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4.生傷
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「お、おととい?」
思いもよらない返答につい聞き返してしまった。えっ、学生時代の初恋の話じゃなかったの?
「昨日貴方が口にしたバームクーヘンが、カツキさんの結婚式で頂いた引き出物です。美味しかったですか?」
さっきまで懐かしむように思い出を語っていた兄ちゃんの表情が一変し、真っ黒な目を見開いて口元だけが不気味に弧を描いていた。
え、待って待って。
カツキさんが結婚したのがつい最近ってことは、この子中学生の頃から社会人になるまでずーっと初恋の人を追いかけてきたってこと?
さあっと血の気が引いていき、収まっていた筈の心拍数がバクバクと急上昇する。
昨日何気なく口にしたあれが、まさかとんでもない曰く付きの物だったなんて。
「カツキさん……必死に勉強して同じ企業に就職までしたのに、どうして……ッ!『俺は一生結婚しない』って言ってた癖にっ、嘘つき嘘つき嘘つきィ……!!」
兄ちゃんはさっきまで冷静に話していたかと思えば、頭をガシガシと掻きむしり髪を振り乱しながら叫びだした。
その様は下手なホラー映画よりずっと不気味で恐ろしかった。乱れた髪で隠れた顔面からボタボタと溢れる涙とも汗とも区別できない液体が上質なラグに吸収されていく。
「ちょ、に、兄ちゃん、落ち着いて……!」
思わず立ち上がり、息切れを起こしている彼の背中を擦ろうと手を伸ばす。
するとその手をガッシリと掴まれ、愛しそうに指を絡められた。
「えっ」
滝のような冷や汗を流す俺を前に顔を上げた兄ちゃんは、つい先程までの発狂が嘘のようにケロッと涙を引っ込めて幸せそうに微笑んでいた。
「でも、もう平気です。だってカツキさんは今日からここで僕と一緒に暮らすんですから。……ね?」
───確か兄ちゃんは、ここに来る前にこう言っていた。
『いいえ、貴方はカツキさんです』と。
まさか、俺を再び部屋に連れ込んだ理由って。
「あ~はは……じゃ、おじさんはカツキさんじゃないので、そろそろおいとまさせていただこうかな……」
「カツキさん」
目の前の青年は酔っていない。だから昨日みたいに都合よく眠ってなんてくれないし、もう何処にも逃げ場はない。
「昨日の続きしましょうよ。早くこれ、しゃぶって下さい。さっきからはち切れそうなんです、今夜は二度と女性なんて抱けなくなるよう意識がぶっ飛ぶまで抱き潰してあげますから」
何が古傷だ。
ぜーんぜん治ってなんかないじゃないか。なんなら現在進行形で傷口ぐっじゅぐじゅのままだった。
にこやかに性器を露出する狂った青年を前に遠くを見つめながら、俺はこの場にいない彼の想い人に恨み言を呟いた。
カツキさんとやら、アンタとんでもない人間の初恋奪っちまったなぁ。
◇◇◇
「その、シャワーは」
「浴びません。しゃぶって下さい、今ここで」
兄ちゃんも学習したのか、昨日と同じ手は通用しないようだ。こりゃテコでも動かないだろう。完全に逃げ場は絶たれてしまった。
これはもう、腹を括るしかないようだ。
「だったらせめて歯磨きさせてよ。おじさん、さっき道端に捨ててあった空き缶かき集めて作ったカクテル飲んだばっかだよ?性病はコワいぞ~」
「……分かりました」
兄ちゃんはしぶしぶちんこをしまい、俺が逃げ出さないようしきりにこちらを振り返りながら洗面所に向かい新品の歯ブラシを取り出すと、少量の歯磨き粉を付けて差し出した。
受け取ったそれを口に含むとご丁寧にもスースーしないタイプの歯磨き粉だった。ちんこをヒリヒリさせてフェラを回避しようなんて俺のセコい作戦もお見通しのようだ。
ジャコジャコと磨いている間にも横からじっとりと視線を感じいたたまれない。
さーて、どうすっかなぁ。取り合えず適当に出すだけ出して満足してくれないかな。
……してくれないよなぁ、顔が似てるだけのホームレスを連れ帰って初恋の人の代用にしようとしているイカれた人間が。
ここで他人のふりを強いられながらずっと一緒に暮らすなんて、なんの冗談だよ。衣食住を得られるメリットを差し引いても、この青年の狂った妄想世界に閉じ込められると考えると頭がおかしくなる。これなら一生ホームレスやってる方がずっと気楽でいい。
「カツキさん」
「ぶへぇっ!?」
ぐるぐると考え事をしていたら真横から声を掛けられ、つい吹き出してしまった。
「血、出てますよ。もっと優しく磨いて下さい」
「ふぉ……」
どうやら歯茎から血が出るほど強く磨いていたらしい。洗面所の鏡越しにちらりと兄ちゃんの方を見ると、心配そうにこちらを伺っていた。
こうして普通にしてたらどこにでもいそうな、爽やかな青年なんだけどなぁ。
「もう貴方だけの身体じゃないんですから」
ご覧の通りブッ壊れちゃってるからなぁ。
思いもよらない返答につい聞き返してしまった。えっ、学生時代の初恋の話じゃなかったの?
「昨日貴方が口にしたバームクーヘンが、カツキさんの結婚式で頂いた引き出物です。美味しかったですか?」
さっきまで懐かしむように思い出を語っていた兄ちゃんの表情が一変し、真っ黒な目を見開いて口元だけが不気味に弧を描いていた。
え、待って待って。
カツキさんが結婚したのがつい最近ってことは、この子中学生の頃から社会人になるまでずーっと初恋の人を追いかけてきたってこと?
さあっと血の気が引いていき、収まっていた筈の心拍数がバクバクと急上昇する。
昨日何気なく口にしたあれが、まさかとんでもない曰く付きの物だったなんて。
「カツキさん……必死に勉強して同じ企業に就職までしたのに、どうして……ッ!『俺は一生結婚しない』って言ってた癖にっ、嘘つき嘘つき嘘つきィ……!!」
兄ちゃんはさっきまで冷静に話していたかと思えば、頭をガシガシと掻きむしり髪を振り乱しながら叫びだした。
その様は下手なホラー映画よりずっと不気味で恐ろしかった。乱れた髪で隠れた顔面からボタボタと溢れる涙とも汗とも区別できない液体が上質なラグに吸収されていく。
「ちょ、に、兄ちゃん、落ち着いて……!」
思わず立ち上がり、息切れを起こしている彼の背中を擦ろうと手を伸ばす。
するとその手をガッシリと掴まれ、愛しそうに指を絡められた。
「えっ」
滝のような冷や汗を流す俺を前に顔を上げた兄ちゃんは、つい先程までの発狂が嘘のようにケロッと涙を引っ込めて幸せそうに微笑んでいた。
「でも、もう平気です。だってカツキさんは今日からここで僕と一緒に暮らすんですから。……ね?」
───確か兄ちゃんは、ここに来る前にこう言っていた。
『いいえ、貴方はカツキさんです』と。
まさか、俺を再び部屋に連れ込んだ理由って。
「あ~はは……じゃ、おじさんはカツキさんじゃないので、そろそろおいとまさせていただこうかな……」
「カツキさん」
目の前の青年は酔っていない。だから昨日みたいに都合よく眠ってなんてくれないし、もう何処にも逃げ場はない。
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カツキさんとやら、アンタとんでもない人間の初恋奪っちまったなぁ。
◇◇◇
「その、シャワーは」
「浴びません。しゃぶって下さい、今ここで」
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ジャコジャコと磨いている間にも横からじっとりと視線を感じいたたまれない。
さーて、どうすっかなぁ。取り合えず適当に出すだけ出して満足してくれないかな。
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