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五十二話 「無償提供」
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何気なく入ったドワーフの鍛冶工場でそのまま武器を手に入れられる流れかと思ったら帰るよう促されてしまったアッシュ
困惑して中々出ていこうとしないアッシュ達に対してヴォルフは再度出ていくよう告げる
『ほれ、出口はあっちじゃぞ』
『ちょ、ちょっと待って下さい。ヴォルフさんに作ってもらうことはできないんですか?』
『ワシは自分で認めた者にしか武器を作らないと決めておるんじゃ。お主にワシの武器を握らせるつもりはない』
それからもアッシュが幾度となく頭を下げて頼み込むが、ヴォルフは頑として武器を作ってくれようとはしなかった
ここだけ人がいなかった理由が今更ながらに理解した
普通であればドワーフの武器を求める者も多くいるはず
だが自分で決めた相手以外には頑なに作ろうとしないから誰も寄りつかなってしまったのだろう
このまま諦めるしかないのかと考えていると、後ろで話を聞いていたヴォルフの嫁アンジェが再度頭を思い切り引っぱたいた
『あいった!何をするんじゃ!』
『馬鹿なこと言ってないで有難くその仕事受けな!アンタのそのチンケなプライドのせいでうちは毎月赤字なんだよ!』
『チンケとはなんじゃ!ワシは自分の作る装備に一つ一つ魂を込めて作っとるんじゃ!それを半端もんに使わせるつもりはないわい!』
『あぁそうかい、じゃあこれからは晩酌無しでいいね』
そう言われると先程まで威勢がよかったヴォルフの言葉が詰まる
ドワーフは大の酒好きで皆酒豪という話を聞いたことがあるがヴォルフも例外ではないようだ
『うぐっ・・・!い、いや!それでもワシは信念を曲げんぞ!』
『はぁ・・・こりゃ何を言ってもダメそうだね。悪いけどお客さん今回は諦めとくれ。こうなったらこの男はテコでも自分の考えを変えないからねぇ』
『そ、そうですか・・・』
説得しようとしてくれていたアンジェにまでそう言われてしまったらこれ以上粘っても受けてくれる見込みはないだろう
素直に諦めて別の場所に行こうとしたその時、ベルが認識阻害の魔法を解いて姿を現した
『主~オイラ腹減ったぜ早く終わらせて飯食いに行こうぜぇ』
『ベル!勝手に出てきちゃダメって言ったじゃん!』
『ど、ドラゴン!?』
アンジェ驚く声が聞こえまた騒ぎになるかと思い急いでその場から立ち去ろうとする
すると今度はベルを見たヴォルフがアッシュ達に声をかけてきた
『もしや他の奴らが話していたドラゴンを連れてるっちゅうのはお主らか?』
『えっと・・・はい、そうですね』
『そうか、そうじゃったか・・・』
ベルの姿を確認した途端先程までこちらの相手をしようとしなかったヴォルフの態度が軟化した
それよりもアッシュはヴォルフが他の人の様にドラゴンを見ても全く動揺している様子がない事が意外に思えた
『ドラゴンを見慣れているような感じがしますけど・・・ヴォルフさんはドラゴンを見たことがあるんですか?』
『ワシ・・・というかドワーフの国にはドラゴンの群れが棲んでおるからの。ドワーフの王オルフェウス様とドラゴンの群れのボスが昔からの盟友らしく国を庇護してもらっているんじゃ。だがまさかこんな場所でフェアリードラゴンをこの目でお目にかかれるとは思わなかったら驚いたわい』
ドラゴンの群れ・・・まるで御伽噺のような話だ
ドワーフの国はアレッサのいたルグニア大陸の最南端にあると聞いたことがある
ダンジョンを攻略し続けいつか近くを通るようなことがあったら是非寄ってみたいものだ
そんな話をしている出ていくタイミングを失ってしまい僅かな沈黙が流れる
このまま居座り続けて作業の邪魔をしても仕方がないのでアッシュはお暇することにした
『長居してしちゃってすみません。失礼しますね』
『いや、ちょっと待ってくれ。その・・・なんじゃ、さっきははじゃな』
ヴォルフは歯切れの悪い物言いでアッシュに何かを伝えようとしてきた
その様子に痺れを切らしたアンジェがヴォルフの背中を引っぱたく
『ウジウジしていないで言いたい事があるならハッキリ言いな!』
『わ、分かっとるわい。お主ら、さっきは悪かったな。どうやらワシの目が曇っていたようじゃ。ドラゴンを従えているお主であればワシの武器を作ってやろう。いや、作らせてくれないか?』
『本当ですか!?』
『おい主、いいのか?コイツオイラを見て態度を変えたぞ。こんな奴に任せていいのか?』
『ベル!』
ベルの言い分も分かるがそれを本人の前で堂々と言ってしまうあたり流石というべきか
だがそれはヴォルフ自身も十分に理解しているだろう
『ドラゴン殿の言う通りだ。ワシは個人的な理由を引きずってお主らに横柄な態度をとってしまった。だからその詫びといってはなんだがもしワシに作らせてくれるというのならお主らの装備を無償で作ろう』
『えっ!?いやそこまでしていただかなくても。僕達はそんな気にしていませんし作ってもらえるなら通常の料金は支払いますから』
『いやダメじゃ!これはワシのケジメなんじゃ!』
自分の行いを相当悔いているのか頑として譲らない意志を感じる
困り果てたアッシュはアンジェの方に目を向けるがアンジェも諦め顔
こうなったヴォルフは簡単には意見を曲げないというのはこの数分だけでもよく理解できた
正直さっきは見栄を張ったが無償で作ってくれるのは今の懐事情を考えると非常に有難い
アレッサと相談した結果、アッシュ達の装備はこのヴォルフに作ってもらうことにした
『よろしくお願いしますヴォルフさん』
『よっしゃ、魂を込めて作らせてもらうぞい』
『やれやれ・・・やっぱり当分晩酌はお預けだね』
困惑して中々出ていこうとしないアッシュ達に対してヴォルフは再度出ていくよう告げる
『ほれ、出口はあっちじゃぞ』
『ちょ、ちょっと待って下さい。ヴォルフさんに作ってもらうことはできないんですか?』
『ワシは自分で認めた者にしか武器を作らないと決めておるんじゃ。お主にワシの武器を握らせるつもりはない』
それからもアッシュが幾度となく頭を下げて頼み込むが、ヴォルフは頑として武器を作ってくれようとはしなかった
ここだけ人がいなかった理由が今更ながらに理解した
普通であればドワーフの武器を求める者も多くいるはず
だが自分で決めた相手以外には頑なに作ろうとしないから誰も寄りつかなってしまったのだろう
このまま諦めるしかないのかと考えていると、後ろで話を聞いていたヴォルフの嫁アンジェが再度頭を思い切り引っぱたいた
『あいった!何をするんじゃ!』
『馬鹿なこと言ってないで有難くその仕事受けな!アンタのそのチンケなプライドのせいでうちは毎月赤字なんだよ!』
『チンケとはなんじゃ!ワシは自分の作る装備に一つ一つ魂を込めて作っとるんじゃ!それを半端もんに使わせるつもりはないわい!』
『あぁそうかい、じゃあこれからは晩酌無しでいいね』
そう言われると先程まで威勢がよかったヴォルフの言葉が詰まる
ドワーフは大の酒好きで皆酒豪という話を聞いたことがあるがヴォルフも例外ではないようだ
『うぐっ・・・!い、いや!それでもワシは信念を曲げんぞ!』
『はぁ・・・こりゃ何を言ってもダメそうだね。悪いけどお客さん今回は諦めとくれ。こうなったらこの男はテコでも自分の考えを変えないからねぇ』
『そ、そうですか・・・』
説得しようとしてくれていたアンジェにまでそう言われてしまったらこれ以上粘っても受けてくれる見込みはないだろう
素直に諦めて別の場所に行こうとしたその時、ベルが認識阻害の魔法を解いて姿を現した
『主~オイラ腹減ったぜ早く終わらせて飯食いに行こうぜぇ』
『ベル!勝手に出てきちゃダメって言ったじゃん!』
『ど、ドラゴン!?』
アンジェ驚く声が聞こえまた騒ぎになるかと思い急いでその場から立ち去ろうとする
すると今度はベルを見たヴォルフがアッシュ達に声をかけてきた
『もしや他の奴らが話していたドラゴンを連れてるっちゅうのはお主らか?』
『えっと・・・はい、そうですね』
『そうか、そうじゃったか・・・』
ベルの姿を確認した途端先程までこちらの相手をしようとしなかったヴォルフの態度が軟化した
それよりもアッシュはヴォルフが他の人の様にドラゴンを見ても全く動揺している様子がない事が意外に思えた
『ドラゴンを見慣れているような感じがしますけど・・・ヴォルフさんはドラゴンを見たことがあるんですか?』
『ワシ・・・というかドワーフの国にはドラゴンの群れが棲んでおるからの。ドワーフの王オルフェウス様とドラゴンの群れのボスが昔からの盟友らしく国を庇護してもらっているんじゃ。だがまさかこんな場所でフェアリードラゴンをこの目でお目にかかれるとは思わなかったら驚いたわい』
ドラゴンの群れ・・・まるで御伽噺のような話だ
ドワーフの国はアレッサのいたルグニア大陸の最南端にあると聞いたことがある
ダンジョンを攻略し続けいつか近くを通るようなことがあったら是非寄ってみたいものだ
そんな話をしている出ていくタイミングを失ってしまい僅かな沈黙が流れる
このまま居座り続けて作業の邪魔をしても仕方がないのでアッシュはお暇することにした
『長居してしちゃってすみません。失礼しますね』
『いや、ちょっと待ってくれ。その・・・なんじゃ、さっきははじゃな』
ヴォルフは歯切れの悪い物言いでアッシュに何かを伝えようとしてきた
その様子に痺れを切らしたアンジェがヴォルフの背中を引っぱたく
『ウジウジしていないで言いたい事があるならハッキリ言いな!』
『わ、分かっとるわい。お主ら、さっきは悪かったな。どうやらワシの目が曇っていたようじゃ。ドラゴンを従えているお主であればワシの武器を作ってやろう。いや、作らせてくれないか?』
『本当ですか!?』
『おい主、いいのか?コイツオイラを見て態度を変えたぞ。こんな奴に任せていいのか?』
『ベル!』
ベルの言い分も分かるがそれを本人の前で堂々と言ってしまうあたり流石というべきか
だがそれはヴォルフ自身も十分に理解しているだろう
『ドラゴン殿の言う通りだ。ワシは個人的な理由を引きずってお主らに横柄な態度をとってしまった。だからその詫びといってはなんだがもしワシに作らせてくれるというのならお主らの装備を無償で作ろう』
『えっ!?いやそこまでしていただかなくても。僕達はそんな気にしていませんし作ってもらえるなら通常の料金は支払いますから』
『いやダメじゃ!これはワシのケジメなんじゃ!』
自分の行いを相当悔いているのか頑として譲らない意志を感じる
困り果てたアッシュはアンジェの方に目を向けるがアンジェも諦め顔
こうなったヴォルフは簡単には意見を曲げないというのはこの数分だけでもよく理解できた
正直さっきは見栄を張ったが無償で作ってくれるのは今の懐事情を考えると非常に有難い
アレッサと相談した結果、アッシュ達の装備はこのヴォルフに作ってもらうことにした
『よろしくお願いしますヴォルフさん』
『よっしゃ、魂を込めて作らせてもらうぞい』
『やれやれ・・・やっぱり当分晩酌はお預けだね』
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