての、目標になったらしい。
 彼女が、胸に飛び込んできたとき、頭が真っ白になってしまった。
 ーー命の恩人。
 そんな俺に、感謝を伝えてくれただけだったのに。
 俺は、彼女の好意を受け容れるかどうかで迷っていた。
 ーー恥ずかしい。
 今すぐ、守護兎ココネと一緒に、兎人ネーラのお腹の下に、埋もれたくなってしまった。
「未熟者の、ラクンさん。もう少し、成長してください」
 イオアニスの研究の、資料を集め終えたのか、アルが戻ってくる。
 未熟者おれの表情を、完全に読んでしまう、玄人まゆう
「わかっている。未熟者おれを好きになる奴なんて、いないということだろう」
「ラクンさん……。兎さんに踏まれて、ぺちゃんこになってきてください」
 呆れた、というより、驚いた顔で、アルは、これ見よがしに溜め息を吐いた。
 それから、伯も、同意の溜め息。
「…………」
 よくわからないが、明らかな劣勢なので、今度は、こちらが攻撃側に回ることにする。
「ーーアル。イオアニスの研究と『魔雄の遺産』、それだけでなく、絶雄様との再会。もしかしたら、その前から、色々と動いていたみたいだな?」
「はい。そういったことを隠すのに、魔法を使うのは、好みではないので、できる範囲でしか、やりませんでした。ーーそれで、ラクンさんは、何に気づいたのでしょうか?」
 悪戯小僧の顔。
 言葉通り、アルは、隠せないものは、隠していなかった。
 勝負ーーというのは、不謹慎だが、たとえアルが勝手に仕掛けてきたものであろうと、アルが好きな俺は、それを拒むことなんてできない。
 おかしなことになってしまった。
 ーーそれも悪くない。
 そう思ってしまった、俺は、もう、後戻りはできないのかもしれない。
「そうだな。まずは、団員なかまとして、言っておこう。『美少女魔女ボルネア』と『美女魔剣士オルタンス』が可哀想じゃないか。何をやらせたんだ?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと変装させましたから」
 俺の問いに、正面から答えない、魔雄げしゅにん
 俺に追及させたいのだろうが、今は、脇道に逸れるのではなく、すべての道に通じている、根本おおもとを明らかにする必要がある。
「伯。俺は、詳しくないんだが、Sクラスは、本当に、組合ギルドを通さないと、依頼を受けられないのか?」
「それは、私にもわからない。だが、S級を、個人や国が勝手に雇うとなれば、問題がある。理に適っていると思うが」
 伯の言うことは、尤もだ。
 だが、俺は、当然ながら、アルうそつきの言うことを信じていない。
「S級の、双剣のツォーナさんだが、あの人、組合を通して、依頼を受けたと思うか?」
「それは……、ない、だろうな」
 ツォーナさんは、兎さんより速く、逃げ出した。
 それは、つまり、依頼をほっぽり出してしまったということだ。
 正確なところはわからないが、事例なら、この一つで十分。
「アル。ツォーナさんを、苛めるなよ?」
「苛めるなんて、とんでもありません。僕とツォーナさんは、大の仲良しですから」
 アルの言葉に、きっと、大の仲良しひがいしゃのツォーナさんは、喜びのあまり、涙ながらに頷くことだろう。
「ラクンよ。結局、何が言いたいのだ?」
「ああ、すまん。わかり難かったか。つまり、俺が言いたいのは、アルが、伯の依頼を受けなかったのは、別の理由があったからじゃないかと、睨んでいるんだ」
「……駄目だ。そうすることによって、利益があるーーくらいのことしか、わからん」
 もったいぶっても、意味はないので、さっさと答えを突きつけることにする。
「俺は、アルが依頼を受けなかったのは、二重依頼ダブルブッキングだったからだと、思っている」
「ーーすでに、同様の依頼を受けていたということか? ベルニナに関することを?」
「恐らく、ベルニナとかイオアニスではなく、それらを含んだ、研究に関することだ。それと、伯が知らないことだが、絶雄様は、『魔雄の遺産』の解決を依頼してくれたが、その後、イオアニスの研究に関しては、依頼してくれなかった」
 ーー絶雄は、頼られるのが好き。
 そうであるのに。
 居館で再会したとき、口の端に上ることもなかった。
 これは、絶雄ではなく、彼の右腕のティソか、諜報を行っている者が、状況を察し、迂闊な主をいましめたのだろう。
「絶雄様なら、二重にならないように、依頼することもできただろう。だが、それをしなかった。ミセル王だけでなく、絶雄様ですら、配慮しなくてはならない相手ーーとなれば、もう、一つしかない」
「教会……か」
 伯が、確かめるように、正解を口にする。
 比較的、教会の支配が緩い、ビュジエ領の領主ですら、もう一つの権力に言及するときは、慎重にならざるを得ない。
 ーー世界の半分。
 魔雄が世界の国々を、剣雄が教会を。
 以前、アルが言ったように、その影響力は、半端ではない。
 幻想団とともに旅をしていた、俺には、実感がないのだが、住む地域によっては、国家よりも教会の意見や主張が、優先されることもあるらしい。
「以前、ラクンさんが女性だったら良かったと、そういったことを言いましたが。ーーもう、僕が女性でも、良いような気がしてきました!」
 狂ったことを言い出した、アルは、俺の胸に飛び込んでこようとしたので。
「せいっ!」
 俺は、全力で、前蹴りを放つ。
 事も無げに躱した、アルは、俺が寝転がったにも拘らず、まだ諦めていなかった。
 ーーこれで、俺は、手足の四本を使える。
 更には、合図しておいた、伯の追撃がーー。
「そういう趣味があったのか。ーーいや、理解はするが、あとで、ベルニナに伝えなければならないな」
 ーーなかった。
 悲痛な表情で、顔を背けているえんぎちゅうの、伯は、手助けしてくれないようだ。
 可愛い角兎それはさておき
 くっつかれてしまった、アルの、両頬を、ぐりぐりしてやる。
「ひおいえう。どーえなあ『撫師なめすおお』のーー」
「はぁ、ほれ、話の続きだ、起きろ」
 抵抗を諦め、アルの要求に応える。
 男の髪とは思えないほど、撫で心地の良い、小さ目の頭。
 ココネと同じくらいに、優しく、くしけずりながら、無理やり立ち上がる。
「そこは、カステルのように、もっと、荒っぽくするところです。そんなに上手く撫でられても、興醒めです」
「そんなことは知らん。単なる、気紛れだ。『アル』と『ハビヒ』を褒める奴が、絶雄様以外に、もう一人くらいいたって良いんじゃないかと、そう思っただけだ」
 爆雄、剣雄、ーーそれから、絶雄も。
 いずれ、アウマクアの御許に。
 魔雄を、独りにしては、いけない。
 そんなことを、考えながら。
 アルの肩をつかみ、引き離してから、釘を刺しておく。
「性別を逆にするとか、そんな魔法を、研究するなよ」
「はい。さっそく今日から、取り掛かろうと思います」
 ーー仕舞った。
 ではなく。
 好い加減、アルから主導権を取り戻さなといけない。
「教会は、この世界の、魔法を管理しているのか?」
 ーー組合には、依頼に適さないものも申請されます。
 ーー付き合いというものがあって、断れない場合に、僕に回ってきます。
 以前、アルは、そう言っていた。
 教会からの依頼など、正に、謎Sアル向きだ。
「正確には、この世界の、『真実の管理』ですね。僕には、必要ありませんが、大抵の人たちには、生きる意味や、答えを与えてくれる存在というのは、ありがたいようですね」
「となると、今回の依頼は、第三段階以上の研究をさせるな、というところか?」
 また話がおかしな方向に流れていきそうになったので、軌道修正する。
「先程、ラクンさんが言ったように、有益なので、第二段階までなら許容されます。教会は、すでに、第三段階まで完成させています。その上で、『禁命』の第二禁圧に指定しています」
 「禁命」が何かはわからないが、手遅れだということだけは、アルの笑顔から、悟った。
「……要は、これから第三段階を研究しても、意味がないから、止めろ、ということか?」
「はい。第三段階の研究には、第二段階までと違い、それなりの犠牲が必要になります。仮に、イオアニス様が、第三段階を完成させたとしても、ただの、後追いにしかなりません」
 それから、アルは、話についてこられていない、伯に、残酷な通告を行う。
「ビュジエ伯爵。僕が今、話したこと、これから話すことを口外したなら、ビュジエ領だけでなく、ミセル国も、大きな力によって、潰されることになるかもしれません。くれぐれもご注意をーー」
 いつの間に、用意したのか、アルは、しっかりと書面で知らせる。
「……わかっていたのなら、私も洞穴から、遠ざけてくれれば良いものをーー」
「そこは、すまない。アルと二人きりには、なりたくなかったからな」
 文面を読んだ、伯が、煤けてしまう。
 教会のことに限らず、伯たちは、この度の一件で、多くの情報を知ってしまった。
 彼ら自身の安全のためにも、代表者である、伯には、それなりの責任を負ってもらわなければならない。
 係わってはならないものに、係わってしまった者の末路であるーーなどと、言っていられる立場ではない。
 先程、手遅れ、だと言った理由が、これだ。
 とはいえ、これは、俺がアルに、言わせてしまったようなものでもある。
「これも、課題の一つ、なのか?」
「ラクンさんなら、わかるでしょうが、この程度の依頼なら、僕が動いた瞬間に、解決してしまいます。ですので、今回は、ボルネアとオルタンスに、序でに、ラクンさんにやってもらうことにしました」
 アル以外の人種アオスタが口にしたなら、大言壮語とのそしりを免れないが、魔雄アルにとっては、ただの厳然たる事実。
 ーー「千策」に、世界の魔力の制御。
 ーー魔雄としての力に、「大図書館カマカウ」の知識。
 アルにできないことを探すほうが難しい。
「といっても、アルも万能じゃない。『魔雄の遺産』までは、それなりに上手くいっていたようだが、そこからは、ベルニナとか炎竜団とか、色々と修正が必要だったよな?」
 アルの言行に、違和感を抱き始めてから、なるべく心にめるようにしていたが、ーー洞穴に至ってからは、もう隠してもいなかった。
 特に、遺産の一件で、魔力を失ってから、粗が目立つようになっていった。
 ーー対魔法使い用の、課題。
 ーーボルネアとオルタンスの、「飛翔」に「魔導士」。
 現在から、過去を辿っていけば、どこまでも遡っていける。
 それこそ、絶雄を訪ねたときから。
 或いは、俺が、アルと出逢ったときからーー。
「それは、ラクンさんが悪いんです」
魔雄をアルの楽しませ過ぎたよそうをこえた、からか?」
「ラクンさんが、意地悪だからです。ほ~らほら、次をお願いしますよ~だ」
 何だか、子供っぽい、アルも、見慣れてきたので、頭を撫でそうになってしまった。
「次……?」
 だが、伸ばし掛けた、俺の手は、アルの言葉で固まってしまった。
「そ~ですよ~だ。ど~んと来いです」
「……次って、何だ?」
「え? 何を言っているんですか、ラクンさん?」
「…………」
 俺が答えられないでいると、何故か、アルが焦り出す。
「……はい? ちょっと待って下さい! あと、二つか三つ、或いは、もっとでも構いません! 今なら、出血大サービスで、不必要なことまで答えてあげますよ!」
「俺は、今日の一件で、精神的にも肉体的にも疲れたから、もう、何も考えたくない。明日にしてくれ」
 これは、紛う方なき、本音だ。
 ボルネアとオルタンスの「魅了」で、精神を削られ。
 イオアニスとの闘いで、体と魔力を酷使。
 その上で、ベンズ伯やマルティニー卿など、生き残るために、最良の道を模索するために、頭を回転させ続けた。
 働きすぎだ。
 確かに、アルが言うように、あと二つか三つくらい、疑問を抱いたことがあったような気がするが、鈍くてだるい、頭と体は、休息を必要としている。
 伯も、これ以上の秘密やら機密やらは、御免被りたいだろう。
 教会という、最低限のーー課題は達成したのだから、今日は、お開きにして欲しい。
「ーーそれとだな」
「何ですかっ?」
 構って欲しいのに、それを隠そうとしている、仔犬アル
 尻尾を幻視してしまうほど、誘惑してくるのだが、ここは心を鬼にしないといけない。
 一緒に連れていけないので、しっかりと断ることにする。
「緊張のしっ放しだったから、用を足しにいきたい。ついてくるなよ?」
「……いるので、ごゆっくり、どうぞ」
 拗ねた、魔雄アル
 上目遣いが可愛いーーというのは、勘違いだ。
 あとが怖いが、そろそろ我慢も限界。
 未だ煤けたままの、伯に挨拶してから、小走りで通路を出る。
 離れた場所にある、馬車の近くに、女性おくがたとしんみ四人ょうなおんなたちがいたので、入り口から見えない場所まで、岩肌を辿っていく。
 ーーここらで良いか。
 さっそく岩肌に向かい、「放水」の魔法を、ぶっ放すとーー。
「絶雄様か?」
「ボルネアとオルタンスですら、気づかないくらい、魔力を抑えているのだが、よく気づいたな」
「そこは、何とも言えない。居館で、絶雄様の魔力を浴びて、おかしくなったか、アルが俺に、仕込んだ結果だろう」
 ーー体に、沁み込むような、情熱ほのお
 言葉にするなら、そんな魔力いろ
 最初こそ、絶雄の絶大な魔力に、生存本能の水準レベルで危機感を抱いたが、その後は、不思議と魂に心地好く響く。
 と、感傷的な気分になっていたらーー。
「ーーーー」
 ーー連れション。
 でかい。
 衰退期なのに、俺よりーー。
「何か、どうでもよくなってきてしまった」
「そう言うな。せっかく、こうしてやってきたのだから、わしの話し相手になってくれ」
 絶雄は、持っていた長剣を、岩肌の段差に置いた。
「アルには、気づかれているのか?」
「アルを、たばかれるとでも思うか?」
「無理。それより、人種の国まで出張ってきて、問題ないのか?」
「バレなければ、問題ない」
 そんなことで良いのだろうか、と思った瞬間に、絶雄は、とんでもないことを言って寄越した。
「さすがにな、ここまで走ってくると、疲れる。半日も掛かってしまったぞ」
「……絶雄様。衰退期とか、嘘を吐いたな。嘘吐きは、魔雄の始まりだぞ」
 規格外よんえいゆうは、衰退期でも、四英雄きかくがいのようだ。
「娘と息子が心配になって、見にきたのか?」
「アルがいるから、心配はいらない。と、わかってはいるが、それでも心配になってしまうのが、親というものだ。それと、忘れているようだが、依頼の報酬だ」
「報酬?」
 そうだった。
 「魔雄の遺産」は、「アル」と「ハビヒ」へのーー。
 俺にとっての、やるべきこと、だったので、依頼の報酬と言われても、いまいちピンとこない。
「それなら、アルに渡してくれ」
「故に、持ってきたのだ」
 俺のほうが、先に終わる。
 絶雄は、まだ終わる気配はない。
「『宝剣三種』、というのは、聞いたことがあろう?」
「ああ、絶雄様の『絶剣』と、剣雄様の『聖剣』。あと……、あとは、『竜剣』か何かだったっけか?」
 幻想団が、王都ユングフラウで公演するとき、絶雄役に「絶剣」を貸し出してくれるのだ。
 ネーラに聞いたところによると、「絶剣」の盗難に備え、物々しい警備が敷かれるらしい。
 初対面のときに、無造作に立て掛けられていた、宝剣ーーあれが、そうだ。
「幻想団に貸し出していたのは、複製品レプリカーーというか、偽物だ。本物は、見栄えがせんからな」
「そうなのか?」
「何だ? 実際に目にしているのに、わからぬのか?」
「目に?」
 絶雄が、やっとこ、終わる。
 四英雄との、連れションおたわむれ
 何というか、これで、もう少し、真面に物を考えられそうな気がする。
「……この、安物にしか見えないのが、そうなのか?」
 そうだった。
 俺が使っていた、安物の剣と似ている、この長剣は、絶雄が持ってきたのだった。
 ただの、代物であるはずがない。
「ーーアルは、『絶剣』を受け取らない。俺が持っていれば、なし崩し的に、アルの手に渡るかもしれないということか」
「…………」
「な、何だ、じぃ~と、俺を見て、ーー間違いだったのか?」
 アルに見られるのとは、また違った意味で、不安になってくる。
 魔雄のお負けであるはずの、人種おれに、通常の興味以上の、強い視線を注いでくる。
「ラクン。お主は、アルと旅をした。羨ましい……では、あるが、そうではなく、ーー旅をすることができた。ボルネアとオルタンスのように、庇護を受けることなくだ。それが、どういうことか、わかるか?」
「それは、まぁ、何度も死に掛けたがーー」
「わしは、面倒なことが嫌いだ。故に、言ってしまおう。わしはな、ラクンが、『絶雄わし』の生まれ変わりではないかと、疑っていたのだ」
「……何の、話だ?」
 思考が停止する。
 だというのに、「絶対の主」は、逃げ道を塞ぎ、畳み掛けてくる。
「そうではないのか?」
「……絶雄様は、いつ死霊アンデットになったんだ?」
 あまりと言えばあまりの突飛な話に、そう返すだけで、精一杯だった。
「アルのようなこともあるのだ。わしが生きている間に、『絶雄わし』が現れたとしても、不思議ではあるまい?」
 絶雄は、俺の冗談など歯牙にもかけず、尚も正面から問い質してくる。
「……俺は、絶雄様の、生まれ変わりなのか?」
 否定する言葉は、あるはずなのに。
 圧力に屈した、俺は、手段を失ってあきらめてしまった。
 絶雄ーー四英雄の一人が、ここまで言うのだから、何かしら根拠となるものがあるのかもしれない。
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「……は?」
 あっさりと否定した、絶雄に、俺の思考が暗転する。
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「…………」
 もう、何もなくなってしまった、頭の中に、一縷の望みひかりがあった。
 俺は、そのうさぎに、縋った。
「……っ」
 ーー全軍突撃。
 俺の窮地に駆けつけてくれた、「兎の大軍勢ラビットマーチャー」を、絶雄にけしかける。
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「ーーーー」
 やっぱり、俺は、疲れてこわれているようだ。
 早く戻り、ココネを撫でられるように、もう一度だけ、精神を打擲する。
「ふぅ~」
 知恵者というのは、魔雄アルにこそ、相応しい称号だろう。
 アンリさんだけでも厄介なのに、絶雄まで、俺を買い被るのは、やめて欲しい。
 兎にも角にも、誤解、なのかどうかわからないが、俺が「絶雄」であるとの疑いは晴れたようだ。
 今は、絶雄を見たくないので、視線を逸らし、長剣を見ているとーー。
「ーー黒猫」
「どうした?」
「今、気づいたんだが、黒猫は、『魔雄』になった俺が、安物の剣を持っていても、気にしていなかった。それって、本物の『絶剣』のことを知っていたからーー」
「やはり、ラクンは、『絶雄わし』ではないな。『絶剣』のことを知っている者は、少ない。ヌーテは、黒毛の猫人ジッテンをーー『呪われた子』などという、愚かな過ちを正した。五十年くらい後だったか、その猫人は、ヌーテに会いにきた。だが、ヌーテは、猫人を祝福した年に、アウマクアの御許へと旅立っていたのだ。命日に、花を手向けに、ヌーテに会いに行った、わしは。ーー途方に暮れていた、幼年期の猫人を、ヌーテの墓に連れていき、それから三日間、魔法剣の基礎を教えてやった」
 淡々と、語られる、昔話かこ
 ーー無理だ。
 これだけのものを抱え、俺が、「ラクン・ノウおれ」であることなど、とてもではないが敵わない。
 「アル」のように、「ハビヒ」に呑み込まれる。
「ほれ」
「と、……と?」
 絶雄が、「絶剣」を放り投げてきたので、受け取ると、ーー軽かった。
 最後まで、役目を果たしてくれた、俺の片手剣あいぼうと、同じくらいの重さだった。
「どうも、ラクンの剣を見ていると、物凄く、もどかしいのだ。弱い魔物相手にしか、盾を使わないのなら、片手剣ではなく、長剣にしろ。わしには軽すぎるが、お主には、丁度良かろう」
 剣雄亡き後、絶雄以上に、剣に精通した者はいない。
 そんな存在からの、助言なら、二つ返事で頷きたいところだが、迷う。
「う~ん?」
 絶雄は、忘れているようだが、俺はまだ、冒険者の見習いだ。
 小鬼ゴブリン犬鬼コボルドとの戦いですら、気を抜くことはできない。
 たぶん、俺と絶雄では、「弱い魔物」の範囲が、かなりズレているはず。
「『絶剣これ』。知っている奴が見たら、色々と誤解されないか?」
「問題ない。『絶剣』に関することは、すべて、ティソの策だ。わしは、あ奴を、信頼している」
 問題ありまくりだ。
 あの、熊人ドッソラ
 一度、話し合あのけむくじゃらをわないなでまわさないといけないようだ。
「まぁ、使う分には、問題ない。どうせ、『絶剣これ』は、『壊れない剣』なんだろう?」
「ぶっ、……がっはっはっはっ、ラクン! お主は、若しや、『魔雄ハビヒ』の生まれ変わりではないのか!」
「やめてくれ。それだけは、やめてくれ」
 どんな可能性もありだというなら、魔雄の生まれ変わりが、もう一人いたとしても、おかしくない。
 当然、そんな可能性は、兎の寝床にしてやるおねんねちゅう
「『絶剣』の性質を、よく見抜けたな」
「そこは、別に難しくない。逆に、絶雄様の全力に耐え得る剣が、存在していることのほうが驚きだ」
 四英雄の、規格外の力を発揮しても、壊れない武器。
 「絶剣」は、すべての可能性ポテンシャルを、耐久性に注ぎ込んだのだろう。
 装飾を施す、余裕もなかった。
「ヌーテのほうは、魔法剣だ。その機構の形が装飾じみていてな、『聖剣』の銘に相応しい、ごてごてした剣だ」
「ごてごて……。もう少し、言い方ってものがーー」
「見ればわかるが、本当に、ごてごてした、実用性が感じられん剣だぞ。教会が保管しているはずなのだが、どうもな、失くしたのではないかと、わしは疑っておる」
「そんなことが、あるのか? 『聖剣』ほどの剣なら、魔力とかそこら辺で、在り処がわかりそうなものだが」
「さてな。わしとしては、ヌーテが持ち主でないのなら、どこの誰が持っていようが、構わん」
 愛しい剣雄の形見ーーという認識ではないようだ。
 四英雄の絆とは、ものなんか超越したものなのだろう。
 或いは、教会が絡んでいそうなので、「聖剣」は、剣雄の愛剣というより、教会の所有物のようなものなのかもしれない。
 不意に、絶雄が歩き出したので、横に並ぶと、「魔雄」を通じた仲間きょうはんしゃが、発破を掛けてくる。
「そういうわけだ。これからも、アルを頼むぞ」
「わかった」
 何がどういうわけなのかは、さっぱりだが、一も二もなく頷いてしまった、俺は、もう末期ておくれなのだろう。
 ーー絶雄カステル・グランデの隣を、同じ速度で歩いている。
 アルと出逢う前には、考えもしなかったーー。
「おいおい、絶雄様。このまま歩いていくと、アル以外の奴に、バレるぞ」
「何だ、ラクン。まだ気配も読めんのか? 無属性とはいえ、魔力を制御できるのなら、遣り方しだいで、どうとでもなる」
「そんなことーー」
 反論し掛けたところで、絶雄の言葉の意味を、半分だけ理解する。
「あー」
 風の女神ラカも、寂しそうだった。
 空を見上げれば。
 見物していた、四大神も、帰ってしまったようだ。
 溜め息も出てこない、俺は、見たまんまの事実を、口にするのだった。
「ーー誰も、いないな」
 そうか。
 だから絶雄は、俺と一緒に、ここまで歩いてきたーーと、そこまで考え、意地悪アルの悪巧みに気づいた。
「絶雄様。アルから、俺を引き留めるように、頼まれたな?」
 ーー先に行っているので、ごゆっくり、どうぞ。
 拗ねた、アルが、どんな行動に出るか、俺は、十分に理解していたはずなのに。
 「ごゆっくり」している間に、本当に、無慈悲に、馬車で「先に行って」しまったようだ。
「何のことかのぅ。わしとラクンは、『放水』仲間ではないか。仲間に用事があったから、それを済ませただけのことだ。わしが『魔雄アル』に逆らえないこととは、何も関係がないぞい」
 俺は、もう、とぼけた人竜じじいのことなど、眼中になかった。
 ーーどうするんだ、これ。
 近衛兵や元私兵、伯の一行、と序でにベンズ伯、ーーそれから、ボルネアにオルタンスに。
 最後に、一番大切なーー。
「ーーっ!?」
 その事実に思い至った、刹那、俺は、戦慄した。
 笑顔のアルが、俺の脳裏を過ったが、あんな魔雄やつのことなど、どうでも良い。
「あのっ、魔雄バカ! ココネを誘拐しやがったな!!」
 俺は、心の拠り所を失い、絶叫した。
「アルと同様、動物には好かれない、わしが近寄っても逃げなかった。ラクン想いの、健気な兎だ。大切にしてやれ」
 その声に、俺が振り向いた、途端。
 どんっ、という衝撃波を散らしながら、絶雄が駆け出したとびだした
 たった二歩で、俺の視界から、消えてしまう。
「『アル』と『ハビヒあいつら』……」
 どうやら、俺の次の課題しめいは、魔雄まおうの魔手から、守護兎おひめさま取り戻すすくいだすことに決定したようだ。
「覚えてやがれ!!」
 疲れも、限界だというのに。
 俺は、足取りも軽く、新たな一歩を、踏み出したのだった。





ネ「感謝の~、ふゆふゆ~~ぅ、ふゆふゆ~~ぅ」
ネ「ここまで読んでくださった方ー、感謝感激兎は大暴れー」
ネ「それでねっ、それでねっ、補足と言うかね、風結が書けなかったことが、あるんだよ~!」
ネ「『なにもかくさない』姐さんは、駄々洩れにするって寸法ですねー」
ネ「それなんだけどね、禁句を言えないように、風結に呪いを掛けられちゃったんだよ~。だからねっ、だからねっ、ラクンちゃんにね、解呪してもらってくるんだよ~!」
ネ「おやっ、おやや? 姐さんー、超特急ですねー。もう戻ってきましたー」
ネ「ラクンちゃんのね、一撫でが、急所に入ったんだよ~。これでねっ、これでねっ、アルちゃんが言ってたね、二つか三つとかの、一つを言えるようになったんだよ~」
ネ「僕はー、急所で、ぐったりだったのにー。さすが姐さんですー」
ネ「実はねっ、実はねっ、アルちゃんはね、魔王かもしれないんだよ~?」
ネ「そうなんですかー。それは、とってもー、大変だったりしちゃいますねー」
ネ「カステル様が言うにはね、『獣種三人わしらは、あそこが限界だった。だが、魔雄アルは違う。アルとしての生を全うすれば、単独で魔王を倒せるくらいに、強くなるやもしれん』って言ってたんだよ~」
ネ「タイトルにー、『星唄』ってありますからー、そんなものが、係わってきたりしちゃいますー?」
ネ「他のはね、ネタバレとかに、なっちゃうみたいなんだよ~」
ネ「別にー、うんっ、風結のことなんてー、どうでもいいから、バラしちゃいましょー?」
ネ「そうっ、そうっ、ラクンちゃんがね、あまり活躍できないとか、風結がほざいてたんだよ~?」
ネ「アル様はー、獣種の女性二人以外は、基本的にどうでもいいっぽいですねー。教会の依頼もー、失敗しても、別に構わないー、とかとかー、思っちゃってましたー」
ネ「んっふっふ~、ラクンちゃんはね、頑張ったんだよ~」
ネ「そうですねー。アル様の手のひらの上から、一歩もー、出られてませんけどー」
ネ「それはねっ、それはねっ、次回のお楽しみなんだよ~!」
ネ「お楽しみはー、ずっと先だと思うからー、兎は、寝て待ってますよー」
ネ「お別れの~、なにもかくさないっ!」
ネ「ネーヴだよー?」
ネ「ネーヴちゃん! 真っ裸になっていい許可証を持ってないのにね、角の生えた子供に脱がされちゃったこと、言っちゃうんだよ~?」
ネ「ほやや、えっとー、えっとー? 姐さんー、ごめんなさいー」
ラ「こんなところにいたのか。ほら、ネーラ、帰るぞ」
フ「ネーブも。また迷子にならない内に、戻りましょう」
ネネ「「ぴぃよぉ~~ん、ぴぃよぉ~~ん」」
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