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五十三話 「転向」

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『それで?作る武器は短剣でよかったかの?』

『それがベル・・・このドラゴンの名前なんですけどベルが言うには僕に短剣は向いていないと言われてしまって。それで違う武器に転向するか迷っているんです』

『なるほどのぉ。ちなみに短剣以外の武器を使った経験は?他に使ってみたい武器はあるのか?』

『ずっと短剣だけ使ってきました。他の武器は最初の頃試したことはありましたけどどれも上手く扱えなくて・・・』


大剣はおろかただの直剣ですら振る時に重さで上手く狙いが定められず扱えない
槍も試してみたが短剣よりも才能を見い出すことができず、弓はまともに引けず真っ直ぐ飛ばすことが出来ない有様
もっと逞しい身体に生まれてくれればとこの身体を恨めしく思ったことは何度もある
他にまだ試していない武器があったかと考え込むアッシュに対し、ヴォルフは何か閃いたのか手をポンと叩いてそれを告げてきた


『そうじゃ、鞭とかはどうじゃ?』

『鞭・・・ですか?』


アッシュの中で想像していなかったものがヴォルフの口から出てきたので思わず聞き返した
鞭といったら思いつくのは調教用に使う位なもので、当たったら痛いとは思うが魔物を倒せる武器かと言われたら素直に頷けないところ
アッシュはその事をそのままヴォルフに伝えた


『鞭って武器になるんですか?』

『鞭は扱いが難しく他の武器と違って慣れるのに時間がかかるが、自在に操れるようになったらかなりの威力を発揮するし中々厄介じゃぞ。相手からしたら動きが読みにくくて避けづらいしの。それに鞭はしなりを利用して攻撃する武器だから他の武器と違ってそこまで力は必要ないと思うぞ』

『なるほど鞭か・・・』

『それと鞭に無数の棘をつけたり先端に鏃のようなものを付けて攻撃力を上げるのも面白そうじゃな。近距離戦になった時の事を考えて柄の部分にも工夫した方がいいかもしれんな。それから・・・』


検討している間にもヴォルフの頭の中では既に鞭の構想が出来上がっているの饒舌になっていく
アッシュ自身もヴォルフの話を聞いていて鞭の武器を使ってみたいという気持ちになっていたので、思い切ってヴォルフに鞭の製作を頼むことにした


『決めました、僕は鞭を使うことにします。それで素材はどういったのを使うんでしょうか?』

『そうじゃなぁ。普通は革とかを使うんじゃがそれじゃあ味気ないしのぉ』

『あっそれなら良さそうな素材があるのオイラ知ってるぜ』


鞭に使う素材は何がいいかと話しているとベルがいい素材に心当たりがあると言って割って入ってきた


『本当ベル?』

『おうよ、場所が遠いからここから行くとなると時間かかるけど数日あれば取りに行ってやるぜ』

『そっか、じゃあお願いしようかな』

『よし、じゃあちょっくら行ってくるぜ』


そう言うとベルはあっという間に空へと消えていった
ベルでも数日かかるような場所なんて一体どれだけ遠い場所なんだろうか
そしてそこで何の素材を持って帰ってくるのか聞きたかったが、それは帰ってきたからの楽しみにしておこう


『じゃあ次は嬢ちゃんの方だな』

『お、お願いします!』


それからアレッサの新たな杖も頼んだ後、アッシュ達はベルが素材を持って帰ってくるまでの間ダンジョンの攻略に勤しんだ
ベルが戻ってきたのは宣言していた通り数日が経った後
アッシュの元に帰ってきたベルはいつになく疲れている様子だった


『主~今戻って来たぜぇ』

『おかえりベル、何だか凄い疲れてるみたいだけど大丈夫?』

『あぁ、ちょっとな。だけどその甲斐あってバッチリゲットできたぜ。これがその素材だ』


そう言うとベルは収納魔法を発動させ中から取り出して素材を見せてきた
ベルが出してきたのは細長く白い、糸とはまた違った何か
持ってみると質感はどことなく髪の毛に近いものを感じた
なにより気になったのはその素材が神々しく光り輝いていたこと


『ベル、これは一体なんの素材なの?』

『これはセイヴィアから取った髭だ』

『セイヴィア?』

『なんだっけ・・・人間達の間では確か聖龍とか名前で呼ばれてたっけかな』


ベルの言葉を理解するのに暫く時間がかかった
今自分が持っているものが小さい頃よく聞かされていたあの聖龍の髭だと理解した頃には手の震えが止まらなかった


『聖龍ってあの聖龍・・・?どうやって取ってきたの?』

『ん?普通に引っこ抜いてきたんだ。そしたらもの凄いブチ切れてよぉ。危うく殺されるかと思ったぜ』


ベルの中の普通とは一体なんなのかと問いたかったが今更だと思い聞かないことにした
そりゃあいきなり来たと思ったら髭を引っこ抜かれたらそりゃ誰だって怒るだろう・・・果たしてこれは本当に使って大丈夫なものなのだろうかと悩んだが、このまま取っておいても仕方ないと思い鞭の素材として有難く使わせてもらうことにした


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