ティルナノーグの扉

Erie

文字の大きさ
15 / 22

魔華の刻印2

しおりを挟む
「困ったことになりましたねぇ…」

 普段穏やかな妖精王、マナナンの顔が曇る。

「申し訳ございませんでした。王、結界の外にお連れするつもりはなかったんです」

 マリアンヌさんが泣きそうな顔で謝る。

「それは、わかっていますが…」

 魔華の力を放った後、倒れた私は、あれから数日眠り続けていたらしい。

 そして、妖精国の薬師が私の変化に気づき、王に報告した。

「ごめんなさい!」

「結界の外を出たことは問題ですが、まさか魔華の刻印が刻まれるとは思っていませんでした」

「魔華の刻印?」

「ティルナノーグに住む者たちにはそれを植え付けることはできません。昔、魔族の間で広まりました。言い伝えによると、魔華に魅入られた者は、次第に己を失い、破壊の限りを尽くした後、自滅する、といわれています」

「………」

「元からドワールになかった力といわれています。おそらく異世界から転移してきた者たちのエネルギーが積み重なって生まれた力、という結論に落ち着きましたが…まさかあなたに起こるなんて」

「治す方法は?」

「それが、わからないんです。異世界からのものなので、私たち妖精の力は通じません」

「そんな…」

 意識は戻ったけれど、体力の限界まで魔力を使ったらしく、うまく頭が回らない。

「魔族の国に行けば、もっと情報があるでしょうが…」

「じゃあ、今すぐ……」

「ええ、あと数日様子を見て、体力的に移動ができるようなら、すぐにでもお連れします。今は休息が必要です」

 妖精王が手をかざすと、急に睡魔に襲われた私は深い眠りに落ちて行った。


 ◇ ◇ ◇


 数週間後、戴冠式の準備で大わらわのアルフォンソ様の所に突然現れた私を歓迎してくれた人たちは少数だった。

 アルフォンソ様とヒトの女の子に興味津々の魔族の子供たちだけ。

 こんな忙しい時期に訪ねて来るなんで非常識だと思っているのだろう。

 そういう気持ちはヒトでも魔族でも変わらないらしい。

「ようやく、ドナゴルに嫁に来る気になったか?」

 私の顔を見て、そう行ったアルフォンソ様の前で、ドレスの裾をあげて、太ももを見せた。

「それは…魔華、だな。なぜお前にそれが刻まれている?」

「この間、結界の外で襲われそうになった時、魔華の力に目覚めたらしいのです」

「マクリール、お前がいながら何をやってるんだ?」

「妖精王の話では昔、あなたの世界でもこれが流行ったと聞いています」

「そう、言い伝えられているが、な。昔ではない。私の妹もそれに蝕まれて他界した」

「リリアナ様が?」

「王家の者が魔華に魅入られたなんて、他の国に、特に王にいえる話ではないからな。16の年で成人を迎えて、それから半年だった。国中のあらゆる薬師、魔術師を呼び寄せた。我が国以外の異国からも。だが、リリアナを救えなかった。あの子も私やお前と同じ美しい菫色の瞳をしていた」

「アルフォンソ様」

「魔華に魅入られた者はすべて菫色の瞳をしていた。あれはゆっくりと魔力を蝕んで行く。魔力は私たちの生命の源だからな。それを吸い取られると、死ぬしかない。幻覚を見る者もいたらしく、力の制御ができずに魔力が暴発して処刑された者もいる。もちろん、ドワールの世界で魔華に魅入られた存在は魔族だけだが…」

「何か方法はないのですか?」

「普段冷静なマクリールが取り乱す顔を見せるなんて、よほどこの娘が大切なようだな」

「……」

「まあ、いい。魔華が現れた以上、妖精国に置いてはおけまい?お前の国では対処できぬだろう?」

 アルフォンソの豪華な私室に沈黙が訪れる。

「魔族の者から感染ることはないが、異世界の者から感染する可能性はある。ドワールの平和を乱すわけにはいかぬからな。リナ、私のところに来い。我が国にいる方が魔華についての情報も得やすいぞ」

「リナ、帰りましょう。私の元で治療法を探しましょう」

 私の答えは決まっていた。常識的に考えても、残された時間はあまりないかもしれない。それなら情報の全くない妖精国にいるよりも、ドナゴルのアルフォンソ王子の元で治療法を探した方が現実的だ。

「ごめんなさい。マナナン。私、ドナゴルに残ります。妖精国に迷惑をかけられません」

「………」

「治ったら必ず妖精国に戻ってきますから」

「必ず、戻ってきてくださいね」

 優しい瞳を曇らせている妖精王は私を抱きしめると、

「私と共に未来を歩いてくれる約束を忘れないでください」

 と囁いた。彼の滑らかな指先が肩に当てられて、私は胸がドキドキするのを感じた。

 きゃー、近いんですけど!肩っていうか耳に息がかかるんですけど!

「私はいつでもあなたの味方ですよ。リナ。何かあれば私を呼んでください。いつでもどこでも駆けつけますから」

「ありがとう」

 国務で忙しいだろうに気にかけてもらえることが嬉しかった。

「アルフォンソ、リナを頼みましたよ」

「ああ。戴冠式でな」 

 鮮やかな緑の光に包まれると、妖精王は姿を消した。

妖精王が姿を消して、胸の奥に寂しさを感じた。

「さあ、我が城を案内しよう。これからやることはたくさんあるぞ?」

「ええ。よろしくお願いします」

 寂しさを追いやって、笑顔を作ると心優しい王太子の後に続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって

真好
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」 かつては公爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。 しかし、国家反逆罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。 二度と表舞台に立つことなどないはずだった。 あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。 アルフォンス・ベルンハルト侯爵。 冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。 退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。 彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。 「私と、踊っていただけませんか?」 メイドの分際で、英雄のパートナー!? 前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。

処理中です...