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エーレアリステシアゥナ学園
通路と聖礼殿 入園式と炎竜地竜
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「ちゆ」
「え……?」
「治癒」の「聖語」を刻むクロウ。
叩き潰す威力で打撃を加えたティノですが、残念ながら、ではなく、幸いにも「治癒」で治せる程度の損傷だったようです。
ティノが驚いたのは。
クロウが見事な手際で「聖語」を刻んだのに、「聖名」を唱えなかったからです。
「聖語」で普通に、「ちゆ」と唱えたのです。
もしかしたら、何かの技法かもしれません。
ただ、それにしては威力が弱すぎます。
「ティノは、『聖拳』の使い手なのか?」
そろそろ入園式の時刻になるので、クロウは歩きながら話しかけました。
周囲にはもう、学園生の姿はありません。
ティノは、並んで歩くクロウが近すぎるので、半歩離れてから答えを返します。
「『聖拳』? 普通に叩いただけで、そんな大層な『聖名』なんてないけど」
「『聖名』というか、『流派』のようなものだと聞いている。戦闘に優れているらしいが、確かに、ティノは『聖語』を刻んでいなかった」
「ーーこれ以上近づいたら、『友人候補』から『知り合い』に格下げ」
「……私は、『聖士』の方から体術を習っていた。『聖語』以外でも、自身の身を守れる程度の力は備えておくべきだと。『聖士』の方からも『筋が良い』と褒めていただいたのだが」
「それは、お世辞じゃないかな? だって、クロウは、弱いし」
「うっ……」
「聖士」が何かわからなかったので、ボロがでる前に会話を打ち切ろうとしたティノですが。
クロウの嘘臭い話を聞いて本音を漏らしてしまいました。
それから自覚なしに、ティノは更にクロウを追い込んでゆきます。
「『聖語』も、あんまり上手くないみたいだし、本当に『努力』してきたの?」
「そ、それは……。兄たちに比べれば、私の『聖語』は大したことはないかもしれないが、誓って、『聖語』と向き合う日々から目を背けたことはない」
「う~ん? クロウが頭がいいっていうのはわかるんだけど。僕の知っている人と、少し似ているし。でもなぁ」
それくらいにしておけ。
マルが肩を叩いてきたので、ティノは追及をやめました。
少し言い過ぎたかもしれません。
……凹。
……凹。
クロウの足取りが頼りないものになったので、仕方がなくティノは質問することにしました。
「あれが『聖技場』なんだよね? でっかい、というか、派手というか、建物を囲う八本の柱に、『八竜』が絡みついているんだけど」
一番目立つ左の柱には、炎竜。
当然と言うべきか、右は暗竜でした。
一番目立たない奥の柱には、地竜。
イオラングリディアへの意趣返しでしょうか。
「ああ、あの建物は、『聖技場』に付属するものだ。式典を行ったり、控え室や訓練施設などの部屋があったりと、補助的な役割をしているようだ。『聖技場』は、ここからは見えないが、建物の裏にある」
「え? 『聖技場』は、この建物より大きいの?」
「話では、『聖域』のすべての人間ーー一万人を収容できると聞いている」
「ええ……。ちょっと、想像できない……」
ティノと普通に会話ができているので、クロウの足音が「凸凸凸」になりました。
建物ーー「聖礼殿」の扉も見事なものでした。
持送りアーチの、両開きの扉。
『聖語』で戦う人々が高浮き彫りで描かれています。
遣り過ぎではないか。
ティノの率直な感想でした。
何かもう、凄すぎて、ティノは訳がわからなくなってきました。
「遠くからではわからなかったが、皆が足をとめていたのは、こういうことだったのか」
「え?」
扉の前でとまっていた学園生たち。
壮麗な扉に魅入って足をとめていたのかと思いましたが、どうも違うようです。
クロウが指差していたのは、正面や上ではなく、下。
そこには、幅が広い正方形の箱があって。
「イオリ置き場」。
他人にとっては、意味不明なプレートが貼りつけられていました。
「あー、うん、話は聞いているよ。寮で料理を作ってくれる人たちが回収してくれるって。こんなものを造っていたのは知らなかったけど」
「ティ~ノ~、ティ~ノ~、ティノティノティ~ノ~」
ティノは箱に「イオリ袋」を入れました。
それから、少しだけ悩んでから。
イオリの頭の上にマルを置きました。
「じゃあ、行ってくるね。マル、イオリのことをよろしく」
「ワンっ」
さすがに保護者づれ、もとい友達と一緒に入園式に出席はよくないと、ティノは判断しました。
マルが居れば、イオリは大丈夫。
肩と背中の温かみが、緩やかな風で吹き払われてしまいます。
喪失感を誤魔化すように、ティノは固まってしまったクロウに尋ねました。
「で。どうしたの?」
「いや、ティノには醜態を見せてしまったが、一応、『八創家』の者として、相応しい振る舞いをしないといけないと思って」
クロウは深呼吸。
眉間にしわが寄って、むずかしい表情になったクロウを見て。
ティノは、今更ながら緊張してきてしまいました。
時間をかけるのは良くない。
ティノはクロウを置き去りに、重く、音もなく開く扉を押しました。
室内もまた、外見に負けず劣らず華美なものでしたが。
ティノには眺めまわす余裕などありません。
予定外のティノを入れ、41名。
初周期は、少なくても構わない。
ティノは、アリスの言葉を思いだしました。
確かに、人数としては多くありませんが。
すべての者が、ティノと同周期。
生まれて初めての状況に、緊張感が弥増してゆきます。
皆、中央に並べられた椅子に座っていて、後ろの二つの席が空いています。
前列から順に座っていったのでしょう。
扉が開き、風が迷い込んできたので、学園生の数人が振り返りました。
振り返った数人はそのまま。
視線を奪われます。
他の学園生もそれに気づき、皆が背後に視線を向けました。
普通に歩いているだけ。
クロウはそう言うでしょうが、「完璧」な歩行に、その容姿と相俟って、まるでそこに光が灯ったかのような存在感。
そんな彼らの視線が右に。
後ろに隠れるのは情けないので、ティノは頑張ってクロウの左を、並んで歩いています。
クロウと、その隣の、ティノ。
嫉妬や羨望、憧憬や嫌悪。
学園生の顔に、様々な感情が宿りそうになったところでーー。
炎が猛りました。
学園生は、誰一人として、一段高くなった舞台のほうを見ていなかったというのに。
全員が一斉に、顔を元の位置に戻します。
咲き誇る、紅い薔薇。
人の形をした、美の極限。
「隠蔽」で角を隠した、ドレス姿のアリスが舞台の袖から現れます。
ティノ以外の、すべての存在が平伏しました。
そう思えてしまうくらい圧倒的な存在感でした。
アリスに比べれば、クロウなど形無し。
もう誰も、二人を意識などしていません。
これ幸いと、さっさと着席しようとしたティノですが。
「ティノ。遅いわよ。ーーそうね、どうせあとでわかることだから、今、言ってしまいましょう。ティノは、私の妹よ」
いきなり遣ってくれました。
殿内がどよめき、ティノとアリスの間を視線が行き交います。
わずかな反抗心。
それが良くなかったのかもしれません。
遣られっ放しは面白くありません。
ティノはアリスの思惑に乗ることで、彼女の企みを打破しようと考えました。
「ふふ、いけませんよ、お姉様。このような場所で、『おイタ』をなさっては」
「書庫」で読んだ物語の、「お姫さま」の真似をしました。
口元を手で隠し、軽く首を傾け、イオリに笑いかけるように優しく微笑みます。
イオリに向ける笑顔。
そんなものを人様に向ければどうなるか、どうやらティノはわかっていないようです。
被害者を量産してしまいました。
「駄目よ、ティノ。学園では『お姉様』ではなく『学園長』と呼ぶようにと、言ってあるでしょう?」
「は?」
台本でもあるかのように、アリスは自然に返してきました。
アリスの言葉を、そのまま受け取ってしまったティノですが。
まるでノルマでもこなしたかのように満足気な笑顔を浮かべたアリスを見て、もう何がなんだかわからなくなってしまいます。
「……うわ」
失敗した。
よく考えずに行動してしまったことを、ティノは後悔しました。
やはりそうだったんだ。
表情は変わらないクロウでしたが。
目だけはギラギラと輝いていました。
見なかったことにしよう。
さっさと空いた席に座ろうとして。
先にクロウに座られてしまいました。
クロウの、隣の席の少年がムッとした表情になりますが、クロウは涼しい顔。
この遣り取りを理解できなかったティノは、首を傾げながらも右端の席に座とうとしてーー。
「どうかしたのか、ティノ?」
「ううん、何でもないよ」
一つ、溜め息を吐いてから、ティノは席に座りました。
「姉妹と言ってもね、私とティノは、血はつながっていないのよ。私ーーアリスと血がつながっているのは、そちらの弟ーーベズよ」
静寂。
アリスで燃え上がった雰囲気が、穏やかに散ってゆきます。
二十歳ほどの男性が、いつの間にか舞台に佇んでいました。
ーー竜。
イオリ、イオラングリディア、アリス、スグリと、四竜と逢ってきたティノにはわかります。
この気配と魔力は、ーー地竜です。
ただ、男性ーー地竜ベズミナガルガンデの正体を見抜いたティノでしたが、他の学園生と同様に、彼の姿に魅入ってしまいました。
それも仕方がありません。
ベズの容姿は。
ティノがなりたいと思っている男性像、そのものだったのです。
アリスよりも高いが、高すぎない身長。
筋肉質ではないが、力強い四肢。
渋い、とでも言えそうな男らしさがありますが、顔が整っている分、良性の「男っぷり」を放っています。
何より、あの落ち着き。
大人の魅力が満載。
ティノの目には、そんな風に映っています。
「こちらもあとでわかることだから、言ってしまうのだけれど。私はアリス・ランティノール。弟は、ベズ・ランティノール。あの、ファルワール・ランティノールの孫よ」
イオリとマルを「聖人形」としたように、アリスとベズは「ランティノールの孫」ということになっています。
学園を創ることができたのも、「孫」の威光があってのことです。
そうでなければ、「八創家」は何だかんだ条件をだし、許可しなかったでしょう。
「ランティノール?」
「そうか、あの、ランティノールか」
学園生の反応は二種類。
クロウを含めた、十人程の学園生が心得顔で頷いていました。
恐らく、「八創家」の関係者なのでしょう。
それ以外の学園生は、ランティノールのことを知らないようです。
アリスから事前に聞かされていたティノですが。
今でも信じられない気分です。
そう、アリスから明かされた部分だけでも信じられないのですから、真実を打ち明けられたらどうなってしまうでしょう。
ティノはまだ、「聖語」を創ったのがランティノールだということを知りません。
今ある根幹を創ったーーその意味を知るのは、まだまだ先のことです。
学園生は、アリスが竜だということを知りません。
魔力のことを知りません。
でも、目の前の存在から、何かを感じ取りました。
ただ、そこに居て、正面を向いた瞬間。
透明な衝動が駆け抜けました。
余分なものが塵となって、燃え尽き、清浄な気配に包まれます。
人は生まれながらに炎に惹かれる。
ティノは、物語の主人公の台詞を思いだしました。
誰一人、アリスから目を逸らすことができません。
「北の『開拓地』で、毎日毎日、ティノは仕事に励んでいたわ。ティノには夢があった。でも、漠然とし過ぎて、夢に至る道を歩くことはできなかったでしょう。そんな足踏みをしていたティノを、連れだすときに私が言った言葉ーー」
突然、自分のことに言及され、驚いたティノですが。
あのとき、胸に去来した想いがよみがえります。
「ーーあなたは、まだ何者でもない。ここに居る学園生は皆、ーー将来が決まっている者が居たとしても、まだ道を歩いていない、まだ何もしていない。何者でもないーーということ。それは、裏を返せば、何者にでもなれるということ。エーレアリステシアゥナ学園、ここはその為の場所よ。自分が何者であるか、それを決めるのはあなたたち。私たちは、その手伝いをするだけ」
アリスの炎。
ティノはようやく、その熱さの欠片を理解しました。
「でも、それだけじゃ詰まらないわ。同周期の者が、こうして一堂に会するなんて、あまり無いことだもの。ーーだから、楽しみなさい。今、このときにしかできないことを、遣りなさい。それを遣っても構わないのだと、私とこの学園が保証してあげる。人生で重要な時期の、二周期。それをどうするかは、あなたたちしだい。まだ、わからないでしょうが、『聖語』の未来を切り拓くのはあなたたち。道の向こうに歩いてゆくのも、あなたたち。ーーもう一度、言うわ。この二学周期を、私と一緒に楽しみましょう」
アリスが創り上げた学園。
その始まりに。
ティノは祝福するように、アリスが嫌がることを率先して行いました。
小さな、それでいて、殿内に反響する暖かな音。
先ず、ティノの隣のクロウが倣い、二つの音が重なります。
そこから波のように拡がって。
「聖礼殿」が拍手の音で満たされます。
一巡りを一緒に過ごし、ティノはアリスのことが好きになりました。
マルのことが好きになりました。
一竜と一獣のことを知りました。
そしてこれから、学園で二周期を過ごすことになります。
笑ってはいけません。
何気ない顔をしていますが、アリスは照れています。
それがわかってしまったので、ティノはうっかり笑ってしまいました。
「さてと、らしくないことを言ったから、ここからは普通に遣らせてもらうわ。ベズの提案で、これからクラス分けの試験を行うことにしたわ。上位20人と、下位21人の二クラス。まぁ、私の構想とも一致しているから、許可したわ。それでは皆、立ち上がりなさい」
ーー試験。
予想外の事態に、動揺した学園生たちは唯々諾々とアリスの言葉に従います。
皆が椅子から立ち上がると、アリスは残念そうに言いました。
「皆、椅子を見なさい。番号が書いてあるでしょう。椅子の番号が1番から20番の者は校舎の三階へ。21番から41番は、二階へ移動してちょうだい。ーー椅子に番号が書かれていることに事前に気づいた者がいたら、無条件で上位クラスだったのだけれど。残念ながら、居なかったようね」
「聖語」による「隠蔽」。
当然、アリスは手心を加えたのですが、それでも気づく者はいませんでした。
これは、思っていた以上に大変そうです。
アリスの企みを聞き、悔しそうにしている者が数人いました。
主に「八創家」の学園生でしたが。
その「八創家」の一人であるクロウは、声を上げようとしてティノに手をつかまれました。
「クロウ、駄目」
「だが、しかし……」
「これはそういうものじゃないから、わかって」
小声での遣り取り。
席に座る前、ティノが何かを気にしていたのを、クロウは思いだしたのです。
ティノの言葉に、納得がいかないクロウでしたが。
ティノの真剣な目を見て、妥協しました。
ティノが座席の番号に気づいたことを知っているのは、クロウだけ。
着席する前に、ティノが声を上げなかったので、証拠はクロウの証言だけです。
ここで無理に押し通そうとしなくても。
ティノなら試験で上位クラスになると、クロウは判断したようです。
悪目立ちしたくない。
クロウはそう推察しましたが、真実はもう少し複雑でした。
椅子に書かれていたアリスの言葉をクロウに伝えようとしたところで。
ティノの「感知」に引っかかります。
学園生が校舎に向かい、「聖礼殿」から退場してゆく最中に。
冷たい視線が突き刺さってきます。
最前列の、左端。
場所からして、「聖礼殿」に最も早く来た学園生でしょう。
優等生。
その少女を見た、ティノの素直な感想でした。
クロウと似た雰囲気があります。
恐らく、彼女も「八創家」の者なのでしょう。
「うっ……」
「どうしたの?」
「いや、幼い頃に、何度か会ったことがある知り合いが居たのだが。……思いっ切り睨まれてしまった」
少女を見てみると、もうこちらを見ていませんでした。
クロウと同様に、歩き方一つとっても周囲の学園生とは異なっています。
睨まれる理由に心当たりはないので、すべての責任はクロウにあるとティノは納得しました。
「僕のときと同じように、何か、酷いことでもしたの?」
「いや、その……、子供の頃のことだし、少しだけ、苛めてしまったような気がしないでもないというか……」
「ああ、なるほどね。好きな子は苛める、とか子供特有のアレのこと?」
「いいや、その、それは別に間違いではないかもしれないが、何というか……」
「僕に言い訳してどうするの。ちゃんと彼女に謝って、仲直りしないと駄目だよ」
「……はい」
……凹。
……凹。
……凸凸。
凹凹だったクロウは、突如凸凸になりました。
そうです。
学園生活を充実させたものにする為にも、是非にも尋ねなければならないことがあるのです。
最後尾のクロウは胸をときめかせながら、床に崩れ落ちました。
「感知」で確認するまでもなく、最後尾なので問題ありません。
ティノは、クロウに腹パンしてから、絶望の言葉を投げ落としました。
「アリスさんが妹とか言っていたけど。あれ、冗談だから。ーー僕は男。僕は男。僕は男。はい、復唱」
「っ……」
復唱しなかった、もとい声がだせなかったクロウを置き去りに、ティノは去ってゆきました。
幸いなことに、腹パンを目撃していたベズが助けてあげたので、クロウは試験に間に合いました。
「え……?」
「治癒」の「聖語」を刻むクロウ。
叩き潰す威力で打撃を加えたティノですが、残念ながら、ではなく、幸いにも「治癒」で治せる程度の損傷だったようです。
ティノが驚いたのは。
クロウが見事な手際で「聖語」を刻んだのに、「聖名」を唱えなかったからです。
「聖語」で普通に、「ちゆ」と唱えたのです。
もしかしたら、何かの技法かもしれません。
ただ、それにしては威力が弱すぎます。
「ティノは、『聖拳』の使い手なのか?」
そろそろ入園式の時刻になるので、クロウは歩きながら話しかけました。
周囲にはもう、学園生の姿はありません。
ティノは、並んで歩くクロウが近すぎるので、半歩離れてから答えを返します。
「『聖拳』? 普通に叩いただけで、そんな大層な『聖名』なんてないけど」
「『聖名』というか、『流派』のようなものだと聞いている。戦闘に優れているらしいが、確かに、ティノは『聖語』を刻んでいなかった」
「ーーこれ以上近づいたら、『友人候補』から『知り合い』に格下げ」
「……私は、『聖士』の方から体術を習っていた。『聖語』以外でも、自身の身を守れる程度の力は備えておくべきだと。『聖士』の方からも『筋が良い』と褒めていただいたのだが」
「それは、お世辞じゃないかな? だって、クロウは、弱いし」
「うっ……」
「聖士」が何かわからなかったので、ボロがでる前に会話を打ち切ろうとしたティノですが。
クロウの嘘臭い話を聞いて本音を漏らしてしまいました。
それから自覚なしに、ティノは更にクロウを追い込んでゆきます。
「『聖語』も、あんまり上手くないみたいだし、本当に『努力』してきたの?」
「そ、それは……。兄たちに比べれば、私の『聖語』は大したことはないかもしれないが、誓って、『聖語』と向き合う日々から目を背けたことはない」
「う~ん? クロウが頭がいいっていうのはわかるんだけど。僕の知っている人と、少し似ているし。でもなぁ」
それくらいにしておけ。
マルが肩を叩いてきたので、ティノは追及をやめました。
少し言い過ぎたかもしれません。
……凹。
……凹。
クロウの足取りが頼りないものになったので、仕方がなくティノは質問することにしました。
「あれが『聖技場』なんだよね? でっかい、というか、派手というか、建物を囲う八本の柱に、『八竜』が絡みついているんだけど」
一番目立つ左の柱には、炎竜。
当然と言うべきか、右は暗竜でした。
一番目立たない奥の柱には、地竜。
イオラングリディアへの意趣返しでしょうか。
「ああ、あの建物は、『聖技場』に付属するものだ。式典を行ったり、控え室や訓練施設などの部屋があったりと、補助的な役割をしているようだ。『聖技場』は、ここからは見えないが、建物の裏にある」
「え? 『聖技場』は、この建物より大きいの?」
「話では、『聖域』のすべての人間ーー一万人を収容できると聞いている」
「ええ……。ちょっと、想像できない……」
ティノと普通に会話ができているので、クロウの足音が「凸凸凸」になりました。
建物ーー「聖礼殿」の扉も見事なものでした。
持送りアーチの、両開きの扉。
『聖語』で戦う人々が高浮き彫りで描かれています。
遣り過ぎではないか。
ティノの率直な感想でした。
何かもう、凄すぎて、ティノは訳がわからなくなってきました。
「遠くからではわからなかったが、皆が足をとめていたのは、こういうことだったのか」
「え?」
扉の前でとまっていた学園生たち。
壮麗な扉に魅入って足をとめていたのかと思いましたが、どうも違うようです。
クロウが指差していたのは、正面や上ではなく、下。
そこには、幅が広い正方形の箱があって。
「イオリ置き場」。
他人にとっては、意味不明なプレートが貼りつけられていました。
「あー、うん、話は聞いているよ。寮で料理を作ってくれる人たちが回収してくれるって。こんなものを造っていたのは知らなかったけど」
「ティ~ノ~、ティ~ノ~、ティノティノティ~ノ~」
ティノは箱に「イオリ袋」を入れました。
それから、少しだけ悩んでから。
イオリの頭の上にマルを置きました。
「じゃあ、行ってくるね。マル、イオリのことをよろしく」
「ワンっ」
さすがに保護者づれ、もとい友達と一緒に入園式に出席はよくないと、ティノは判断しました。
マルが居れば、イオリは大丈夫。
肩と背中の温かみが、緩やかな風で吹き払われてしまいます。
喪失感を誤魔化すように、ティノは固まってしまったクロウに尋ねました。
「で。どうしたの?」
「いや、ティノには醜態を見せてしまったが、一応、『八創家』の者として、相応しい振る舞いをしないといけないと思って」
クロウは深呼吸。
眉間にしわが寄って、むずかしい表情になったクロウを見て。
ティノは、今更ながら緊張してきてしまいました。
時間をかけるのは良くない。
ティノはクロウを置き去りに、重く、音もなく開く扉を押しました。
室内もまた、外見に負けず劣らず華美なものでしたが。
ティノには眺めまわす余裕などありません。
予定外のティノを入れ、41名。
初周期は、少なくても構わない。
ティノは、アリスの言葉を思いだしました。
確かに、人数としては多くありませんが。
すべての者が、ティノと同周期。
生まれて初めての状況に、緊張感が弥増してゆきます。
皆、中央に並べられた椅子に座っていて、後ろの二つの席が空いています。
前列から順に座っていったのでしょう。
扉が開き、風が迷い込んできたので、学園生の数人が振り返りました。
振り返った数人はそのまま。
視線を奪われます。
他の学園生もそれに気づき、皆が背後に視線を向けました。
普通に歩いているだけ。
クロウはそう言うでしょうが、「完璧」な歩行に、その容姿と相俟って、まるでそこに光が灯ったかのような存在感。
そんな彼らの視線が右に。
後ろに隠れるのは情けないので、ティノは頑張ってクロウの左を、並んで歩いています。
クロウと、その隣の、ティノ。
嫉妬や羨望、憧憬や嫌悪。
学園生の顔に、様々な感情が宿りそうになったところでーー。
炎が猛りました。
学園生は、誰一人として、一段高くなった舞台のほうを見ていなかったというのに。
全員が一斉に、顔を元の位置に戻します。
咲き誇る、紅い薔薇。
人の形をした、美の極限。
「隠蔽」で角を隠した、ドレス姿のアリスが舞台の袖から現れます。
ティノ以外の、すべての存在が平伏しました。
そう思えてしまうくらい圧倒的な存在感でした。
アリスに比べれば、クロウなど形無し。
もう誰も、二人を意識などしていません。
これ幸いと、さっさと着席しようとしたティノですが。
「ティノ。遅いわよ。ーーそうね、どうせあとでわかることだから、今、言ってしまいましょう。ティノは、私の妹よ」
いきなり遣ってくれました。
殿内がどよめき、ティノとアリスの間を視線が行き交います。
わずかな反抗心。
それが良くなかったのかもしれません。
遣られっ放しは面白くありません。
ティノはアリスの思惑に乗ることで、彼女の企みを打破しようと考えました。
「ふふ、いけませんよ、お姉様。このような場所で、『おイタ』をなさっては」
「書庫」で読んだ物語の、「お姫さま」の真似をしました。
口元を手で隠し、軽く首を傾け、イオリに笑いかけるように優しく微笑みます。
イオリに向ける笑顔。
そんなものを人様に向ければどうなるか、どうやらティノはわかっていないようです。
被害者を量産してしまいました。
「駄目よ、ティノ。学園では『お姉様』ではなく『学園長』と呼ぶようにと、言ってあるでしょう?」
「は?」
台本でもあるかのように、アリスは自然に返してきました。
アリスの言葉を、そのまま受け取ってしまったティノですが。
まるでノルマでもこなしたかのように満足気な笑顔を浮かべたアリスを見て、もう何がなんだかわからなくなってしまいます。
「……うわ」
失敗した。
よく考えずに行動してしまったことを、ティノは後悔しました。
やはりそうだったんだ。
表情は変わらないクロウでしたが。
目だけはギラギラと輝いていました。
見なかったことにしよう。
さっさと空いた席に座ろうとして。
先にクロウに座られてしまいました。
クロウの、隣の席の少年がムッとした表情になりますが、クロウは涼しい顔。
この遣り取りを理解できなかったティノは、首を傾げながらも右端の席に座とうとしてーー。
「どうかしたのか、ティノ?」
「ううん、何でもないよ」
一つ、溜め息を吐いてから、ティノは席に座りました。
「姉妹と言ってもね、私とティノは、血はつながっていないのよ。私ーーアリスと血がつながっているのは、そちらの弟ーーベズよ」
静寂。
アリスで燃え上がった雰囲気が、穏やかに散ってゆきます。
二十歳ほどの男性が、いつの間にか舞台に佇んでいました。
ーー竜。
イオリ、イオラングリディア、アリス、スグリと、四竜と逢ってきたティノにはわかります。
この気配と魔力は、ーー地竜です。
ただ、男性ーー地竜ベズミナガルガンデの正体を見抜いたティノでしたが、他の学園生と同様に、彼の姿に魅入ってしまいました。
それも仕方がありません。
ベズの容姿は。
ティノがなりたいと思っている男性像、そのものだったのです。
アリスよりも高いが、高すぎない身長。
筋肉質ではないが、力強い四肢。
渋い、とでも言えそうな男らしさがありますが、顔が整っている分、良性の「男っぷり」を放っています。
何より、あの落ち着き。
大人の魅力が満載。
ティノの目には、そんな風に映っています。
「こちらもあとでわかることだから、言ってしまうのだけれど。私はアリス・ランティノール。弟は、ベズ・ランティノール。あの、ファルワール・ランティノールの孫よ」
イオリとマルを「聖人形」としたように、アリスとベズは「ランティノールの孫」ということになっています。
学園を創ることができたのも、「孫」の威光があってのことです。
そうでなければ、「八創家」は何だかんだ条件をだし、許可しなかったでしょう。
「ランティノール?」
「そうか、あの、ランティノールか」
学園生の反応は二種類。
クロウを含めた、十人程の学園生が心得顔で頷いていました。
恐らく、「八創家」の関係者なのでしょう。
それ以外の学園生は、ランティノールのことを知らないようです。
アリスから事前に聞かされていたティノですが。
今でも信じられない気分です。
そう、アリスから明かされた部分だけでも信じられないのですから、真実を打ち明けられたらどうなってしまうでしょう。
ティノはまだ、「聖語」を創ったのがランティノールだということを知りません。
今ある根幹を創ったーーその意味を知るのは、まだまだ先のことです。
学園生は、アリスが竜だということを知りません。
魔力のことを知りません。
でも、目の前の存在から、何かを感じ取りました。
ただ、そこに居て、正面を向いた瞬間。
透明な衝動が駆け抜けました。
余分なものが塵となって、燃え尽き、清浄な気配に包まれます。
人は生まれながらに炎に惹かれる。
ティノは、物語の主人公の台詞を思いだしました。
誰一人、アリスから目を逸らすことができません。
「北の『開拓地』で、毎日毎日、ティノは仕事に励んでいたわ。ティノには夢があった。でも、漠然とし過ぎて、夢に至る道を歩くことはできなかったでしょう。そんな足踏みをしていたティノを、連れだすときに私が言った言葉ーー」
突然、自分のことに言及され、驚いたティノですが。
あのとき、胸に去来した想いがよみがえります。
「ーーあなたは、まだ何者でもない。ここに居る学園生は皆、ーー将来が決まっている者が居たとしても、まだ道を歩いていない、まだ何もしていない。何者でもないーーということ。それは、裏を返せば、何者にでもなれるということ。エーレアリステシアゥナ学園、ここはその為の場所よ。自分が何者であるか、それを決めるのはあなたたち。私たちは、その手伝いをするだけ」
アリスの炎。
ティノはようやく、その熱さの欠片を理解しました。
「でも、それだけじゃ詰まらないわ。同周期の者が、こうして一堂に会するなんて、あまり無いことだもの。ーーだから、楽しみなさい。今、このときにしかできないことを、遣りなさい。それを遣っても構わないのだと、私とこの学園が保証してあげる。人生で重要な時期の、二周期。それをどうするかは、あなたたちしだい。まだ、わからないでしょうが、『聖語』の未来を切り拓くのはあなたたち。道の向こうに歩いてゆくのも、あなたたち。ーーもう一度、言うわ。この二学周期を、私と一緒に楽しみましょう」
アリスが創り上げた学園。
その始まりに。
ティノは祝福するように、アリスが嫌がることを率先して行いました。
小さな、それでいて、殿内に反響する暖かな音。
先ず、ティノの隣のクロウが倣い、二つの音が重なります。
そこから波のように拡がって。
「聖礼殿」が拍手の音で満たされます。
一巡りを一緒に過ごし、ティノはアリスのことが好きになりました。
マルのことが好きになりました。
一竜と一獣のことを知りました。
そしてこれから、学園で二周期を過ごすことになります。
笑ってはいけません。
何気ない顔をしていますが、アリスは照れています。
それがわかってしまったので、ティノはうっかり笑ってしまいました。
「さてと、らしくないことを言ったから、ここからは普通に遣らせてもらうわ。ベズの提案で、これからクラス分けの試験を行うことにしたわ。上位20人と、下位21人の二クラス。まぁ、私の構想とも一致しているから、許可したわ。それでは皆、立ち上がりなさい」
ーー試験。
予想外の事態に、動揺した学園生たちは唯々諾々とアリスの言葉に従います。
皆が椅子から立ち上がると、アリスは残念そうに言いました。
「皆、椅子を見なさい。番号が書いてあるでしょう。椅子の番号が1番から20番の者は校舎の三階へ。21番から41番は、二階へ移動してちょうだい。ーー椅子に番号が書かれていることに事前に気づいた者がいたら、無条件で上位クラスだったのだけれど。残念ながら、居なかったようね」
「聖語」による「隠蔽」。
当然、アリスは手心を加えたのですが、それでも気づく者はいませんでした。
これは、思っていた以上に大変そうです。
アリスの企みを聞き、悔しそうにしている者が数人いました。
主に「八創家」の学園生でしたが。
その「八創家」の一人であるクロウは、声を上げようとしてティノに手をつかまれました。
「クロウ、駄目」
「だが、しかし……」
「これはそういうものじゃないから、わかって」
小声での遣り取り。
席に座る前、ティノが何かを気にしていたのを、クロウは思いだしたのです。
ティノの言葉に、納得がいかないクロウでしたが。
ティノの真剣な目を見て、妥協しました。
ティノが座席の番号に気づいたことを知っているのは、クロウだけ。
着席する前に、ティノが声を上げなかったので、証拠はクロウの証言だけです。
ここで無理に押し通そうとしなくても。
ティノなら試験で上位クラスになると、クロウは判断したようです。
悪目立ちしたくない。
クロウはそう推察しましたが、真実はもう少し複雑でした。
椅子に書かれていたアリスの言葉をクロウに伝えようとしたところで。
ティノの「感知」に引っかかります。
学園生が校舎に向かい、「聖礼殿」から退場してゆく最中に。
冷たい視線が突き刺さってきます。
最前列の、左端。
場所からして、「聖礼殿」に最も早く来た学園生でしょう。
優等生。
その少女を見た、ティノの素直な感想でした。
クロウと似た雰囲気があります。
恐らく、彼女も「八創家」の者なのでしょう。
「うっ……」
「どうしたの?」
「いや、幼い頃に、何度か会ったことがある知り合いが居たのだが。……思いっ切り睨まれてしまった」
少女を見てみると、もうこちらを見ていませんでした。
クロウと同様に、歩き方一つとっても周囲の学園生とは異なっています。
睨まれる理由に心当たりはないので、すべての責任はクロウにあるとティノは納得しました。
「僕のときと同じように、何か、酷いことでもしたの?」
「いや、その……、子供の頃のことだし、少しだけ、苛めてしまったような気がしないでもないというか……」
「ああ、なるほどね。好きな子は苛める、とか子供特有のアレのこと?」
「いいや、その、それは別に間違いではないかもしれないが、何というか……」
「僕に言い訳してどうするの。ちゃんと彼女に謝って、仲直りしないと駄目だよ」
「……はい」
……凹。
……凹。
……凸凸。
凹凹だったクロウは、突如凸凸になりました。
そうです。
学園生活を充実させたものにする為にも、是非にも尋ねなければならないことがあるのです。
最後尾のクロウは胸をときめかせながら、床に崩れ落ちました。
「感知」で確認するまでもなく、最後尾なので問題ありません。
ティノは、クロウに腹パンしてから、絶望の言葉を投げ落としました。
「アリスさんが妹とか言っていたけど。あれ、冗談だから。ーー僕は男。僕は男。僕は男。はい、復唱」
「っ……」
復唱しなかった、もとい声がだせなかったクロウを置き去りに、ティノは去ってゆきました。
幸いなことに、腹パンを目撃していたベズが助けてあげたので、クロウは試験に間に合いました。
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