【R-18】元聖騎士は帝国に完全屈服して尊厳破壊される ~「希望亭」にてご奉仕いたします~

こころ さづき

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002 完全屈服宣言

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 薄汚れた独房の扉が軋みを立てて開け放たれた時、冬の吹きさらしにも似た冷気が頬を切り裂き、全身の神経がじわりと凍りついていくのを感じた。拷問であちこち傷んだ身体を無理やり起こされ、鎖の引きずる音に追われるまま外へと連行される。数日前まで真っ暗な檻の中に引きこもっていたせいか、外気が肌に触れると眩暈がして倒れ込みそうになるが、帝国兵の一人が乱暴に腕を捕らえて支えというよりは引きずるように私を前へ進ませた。

 待ち受けていたのは、石造りの巨大な壇のある広場。かつて祝祭や行事でにぎわった場所だろうに、今では帝国の威光を誇示するための“処刑台”や“見せしめの台座”が堂々と設えられているのが目に焼き付く。周囲を埋め尽くす民衆のうち、どれほどが帝国に屈服させられた者でどれほどが歓喜する帝国側の人間なのか、もはや私には判別がつかない。ただ、ぐにゃりと歪んだ視界の奥――最前列に待ち受ける司令官の鋭い眼光だけが鮮明すぎるほど意識に突き刺さった。

「跪け。“反逆者”め」

 帝国兵が背を足で押さえつけ、私の膝が粗い石畳に叩きつけられる。痛みに顔を顰めながら、それでも私は必死に声を呑み込む。私の喉はすでに酷使され、血の味が混じった唾液がこみ上げる。

 司令官が一歩、私の目の前に歩み寄る。冷めた手袋が顎を掴み、強制的に上を向かせた。その目は私が次に何を言うべきか、分かっているはずだと笑っている。

「――宣誓をはじめろ。お前自身の罪状と、『白鴉』がいかに帝国に背いてきたかを、すべて語れ」

 吐き気をこらえながら、私はかすれた声を吐き出した。屈辱の宣言、そして辛い記憶の数々が口にするそばから胃の腑を重くえぐっていく。

「……私は、かつて『白鴉』の副団長、アリア・ハートフィールド……帝国に併合していただいたアルカディア王家に仕えていた聖騎士であるという立場にありながら、併合後に帝国に背き……その平和を乱す数々の計画と攻撃行為を主導……しておりました……」

 喉の奥が震え、語りかける言葉が途切れそうになる。だが、司令官の目が「まだ終わりではない」と告げるように鋭く光を放つので、私はさらに言葉を続ける。

「……私は、団長ともに帝国の打倒を画策して仲間を集め……帝国統治下で苦しむ民衆を煽動し……さらなる混乱を引き起こそうと……していました。民を救うためと盲信した愚行でした……しかし、結果として……無謀な戦いに巻き込み、多くの無辜の人々を犠牲に……」

 途中で声が詰まる。かつては“解放”こそ正義と思い、白鴉の仲間とともに帝国を打倒すべく手を尽くした。だが、それを「罪」と認めさせられる今の瞬間は、想像を絶する苦しみだった。けれど、司令官のささやくような冷たさがかかった声が、私にさらなる屈辱を促す。

「――もっと具体的に言え。お前たちが『白鴉』として犯した蛮行を、すべて暴露するんだ」

 “蛮行”――その言葉の響きに胸がちりちりと痛む。確かに破壊工作をして帝国の施設や橋を爆破したことも、密偵を放ち帝国の情報網を揺さぶったこともある。それは祖国アルカディアを取り戻す為の最後の手段だった。けれど、否応なくその「正義だったはずの行為」を自分の“罪”として言い募る行為は、心を徒に削っていく。だが、言わねば、さらに無惨な拷問が、または他の仲間たちや王女様への危害が……その恐怖に押されて、私は再び口を開いた。

「……民間に紛れて帝国の将兵を襲撃し、兵士たちを殺害、負傷させ……戦線を混乱に陥れるよう仕向けていました。物資輸送の隊列を待ち伏せし……馬車を燃やし、兵糧を盗み……帝国に不当な損害を与えました。さらに、帝国に協力的な村や貴族へ脅しをかけ……反帝国への協力を強要したことも……」

 一語一語吐き出すたび、胸の中で何かが砕ける感覚がある。それでも、司令官の目は冷たく私を見下している。彼らにとって、この“告白”は 帝国の絶対的支配を強固に示すための見世物にすぎない。私はとうに抵抗する力を失い、ここでどんな無理難題を突きつけられようとも受け入れざるを得なかった。

「いいか、それがお前たち『白鴉』のやってきたことだ。そして、まだあるだろう。自分自身の罪について――帝国への服従を拒み、今この場まで無益な戦いを続けた、その大罪をはっきり口にしろ」

 司令官の命令に従うしかない私の唇は、痛ましいほど震えていた。

「……私は……旧アルカディアの民を……欺いて……帝国による占領から救うという名目で、実際にはさらなる戦火を拡大し……多くの死者と被害を出す原因を作った……罪深き……存在、です……」

 最後の言葉が掠れ、声が消えそうになる。そこへ追い打ちをかけるように司令官が言う。

「服従を誓え、アリア・ハートフィールド。帝国に無駄な牙を剥く者は、こうなるという見本となれ」

 見上げた司令官の眼差しは、もはや私を哀れむでもなく、ただ興味深い獲物を見るような残酷な光を宿していた。私は奥歯を噛みしめ、何度か喉を鳴らす。血の味がする唾液が苦い。ゆっくりと息を吐き出し、まるで自分ではない誰かの声を聞く心地で、帝国への“降伏”を口にした。

「……私、アリア・ハートフィールドは、ここに……帝国への忠誠を……誓います……」

 その一言が台座に響いた瞬間、空気を劈くようなざわめきと嘲笑が交じり合う。呆気にとられた民衆もいれば、面白おかしげに拍手をする帝国兵もいる。私の存在はすでに誇り高き聖騎士でもなく、反乱軍の副団長でもなく、ただの「反逆者の哀れな成れの果て」だと声高に喧伝されていく。

 ふと、右手首の銀の腕輪が視界の隅で揺れているのに気付く。かつては王女様との誓いの象徴だったはずのそれを、なぜ外されずにいるのか――真相はわからない。自分の弱さを示す戒めとして付けさせられているのか、あるいは最後の一線として私が手放せないのか。今となってはどうでもよかった。

 一切の抵抗を押しつぶされ、失意のどん底で強制的に「罪」を告白させられ、帝国への温順を“宣誓”させられた――その喪失感が私の胸を蝕む。硬い石畳に熱いものが滴り落ちた。自分が泣いているのかどうかも判然としない。ただ、視界が濁っていくなかで司令官や帝国兵たちの高笑いが嫌というほど耳を突き刺してくる。

(――もう、すべてが終わった)

 祖国への思い、高らかに掲げた理想の旗、そして王女様との誓いに至るまで。いま私の喉から出た言葉が、それらすべてを無残に踏みにじってしまった。全身から力が抜け、ただ立ち尽くすこともかなわず、押し倒されるようにその場に崩れ落ちる。広場に充満する帝国の勝ち誇った声を耳にしながら、私は完全に心を折られてしまったのだ。

 深く吐いた息の奥底で、まだささやかな願いが残響する。それは、どこまでも浅ましく、あまりに愚かで、決して叶いはしない一縷の祈り――。

(……せめて、王女様だけは……どうか……)

 けれどその願いさえも、やがては帝国の冷酷な支配の下に打ち砕かれる運命にあるのだろう。私はぼんやりと遠い空を仰ぎながら、右手首の銀の腕輪の重みを今さらながらに感じていた。もうこの腕輪に“聖騎士の誇り”を灯す光はなかったが、それでも私の心に残る最後の残滓として、鈍く沈んだ光をたたえていた。
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