竜の庵の聖語使い

風結

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対抗戦

教室  「対抗戦」の出場班決定

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 ーー奢侈、栄耀、贅物。
 ティノが「お題」をだしたので、マルはペンをくわえ、「聖板」に「聖語」を刻みました。
 三千周期生きているだけあって、ティノが知らない言葉が並んでゆきます。

 「お題」は、「贅沢」。
 冬から春へ、やっとこ一歩、踏みだしたところ。
 アリスのーー炎竜の塒があるので、「セレステナ聖地」の冬は「下界」に比べれば厳しくありません。

 「贅沢」を「お題」にしたのは、教室内がぽっかぽかだからです。
 ベズが開発した、暖房器具ーー「聖暖房」。
 上部に取りつけられた石板に「聖語」を刻むことで、半時ほど熱を放出するという優れ物。
 「結界」が上達するまで、イオリだけが「暖房竜」だったティノからすれば、まさに天の国。

 大量生産はできないとのことで、「聖域テト・ラーナ」には出回っていません。
 「聖暖房」に「聖語」を刻むのは当番制で、今日はイゴが当番です。
 得意不得意がなく、基本を着実に身につけたイゴは。
 「聖暖房」の持続時間も、しっかりと平均を超えています。

 寮では、「温水暖房」というか「炎竜暖房」になっていて、毎日アリスが魔石に息吹ブレスを吹きかけています。
 原理が雑、というか手抜きですが、バレなければ問題ありません。

 席替えはなかったので、今でもティノの席は左の最後尾。
 次の「お題」は、「日常」。

 夏から秋、秋から冬へ。
 結局、あれから何もありませんでした。
 いえ、何度か死にかけましたが、それもまたティノの「日常」。
 「聖休」を過ごし、スグリは留守、アリスが爆発、学園に戻り、変わらないようで変わり続ける「日常」の始まり。

 「敵」への怒りも、五星巡りは持続しません。
 当然、「敵」と遭遇すれば燃え上がりますが、今は「日常」に埋没中。

  ーー行屎送尿、坐作進退、事上磨錬。
 もはや読み方もわかりません。
 ただ、何となくですが、後ろの二つは、ティノを当て擦っているような感じが伝わってきます。

 「日常」にも節目節目があって、今日はわりかし大きな節目があります。
 教室内は熱気に包まれていますが、ティノは三つ目の「お題」を考えながら、マルを撫でました。

 冬でもアリスの露出は変わりません。
 真っ赤なコートの前を閉めれば暖かそうですが、アリスは炎竜なので、そもそも寒さなど屁でもありません。
 学園生には外套ローブが支給されましたが。
 制服以上に派手だったので、ティノはなるべく着ないようにしています。

「さ~て、お待ちかねの発表よ! 泣いても笑っても、これで『対抗戦』に出場する班が決定するわ!」

 教室内の熱気は最高潮。
 それはもう熱々で、アリスもうはうはです。
 反面。
 ティノがなぜ、こんなにも冷めているかというと。
 彼には関係のない行事だからです。

 いえ、まったく関係がないわけではありません。
 炎竜組の催し物もありますし、同じ班の仲間がーー「邪聖班」の皆が「対抗戦」に出場するのですから、しっかりと応援しないといけません。
 そう、ティノは昨日の内に、アリスから「対抗戦」のメンバーを聞いていたのです。

 「対抗戦」に出場したいかと問われれば、微妙なのですが。
 やはり、仲間外れは嫌なのです。
 そんなティノの心情を置き去りに、アリスは「聖語」で演出。

「見事、栄誉を勝ち取ったのは、この班よ!」

 色とりどりの火花が散る中、「黒板」を叩くと、「邪聖班」の「聖語」が浮かび上がってきます。
 ティノが次の「お題」を「決定」に決めたところで。
 マルと双璧を成す、今日も元気な炎竜組のマスコット、エイミーが大爆発。
 アリスに向かって大抗議です。

「意義~、異義~、異議いぎいギイぎイギ異義ありで~す! 皆のお姉ちゃんっ、エイミーが代表して異義っちゃうんだよ~っ!」
「はいはい。聞いてあげるから、早く言いなさい」
「ちょっ!? アリス先生~、あたしの扱いが雑~」

 炎竜組の皆は。
 これまでの成績から、「対抗戦」に出場するのは、エイミーの班か「邪聖班」のどちらかだと見当がついていました。
 エイミーは噴火していますが、半分は本気で、もう半分は確認の為です。

「『邪聖班』は6人いるんだよ~! 5人の『エイミーと愉快な仲間たち』じゃ勝てないんだよ~!」

 ベルゼイを始めとした「愉快な仲間たち」は慣れているので、エイミーが勝手に決めた班名に抗議したりなどしません。
 ただ、エイミーと同じ疑問を抱いているので、明日、気持ち良く「邪聖班」を応援する為にも、後腐れがないようにアリスに払拭ふっしょくしてもらいたいのです。

「『邪聖班』には悪いけれど、始めからティノの点数は加算しないことに決めていたわ。今回の試験は、点数に『幅』がでるように少しむずかし目に設定。そういうわけで、満点のティノを除外。ティノを除いた、炎竜組のトップはソニア。90点ね。二位はリフ。この二人で、最下位のメイリーンの『負債』を『清算』」
「アリス先生~、『負債』とか『清算』とか酷いっす~」
「黙らっしゃい! この、竜に踏まれて『ぺっちゃん』! 『お荷物』とか『マルっころの抜け毛』とか『ティノの弟』とか言わないだけ、感謝しなさい!」
「ごふっ……」

 アリスの言葉で、メイリーンは撃沈。
 ティノはマルの口からペンを抜き、「仔犬」をメイリーンの頭の上に乗せました。
 ぽふっぽふっとメイリーンの頭を叩き、マルは彼女を慰めます。

「あとは、ナインとイゴね。二人が上位に食い込んだから、僅差で『邪聖班』が勝利したというわけね」
「そこぁ、まぁ、悪ぃな。同じ班ってことでよ、ティノに教えてもらう時間がぁ長かったかんな」
「うん、お陰でに時間が使えたし、凄く助かったよ」

 ナインとイゴがティノを見ると、自然とクラスの視線がティノに集まってきます。
 「邪聖班」以外の炎竜組の皆も、薄々感づいていました。

 自分たちとは違う、「何か」。
 見えているもの、語るべき言葉の小さくはない隔たり。

 ティノは、皆と同じ場所には立っていないのです。
 見えない壁、或いは見えない階段の向こうに。
 遠く、見上げる場所から、手を差し伸べてくれていたのです。

 だからこそ、知りたい。
 そんな皆の思いを代弁するかのように、ソニアはーーいつも通り、メイリーンに意地悪をしました。

「ん。最下位の『抜け毛』は補欠。ティノを五試合目の選手とすることに賛成の生徒、挙手」

 ばっ、と教室中で手が上がりました。
 九星巡り経過し、クラスの団結も中々のものです。

「うぅおぉ~、皆っ、酷っ! っていうか、アリス先生まで!?」

 手を挙げていないのは、メイリーンとティノ、それからナインとイゴだけです。
 「抜け毛」発言が気に入らなかったのか、マルはソニアの頭に飛び移って、ぺしぺし彼女の頭を叩いて報復。
 あまり効果がなかったので、尻尾でソニアの首元をくすぐります。

「ワンっ、ワンっ、ワンっ、ワンっ」
「うひっ、うひっ、うひっ、うひっ、うひひっ」
「俺ぁ補欠でいーんだが」
「僕も、『』の使い道が戦いなのはちょっと……」

 ナインが失言しましたが。
 もう前日なので構わないでしょう。
 教室内がまたざわつき始めたので、アリスは黙らせることにしました。

「はいはい。出場メンバーの順番を告知するから、静かにしなさい。黙らないと、ーー燃やすわよ?」

 その瞬間。
 炎竜組の生徒たちは、深海の底に沈んだかのように静かになりました。

 そう、これは脅しではないのです。
 一星巡り前、ティノが火だるまになりました。
 その後、ベズに「治癒」を施され、ティノは普通に授業に参加していましたが。
 命の危機。
 そんな目に遭わされたい人間など存在しません。

「ティノを出場させるかどうかは、『対抗戦』までに決めるつもりだった。ベズと話し合った結果、時期尚早と判断した。というわけで、これは命令、決定事項よ。一試合目はイゴで、相手はファロ。二試合目はナインで、相手はギル。三試合目はソニアーー」

 ここでアリスはいったん、言葉を切ります。
 予想通り、リフが手を挙げ、尋ねてきます。

「アリス先生。ソニアが三試合目なのですか?」
「ええ、そうよ。地竜組の三試合目がフィフェスだから、取られた措置。観客を入れての『対抗戦』は初めてだから、同性対決にしておいたのよ。先ほども言った通り、これは命令、決定事項よ。ーー四試合目はリフ。相手はディズル。何か問題でもあって?」
「いえ、ありません。あるはずがありません。ありがとうございます」

 もはやリフは。
 自分が何を言っているのかもわかりません。

 対戦相手は、ディズル・マホマール。

 リフという人間を、すべてをぶつけられる相手。
 死んでも敗けられない好敵手。
 楽しみ過ぎて、顔が勝手に笑顔になってしまいます。

「リフ、『対抗戦』は明日よ。今から敵愾心を燃やすのはやめておきなさい」
「あの~、アリス先生~、あたし一応、女なんですけど~」
「五試合目はメイリーン。相手はクロウ。ーーメイリーン。対戦時、選手には『結界』を二つ張る。二つ目の『結界』は壊れないから、ーー全力でりなさい」
「うっす!」

 メイリーンの戯言たわごとは無視。
 炎竜が発破をかけると、強制的にメイリーンの魂に大炎が宿ります。

 クロウは強くなりましたが。
 それでも、「聖拳」のメイリーンと対戦するには、役不足ならぬ力不足。

 こうでもしておかないと、五試合目がつまらなくなる。
 いけません。
 アリスは、頭に浮かんだ想念を燃やし尽くしました。

 アリスは内心で溜め息。
 このようなこと、教師が考えることではありません。

 腑抜けた表情のティノ。
 まだ一日ある。
 アリスは催し物の最終確認を指示しながら、ティノの使について考えを巡らせるのでした。
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