【荒れ地】で育った嫌われ者のDランク冒険者は拾遺者《ダイバー》として今日も最下層に潜る

嵐山紙切

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第二章 魔女の森編

第47話 厄介な奴

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 二本目?
 二本目だと!?

 まずい!
 まずいまずい!

 影の冒険者たちはライラに迫っている。


「逃げろ、ライラ!」


 彼女が影の冒険者パーティから遠ざかるように駆け出す。

 俺はミスリルの剣でホウキを斬ろうとしたが、ホウキはぐるっと宙に浮いたまま回転してそれを避け、そのまま柄を突き出して俺の胸を狙ってきた。

 こいつ、柄の先端に刃物つけてやがる!
 柄自体もミスリルだ!

 ホウキってだけじゃない。
 空飛ぶ槍だ。

 半身になってなんとか刺突を躱す。


「邪魔すんな!」


 ぐっと足を踏み込んで躱して駆け抜けようとしたが、すぐに追いつかれて、背中を襲われる。


「うっ」


 身体を反転させ、切っ先を剣で弾いたが、どれだけ反射速度が速いのか、弾かれると解った瞬間、ホウキは俺の腕を巻き取るように動いて、胴体を狙ってくる。

 ただ、反射では俺も負けていない。

 飛んでくるナイフよりも厳しいがかろうじて掴んだ。

 が、
 ホウキは俺の身体を持ち上げると、そのまま地面に叩きつけた。


「ぐ」


 なんとか受け身をとったところに刺突が来たので、転がって避けると、立ち上がり、後退る。

 このホウキ、単純に戦闘力が高すぎる。

 熟練の槍使い……いや身体がない分、弱点がなく、技の自由度が高すぎて、それ以上の戦闘力を持っている。

 走って突破しようにも空を飛んで追いついてくる。

 本当に魔女が操ってんのか?
 それとも別の魔女がいるのか?

 ホウキの向こうにライラの姿が見える。

 逃げていたはずの彼女は、立ち止まっていた。


「何して……」


 ライラの向かいから、どこからやってきたのかもう一体影の冒険者が走ってきている。

 挟み撃ちにされている。


「くっ!」


 俺はライラに防御魔法を張ったが、ホウキがわずかに上昇して消し、俺が数歩と進まない間に戻ってくる。

 何度もそれを繰り返したが距離はほとんど縮まらない。

 ダメだ。
 ダメだ。

 突然沸いたこの感情を俺は知らない。

 なんだこれは。

 今までずっと遺品を集めて、宝を集めてきた。

 死んだ冒険者から装備を剥ぎ取る時も、心が痛むことはなかった。

 死なんてずっと、ずっと遠くにあった。

 それは、俺が【荒れ地】を生きて、生きて生きて、生き抜いてきたからだ。

 死を無理矢理でも遠ざけてきたからだ。

 なのにいま、こんな形で死を突きつけられる。

 いやだ。

 光り輝く『幸福の花』をみて感動するライラを思い出す。

 俺の冗談にバシバシ肩を叩く彼女を思い出す。

 失いたくない。

 誰かを失いたくないだなんて初めて思った。

 どうしてかは解らない。

 全然気づいていなかった。

 俺はいつの間にか、
 ライラを大切に思っていた。

 ホウキがまた防御魔法を消す。

 何度やっても、すぐに消されてしまう。


「逃げろライラ!」


 俺は叫ぶ。

 喉が潰れてしまうんじゃないかってくらい。

 耳栓をしていて聞こえていないのは解っている。

 それでも、叫ぶ。

 けれどライラはまるで聞こえているかのように俺をみて、
 ふっと微笑んで、


「大丈夫ですよ、シオンさん」


 言って、冒険者パーティの影の方に向かい、剣を構えた。

 何言ってんだ!
 何も大丈夫じゃないだろ!

 俺はホウキを避けようと走ったが、ホウキは次々に刺突を繰り返して、進路を阻む。

 ライラの後ろから一体の影が迫る。

 間に合わない!
 剣を構えて、さらに加速したその冒険者の影はぐっと屈伸して跳び上がり、

 ライラの頭上を越えた。




 青い目が煌々と光る。




「私の天使に何しやがるんだ!!」


 青い目の影が叫ぶ。

 そこでようやく俺は気づく。

 あの鎧、あの姿。

 ここにくる道中、ライラが奴隷から解放した女冒険者の影だ。

 頭をなでた影だ。

 ライラが救った、冒険者だ。

 青い目の影は冒険者パーティを次々に切り裂いていく。

 アイツあんなに強かったのか?


「守る! 守る! 守る守る守る守る!! 私の天使は私が守る!」


 青い目の影が叫ぶ。


「すっげ! 《守護者》のスキルこんなに発揮されたの初めて! さっすが私の天使!」


 聞いたことがある。

 スキル《守護者》。

 心から誰かを守りたい時にだけ、身体能力、魔力などのステータスが上昇するスキル。

 俺との戦闘時にも魔女を守っていたはずだが、それは義務的に守っていただけで、心から守りたかった訳ではないのだろう。

 魔女の奴隷契約の呪いは心まで支配するわけではない。

 それが証明された瞬間だった。

 それにしても……


「私の天使! もうこれは恋! 絶対死ぬまでお供する!」


 ……また厄介な奴に絡まれたんじゃねえかこれ?
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