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19話 「忘れていた感情」
しおりを挟む熱く一人の戦士と研究者が目の前の敵をそれぞれの思いをもって倒すために協力し合おうと手を取り合ったあと、工場を出た俺を待っていたのは__
「あ!シュ、シュウ。今日の戦闘大丈夫でしたか?」
ティナがわざわざ俺が出てくるまで待っていてくれた。長い時間待っていたのか座り込んでいたときに不意に俺が出てきたのか、慌てて立ち上がった。
わざわざ待たなくても王城で待っていてくれたら話はできるのに。
なんだかとても申し訳なかったが、ティナが気を使ってくれていたみたいなのでありがたくお礼を素直に言うことにした。
「大丈夫だ。ありがとな、わざわざ出てくるまで待っていてくれて」
「い、いえ。ったく、無茶しちゃだめって言ったのにあんなにリースの提供してくれたアーマーをあんなにボロボロになるまで戦って……」
「いいんだよ。俺も最大限あの鎧が持つまで戦おうっていう目安で行ったんだ。ってかリースの鎧なかったことを考えたら全然平気だから大丈夫だって」
「もう……人の気持ちなんて全く無視して……」
ふくれっ面でいうティナは今までならあまり見せなかった表情だが、ここ最近こういう表情をすることが多くなった。素直にかわいいし、感情をある程度出してもらえているとしんらいされているのかなと思えてうれしくなる。
「いやいや、知ってる。ヴィルシスが相変わらずしっかり見ていたらしくてまた名指しかよ。随分と可愛がらてんな」
そう俺は笑いながら言った。でもそれはすぐに失敗だったと知る。
せっかくさっきまで明るい顔をしていたティナの顔がさあっと暗くなった。
何も成長していない。コミュニケーション力不足がまだまだ治っていないという現実を突きつけられた。
あまりにも無神経すぎる言葉に謝罪をした。
「すまん、笑い話ですることじゃなかったな」
「ひどいです」
「うう……。ほんとにすまん」
そう俺が落胆している様子をくすっと笑ったティナはいきなり
「なーんて冗談です。そんな顔しなくても私はそんなことでへこたれませんーん!」
と言った。だけどその強がっている表情は瞳は大きく揺らいでいる。
「さっきあんなこと言ったのにこんなこと言うなって言うかもしれないけど……。俺の前では無理をしなくていい。苦しかったろ?」
「ば、馬鹿にしないでください!シュウにも言ったはずです!もう負けないって」
「人はそう簡単に苦しいことから打ち勝てるものじゃない。少しずつ克服していくものだ。無理して強がるとより克服が遅くなったり、克服できなくなったりするから」
そう俺が言うとだんだん強がったティナの表情はだんだん弱くなっていく。
「でも……私は……みんなの戦闘の結果は私に……」
「そう。お前がしっかりしてくれなきゃこの国は勝っていけない。だからお前は強くなければいけない」
「だったら……!」
「だが、いつもずっと無理をしていたらいつかパンクしちまう。そうなった時本当にこの国は終わる。だから……」
俺はあまりにも鋭い爪が生えた手をグッと握り、握りこぶしを作ると__
「セリアでもいい。俺でもいい。誰かに苦しかったら甘えろ。泣け。そうしてすっきりしてまたみんなの前に立て。そうしてくれたらいい」
握りこぶしを作った手の甲を、折り曲げた指で__傷つけないようにそっとティナの頭を撫でてやった。
そのあまりにも違和感のある撫で方はティナの頭を十分には撫でてやることはできなかった。
「ううう……シュウ!!怖かった!あの人はセリア様やあなたと戦っている時ですら私に鋭い眼光を向けてきます!まるで獲物を狙う肉食動物のように!私は哀れに何もできない小さな草食動物のように震えていることしかできない!」
「そうか」
「あの人が今度どうやって私を捕まえようとするかわかりません!私が傷つけられるだけならいいです!でも今日だって……一歩間違えればセリア様が!」
一気にため込んでいたものを吐き出すかのように俺にしがみついて泣きじゃくりながら話すティナ。
「だから俺が今度こそ潰す。俺はセリアだけじゃない。お前のことだって守る。そしてやつはリースにとっても倒さなきゃいけない相手になったんだぜ?」
「リース様も……?」
「ああ、あいつも研究者としてのプライドをどうもやつは逆なでしたらしいな。もうやる気だぜ?」
あのリースの目は間違いなく本気だ。きっと俺の想像をはるかに超えるものを作り上げるはずだ。それを俺がちゃんとリースの考え通りの内容を実行して見せる。そして___
「そしてやつにはお前が直接対峙するべきだ。あいつに苦しめられているなら奴と向き合ってけりをつけるんだ」
「そ、そんなこと……怖くてできない……!あの人は私に対して思いが募るほど憎しみも募っていっている……!そんな彼に一人で……戦うなんて」
「一人じゃねぇ!戦場には確かにリースは行けない!でも……ここにいる奴の存在忘れてね?」
そう言いながら自分のことを自分で指さした俺はあまりにもかっこをつけすぎたと内心で後悔をしたが、その後悔はすぐに消し飛んだ。
「本当に守ってくれますか?」
その俺を見上げる目はあまりにも可憐でまっすぐで、切なくて。透き通った桃色の目は俺の意思をさらに固くさせるものだった。
「ああ、約束する。お前のそばから離れん。そして何より俺は力でお前の邪魔するものをねじ伏せるだけじゃない。ちゃんとお前を安心させるため、お前が力を発揮できるようにもずっとそばにいるから」
本当に守ってくれるのか___。
それはただ守るだけじゃない。ただ力でティナを苦しめるものをねじ伏せるだけならヴィルシスと全く変わらない。
彼女が輝けるようにずっとそばでサポートをしていく。それは彼女が優秀であるがこそ難しい。彼女に認めてもらうことはとても難しいことだろうから。
でも彼女は自分に感情豊かに徐々になってきている。それはなかなかなりたくても誰でもなれることでもないと考えている。
だからこそ___俺は彼女と同じ苦しみを知ったものとして__。
「だから任せろ。俺はお前を悲しませんようにお前にできることをこれからずっとしていく。お前が危なければ守る。苦しかったら俺に苦しいことをすべてぶつければいい。誰も信頼できない、吐き出せないっていう過去から進化しようぜ」
俺がいなくてもセリアがいるが彼女は立場上忙しい身だし、ティナはきっと気を遣ってためこんでしまうだろう。ならば俺が___
「お前の吐き出すものならいくらでも受け止めてやるぜ。どんと来い!似たような経験者としてアドバイスも偉そうではあるかもしれんが……できるかもしれないし」
「シュウ!!あなたはどこまでも私のことを……!」
どうして彼はここまで優しいのだろう。あの時のヴィルシスとあまりにも酷似している。だから怖い。またああなるかもしれない。
でもきっとならないだろう。そう今は自信をもって信じられるような気がする。
それはなぜか___。
彼も私と同じように過去苦しい思いをした。そのエリートたちに苦しめられたという。それは私の気を引くためでもなく、本当に経験者しか知らない真実を話してくれた。その私特有の苦しみで誰もわかってくれないと思っていた苦しみを_彼は分かってくれる。
そして私には仲間がいるということを彼は教えてくれた。そうだ、今周りを見渡せば私のことを非難するものなんていない。誰もが私のことを笑顔で応援してくれている。
勇気をもって見渡した世界は、この国は想像以上に素敵なものだった。
それを教えてくれたのは紛れもなくシュウだった。
ありがとう。色々教えてくれて。勇気を与えてくれて。
そして守ってくれて。頭を撫でてもらって。
そしていつも私の話し相手になってくれて。苦しいことを聞いてくれて。
この感情はいつぶりだろう。何年も忘れていたこの感情は。
シュウ。私はあなたに恋をしたかもしれません。
人間じゃなくても話はできます。頭も撫でてもらえます。
私はそれだけでも十分です。
シュウ。あなたがいれば私は変わっていけるかもしれません。
ヴィルシスとの暗い過去を振り切った先にあなたは改めて受け入れてくれるでしょうか。抱きしめてくれるでしょうか。
きっとそうだと私はもう信じてしまいますね。
それはそう私に思わせたあなたが悪いのですから責任を取ってくださいね。
私はティナは__シュウ。あなたのことが大好きです。
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