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21. 死ぬって何?
しおりを挟む翼を連れて隣の部屋のインターフォンを鳴らすと、高橋が慌てた様子で玄関の扉を開けた。
そこまで慌てなくても別に取って食ったりしないのに、何を慌てているんだか。
「すみません、翼がお世話になって……」
「いや、たまたま見かけたから半分無理矢理車に乗せ込んだ。あんまり遅くなると高橋さん、心配するだろ?」
「ええ、まあ。何か……ありました? 翼が何か……」
「何にも。翼とはあんまり話した事が無かったから、俺が仲良くなりたかっただけだよ」
確かに見かけただけで車に乗せ込むなんて、明らかに違和感がある言い訳だったなぁと思ったが、今更そんな事はどうにも出来ない。視線で高橋に訴えると、察してくれたようで小さく頷いた。
「ほら、翼。また今度は皆で公園でも行って遊ぼうな」
俺の後ろに隠れるようにする翼の背中を押し出して、玄関に入るように促した。
だけど翼は高橋とまだ素直に話す事が出来ないのか、プイッとそっぽを向いてこちらの方へと振り向く。高橋は少し悲しそうな顔をしたけれど、同時にこちらへ期待のこもった視線を向けた。
「おじさん……、おじさんって呼ぶのは変だよ。だってまだ父さんよりも若いし」
「そうか? じゃあ何て呼ぶんだ? お兄ちゃん……はさすがに変だし」
「名前、何ていうの?」
「明里悠也だよ」
「じゃあ……、悠也くんでいい?」
「おう、いいぞ。じゃ、また今度あの話してやるからな」
翼は焦った顔で人差し指を立てて、口の前へと持っていく。どうやら父親の高橋には少しも知られたくないようだ。それならこっちもそのつもりでやってやろう。
「悪い悪い。じゃあな」
「うん。悠也くん、またね」
高橋は何か言いたげな顔をしていたが、俺が靴を脱いでいる翼にバレないように口パクで「またあとで」と伝える。すると困ったような顔をして小さく頷いた。バタンと扉が閉まった後に考える。
翼はとても素直で可愛い奴だ。何らかの関係で高橋とのボタンのかけ違いが起こっているが、本人だって今のままでいい訳が無いと思っているのだろう。無理して父親の視線を避けようとしたり、わざと高橋の前で俺と仲良くして気を引くなんて、構って欲しい証拠だ。
俺が朱里の言葉で、態度で心が動かされたように、凝り固まって動けなくなってしまった翼の心も動けばいい。きっと少しのきっかけが必要なだけだ。
「パパー! お腹空いたー!」
「今日の晩御飯何ー?」
「悪い悪い。今日は餃子を焼いて卵スープでも作るか。チャーハンにしてもいいけど」
「一花チャーハンがいい!」
「百花も! チャーハン食べたい!」
帰るなり騒がしい双子達は、それでもちゃんと自分達の保育園の荷物を片付けて待っていた。帽子は帽子掛けに、リュックもその隣に。連絡ノートは机の上に。
はじめは慣れなかった習慣だったが、高橋からアドバイスされて毎日同じように声掛けをしていたら、そのうち言わなくても出来るようになった。
「ねぇパパ。ママにはいつ会える?」
「百花もママに会いたくなって来たよー」
「お友達がね、一花のママにはもう絶対会えないんだよって言うの。死んだらその人には会えないって。パパが嘘ついてるって」
「パパ、そんなの嘘だよね? ママにはまた会えるんだよね? いつ会える? まだ順番来ないの? もうお迎え行こうよー」
いつもならテレビでも見ながら出来上がりを待ってる双子達が、珍しく足元にじゃれつくのを「危ないぞ」と声で制しながら調理をしていたら、突然飛び出した予想外の言葉に固まった。
葬儀の時、俺は双子達なりに納得したのだと思い込んでいたけれど、実はまだ朱里の死がちゃんと理解出来ていなかった。
あの時義母が説明してくれたように、「天国で待っている」とその都度何となく上手く「死」というものを誤魔化してきたのだが、今回は返事に困る質問だ。まだ幼いコイツらに、死という物をどういう風に説明したら良いのかと頭を悩ませる。
「分かった。一個ずつ答えていくよ。聞きたい事を順番に言ってみろ」
泣かせるかも知れない。辛い思いをさせるかも知れない。でも、いつかは話さないといけない事だ。ちゃんと話しておく事で、まだ受け入れられていない俺自身も朱里が死んでしまった事を実感して、飲み込む事が出来るような気がした。
「じゃあ一花からね、えっと……ママにはいつ会えるの?」
「一花と百花がおばあちゃんになってからだと思う。多分それまでは会えない。多分バァバやパパの方が先にママのところへ行く。それが順番だ」
「えー、おばあちゃんになるのっていつ?」
「まだまだずうーっと先だ。大人になっても、それからずっと先だと思う」
俺の言葉を聞いた一花は、涙目になって百花の手を握った。唇はギュッと閉じられて、顎には梅干しみたいな皺が出来ている。次に口を開いたのは百花だ。
「じゃあパパ、死ぬって何? ママは天国で待っているんじゃないの?」
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