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四十九話 「新たな能力の目覚め」

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ダンジョン攻略を開始してから数日、ベルには初日以降自重してもらいアッシュ達のサポートに回ってもらっている
そしてその数日間を経てアッシュは試行錯誤を重ねた結果、ようやく恩恵の力をその身で実感することができた
今日はその確認として組合所にある訓練施設にやって来ている


『ロックバレット!』


手を前に突き出しクウが普段使っている土魔法を二十メートル先にある的に狙いを定めて岩の弾丸を放つ
そう、アッシュは恩恵の効果によってクウから魔法の力を得ることができた
しかも使えるようになったのはロックバレットだけでなくマッドショットやパラライズ、硬質化に治癒|《ヒール》とクウが覚えている魔法は全て扱えることを確認した


『十発中五発命中か。まだ精度が安定しないなぁ、これじゃまだ実戦で使うのは不安だな』


今まで魔法を使ったことがないのだから当然感覚が掴めず安定して命中させることはまだできない
こればっかりは数をこなしていくしかないだろう

半信半疑で試していたがまさか本当に自分が魔法を使えるようになるとは思わなかった
本来のアッシュには魔力は備わっていない
だがそこはベルから得たと思われる魔力で補完することができた
ベルに名前をつけたその夜から続いていた謎の不快感、あれは自分の体に魔力が生まれたことによる弊害だったようだ
今までなくて当然だったものが突然無理矢理体の一部として詰め込まれたらそりゃ不快感は募るというもの
しかもアッシュの体に備わった魔力はドラゴンであるベルと同等のもの
膨大な魔力量に適応できるまで苦労したが、気分が悪くならない程度には体に馴染ませることができた


『ベルの魔法も試してみたいけど・・・ここでは使えないか』


ベルが使う攻撃系の魔法も教えてもらったがどれも上級の魔法ばかり、魔法を使い始めたばかりのアッシュがそんな魔法を発動させたら制御できず暴発してこの辺り一帯が吹き飛んでしまう
なので段階を踏みまずはクウが使う魔法で徐々に魔力を扱う感覚を養っていく
魔力量はかなりあるので初級程度の魔法なら撃ち放題だ
アッシュが与えられたおもちゃで楽しげに遊ぶ子供のように魔法の練習をしていると、隣でそれを見ていたアレッサが複雑な表情をしていた


『アッシュ君が魔法を使えるようになっちゃったら私の存在が・・・』

『いやいや、僕のなんてまだまだ付け焼き刃みたいなものでアレッサには遠く及ばないよ』


実際魔法の発動はまだまだ不安定な上に時間がかかるし命中率も先程のような有様
それに比べたら幼い頃から研鑽を積んでいるアレッサの方が格段に上だ


『でもまだ私未だに魔力操作が上手く出来ないし・・・このままじゃ皆においていかれちゃう』


アレッサはこれまで空いてる時間を見つけては魔力操作向上の特訓をしていた
魔力操作を完璧にしようと必死に練習するも結果は芳しくなかった
そんな中アッシュが突然魔法を扱えるようになってしまったことでかなり焦っているようだ
そこで何か思いついたのかアレッサはベルの方を向きあるお願いを口にした


『そうだ!ベルちゃん、私に修行をつけてくれない?』

『修行?』

『色々な魔法に精通しているベルちゃんが魔力操作を教えてくれたらなんとかなるんじゃないかな?』


確かにあれだけ複難そうな魔法を平然と使っているベルに教われば魔力操作も上手くなれるかもしれない
ついでに自分もベルに稽古をつけてもらった方がいいのではとアッシュも考える
アレッサは頭を下げてお願いするが、ベルの方を見てみるとあまり乗り気ではない様子だった


『え~面倒臭いなぁ』

『そこをなんとか!お願い!』

『頼むよベル』


必死に頼み込むアレッサを見てアッシュも一緒にベルに頼む
しかしそれでも中々首を縦に振ってくれないベルにアッシュはある条件を加え耳打ちでそれを伝える


『ベル、特訓に付き合ってくれたら今度いい肉をご馳走してあげるよ。今まで食べてきた肉よりも絶対美味しいよ』

『いいぜ!オイラに任せておけば魔力操作位あっという間にできるようにしてやるぜ!』

『本当!?ありがとう!』


高い肉をご馳走すると条件にした途端ベルはあっさりとアレッサの頼みを承諾
そうしてアッシュ達は魔法の鍛錬に励むこととなった


『それにしてもこうして魔法を使えるようになったのは素直に嬉しいんだけどなんだかズルしてる感じがして少し気が引けるな・・・』

『生まれながらに持っているものを活用しただけなんだから別に何もズルくはないだろ。オイラが空を飛べるからってズルいって思うか?』


そうは言われてもやはり思うところはある
魔力を持たざる者がどんなに望んでも手に入れられないものをあっさり横から掠め取ったような後ろめたさがアッシュにはあった


『まぁどう考えるかは主次第だけどその技をどう得たかよりどう活用するかが大事なんじゃないのか?』

『そっか・・・それもそうだね』


この力を自分の為でなく仲間の役に立てることができれば・・・
そう考えてアッシュは少しでも早く上達できるよう一層の鍛錬に励んだ

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