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第2章 席替えは運命(妄想)
第6話 幼馴染の「最近楽しそうだな」が刺さる
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嫉妬って、BLだとだいたいこうだ。
『……最近、誰と笑ってんの』
静かに詰める。優しい声のくせに逃げ道を塞ぐ。
続けて落ちるのは、きっとこれ。
『俺だけ見ろ』
(はいはい。テンプレ。強い)
――現実にそんな台詞、あるわけない。
あるわけないのに、そういうのを“あるもの”として知ってる自分が、たまに面倒だ。
昼休みの教室は、ざわざわしていた。
机を寄せる音、購買のパンの袋が擦れる音、誰かの笑い声。
俺はなるべく存在感を消して弁当を開けた。
静かにしていれば目立たない。そういう小さな努力を、毎日積み重ねる。
「朝倉くん」
小鳥遊くんが、いつもの柔らかい声で近づいてきた。
手にはペットボトルと、購買のパン。
「ここ、いい?」
「……うん」
小鳥遊くんは、距離を詰めるのがうまい。
詰めるというより、壁を作らない、みたいな。
「相沢くん、今日早いね。もう食べた?」
小鳥遊くんは、朔にも同じ温度で話しかける。
朔は「まだ」と短く返して、弁当の蓋を開けた。
そこへ、神崎が通りかかる。
視線が集まるのが分かる。本人は気にしていない顔で、当たり前みたいに言った。
「席、詰めていい?」
「いいよ、神崎くん」
小鳥遊くんが言うと、神崎は軽く頷いて座った。
それだけ。なのに空気が整う感じがある。
(……当たり前みたいに声かけて、当たり前みたいに馴染む。
ずるい。こういうの、強い)
俺は内心でそう思って、すぐ自分を止める。
感心しただけだ。……顔に出たら面倒なだけ。
小鳥遊くんが、箸を持ったまま俺を見た。
「朝倉くん、最近ちょっと笑うよね」
「……え」
笑ってない。はずだ。
そう言いかけて、言葉を飲み込む。否定が大きいと目立つ。
「……そうかな」
「うん。ちょっとだけ。ふふ、って」
小鳥遊くんは悪意なく言う。観察結果をそのまま。
俺は箸を持ったまま固まって、弁当の中身を見た。
(……顔、出てた?)
脳内のテンプレが勝手に騒ぐ。
「笑う」って言葉に、変な熱が混じる。こっちは隠してるつもりなのに。
神崎が会話に割り込まず、ただ水を一口飲む。
それが妙に“大人”で、余計に落ち着かない。
朔はと言えば、箸を動かしながらも、一度だけ俺のほうを見た。
すぐ逸らした。逸らすまでが、ほんの一拍だけ遅い。
昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
先生の声が黒板に乗って、教室が静かになる。
俺はノートを取るふりをして、さっきの「笑う」を反芻していた。
笑った覚えは、ある。自分では気づかない程度に。
小鳥遊くんの言い方が面白かったとき。
神崎の“さらっとした気遣い”が、変にツボに入ったとき。
――そして、朔がそれを見ていたかもしれないと想像したとき。
(いや。違う。考えすぎだ)
放課後。帰り支度の音が一斉に立つ。
椅子が鳴って、鞄が持ち上がる。窓の外の光が少し白い。
俺が机の中を探っていると、朔が横に来た。
声はいつも通りなのに、今日は近い。
「伊織」
「……なに」
「消しゴム」
言われて見れば、また端に寄ってる。
俺が無言で内側に寄せると、朔はそれ以上何も言わない。
言わないくせに、視線だけが残る。
俺が顔を上げる前に、朔は一度目を伏せた。
廊下に出て、人の流れに混じる。
小鳥遊くんが少し離れたところから「朝倉くん、またね」と会釈して通り過ぎた。
神崎は誰かに呼ばれて、短く手を上げるだけで去っていく。
俺はそれを“いつもの学校の風景”として処理しようとして、うまくいかなかった。
朔の歩く音が、いつもより静かで、いつもより近い。
昇降口を出たあたりで、朔がぽつりと言った。
「……最近、よく笑うな」
心臓が一度だけ跳ねる。
責める声じゃない。確認するみたいな、ただの事実。
「……そう?」
「うん」
朔は、口元だけ少しだけ緩める。
笑っているように見えるのに、目が笑っていない。――そんな気がした。
その“気がする”が、胸の奥をざわつかせる。
「……学校、慣れてきたし」
俺は、いちばん無難な理由を出した。
朔は頷く。
「そっか」
それで終わり。
終わりなのに、その後の沈黙が長い。
――テンプレの「俺だけ見ろ」なんて言わない。
朔はそんなこと言わない。言うわけがない。
分かっているのに、言わない“代わり”みたいに、朔の沈黙が刺さる。
(……俺、誰の空気を気にしてる?)
考えかけて、やめる。
自覚したら、何かが変わってしまう気がした。
校門が見えたところで、背後から先生の声が飛んだ。
「朝倉、相沢。ちょっと残って」
俺と朔が同時に振り返る。
担任が、教室の入口で手招きしていた。
「二人ともちょっといいか。悪いが、掲示物を貼り替えてもらえないだろうか?」
「……はい」
俺が答えると、朔も「分かりました」と短く言った。
人の流れが校門の外へ消えていく。
帰り道のざわめきが遠くなって、廊下の足音が減っていく。
――放課後、二人きり。
確定してしまった、と思った。
別に変な意味じゃない。変な意味じゃないのに、胸が落ち着かない。
朔が俺の横に並ぶ。
いつもの距離なのに、今日はやけに近く感じた。
「行くぞ」
「……うん」
俺は小さく返して、教室へ戻る足を出した。
『……最近、誰と笑ってんの』
静かに詰める。優しい声のくせに逃げ道を塞ぐ。
続けて落ちるのは、きっとこれ。
『俺だけ見ろ』
(はいはい。テンプレ。強い)
――現実にそんな台詞、あるわけない。
あるわけないのに、そういうのを“あるもの”として知ってる自分が、たまに面倒だ。
昼休みの教室は、ざわざわしていた。
机を寄せる音、購買のパンの袋が擦れる音、誰かの笑い声。
俺はなるべく存在感を消して弁当を開けた。
静かにしていれば目立たない。そういう小さな努力を、毎日積み重ねる。
「朝倉くん」
小鳥遊くんが、いつもの柔らかい声で近づいてきた。
手にはペットボトルと、購買のパン。
「ここ、いい?」
「……うん」
小鳥遊くんは、距離を詰めるのがうまい。
詰めるというより、壁を作らない、みたいな。
「相沢くん、今日早いね。もう食べた?」
小鳥遊くんは、朔にも同じ温度で話しかける。
朔は「まだ」と短く返して、弁当の蓋を開けた。
そこへ、神崎が通りかかる。
視線が集まるのが分かる。本人は気にしていない顔で、当たり前みたいに言った。
「席、詰めていい?」
「いいよ、神崎くん」
小鳥遊くんが言うと、神崎は軽く頷いて座った。
それだけ。なのに空気が整う感じがある。
(……当たり前みたいに声かけて、当たり前みたいに馴染む。
ずるい。こういうの、強い)
俺は内心でそう思って、すぐ自分を止める。
感心しただけだ。……顔に出たら面倒なだけ。
小鳥遊くんが、箸を持ったまま俺を見た。
「朝倉くん、最近ちょっと笑うよね」
「……え」
笑ってない。はずだ。
そう言いかけて、言葉を飲み込む。否定が大きいと目立つ。
「……そうかな」
「うん。ちょっとだけ。ふふ、って」
小鳥遊くんは悪意なく言う。観察結果をそのまま。
俺は箸を持ったまま固まって、弁当の中身を見た。
(……顔、出てた?)
脳内のテンプレが勝手に騒ぐ。
「笑う」って言葉に、変な熱が混じる。こっちは隠してるつもりなのに。
神崎が会話に割り込まず、ただ水を一口飲む。
それが妙に“大人”で、余計に落ち着かない。
朔はと言えば、箸を動かしながらも、一度だけ俺のほうを見た。
すぐ逸らした。逸らすまでが、ほんの一拍だけ遅い。
昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
先生の声が黒板に乗って、教室が静かになる。
俺はノートを取るふりをして、さっきの「笑う」を反芻していた。
笑った覚えは、ある。自分では気づかない程度に。
小鳥遊くんの言い方が面白かったとき。
神崎の“さらっとした気遣い”が、変にツボに入ったとき。
――そして、朔がそれを見ていたかもしれないと想像したとき。
(いや。違う。考えすぎだ)
放課後。帰り支度の音が一斉に立つ。
椅子が鳴って、鞄が持ち上がる。窓の外の光が少し白い。
俺が机の中を探っていると、朔が横に来た。
声はいつも通りなのに、今日は近い。
「伊織」
「……なに」
「消しゴム」
言われて見れば、また端に寄ってる。
俺が無言で内側に寄せると、朔はそれ以上何も言わない。
言わないくせに、視線だけが残る。
俺が顔を上げる前に、朔は一度目を伏せた。
廊下に出て、人の流れに混じる。
小鳥遊くんが少し離れたところから「朝倉くん、またね」と会釈して通り過ぎた。
神崎は誰かに呼ばれて、短く手を上げるだけで去っていく。
俺はそれを“いつもの学校の風景”として処理しようとして、うまくいかなかった。
朔の歩く音が、いつもより静かで、いつもより近い。
昇降口を出たあたりで、朔がぽつりと言った。
「……最近、よく笑うな」
心臓が一度だけ跳ねる。
責める声じゃない。確認するみたいな、ただの事実。
「……そう?」
「うん」
朔は、口元だけ少しだけ緩める。
笑っているように見えるのに、目が笑っていない。――そんな気がした。
その“気がする”が、胸の奥をざわつかせる。
「……学校、慣れてきたし」
俺は、いちばん無難な理由を出した。
朔は頷く。
「そっか」
それで終わり。
終わりなのに、その後の沈黙が長い。
――テンプレの「俺だけ見ろ」なんて言わない。
朔はそんなこと言わない。言うわけがない。
分かっているのに、言わない“代わり”みたいに、朔の沈黙が刺さる。
(……俺、誰の空気を気にしてる?)
考えかけて、やめる。
自覚したら、何かが変わってしまう気がした。
校門が見えたところで、背後から先生の声が飛んだ。
「朝倉、相沢。ちょっと残って」
俺と朔が同時に振り返る。
担任が、教室の入口で手招きしていた。
「二人ともちょっといいか。悪いが、掲示物を貼り替えてもらえないだろうか?」
「……はい」
俺が答えると、朔も「分かりました」と短く言った。
人の流れが校門の外へ消えていく。
帰り道のざわめきが遠くなって、廊下の足音が減っていく。
――放課後、二人きり。
確定してしまった、と思った。
別に変な意味じゃない。変な意味じゃないのに、胸が落ち着かない。
朔が俺の横に並ぶ。
いつもの距離なのに、今日はやけに近く感じた。
「行くぞ」
「……うん」
俺は小さく返して、教室へ戻る足を出した。
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