レイヴン・ヴィランは陰で生きたい~低レアキャラ達を仲間にしたはずなのに、絶望を回避してたらいつのまにか最強に育ってた、目立つな~

嵐山紙切

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第19話 反撃は本気でやる(文句言われたくない)

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「お前ら! アイツを捕らえるッス!」


 ダルトンに命令された男が数人、レイの方へと走ってくる。その手には籠手ガントレットがついているし、身体も大きくて、普通に殴られたらひとたまりもないだろうなとレイは思った。


 そう、普通なら。


 レイは身動き一つしない――と言うか俊敏が足りなすぎてできない。「もしかしたら演技じゃないかも」という不安がわずかにあるものの、怯える暇もなく、

 
 男たちはレイに突撃して、


 そして、跳ね返された。


 ダルトンたちが驚愕する中、レイは確信する。
 

 ついに人様の家にまで演技の協力を願い出るまでになったか、と。


(きっと僕がキャット家に来るってことをメイドちゃんたちが調べて協力してもらったんだろうな。僕があんまりにも不甲斐ないから父上に内緒で美談を作ろうとしてるんだ)


 そうではない。
 

 そうではないが、キャット家に来ることを調べるくらいなら確かにメイドちゃんたちには朝飯前(『私たちの辞書にプライバシーという言葉はありません』)だったので、被害妄想が爆発しているレイがそう思ってしまうのは論理的帰結だった。


(ストーリー的には「ノヴァを襲う裏切り者たちを僕が成敗する」みたいな感じかな。で、きっとあとでメイドちゃんか誰かがやってきて「レイヴン様凄いです。我が君にも報告しましょう」とか言うんだ。酷いマッチポンプだ。『猫の国』の力があれば、こんな洞窟を拠点みたいに作り上げるなんて造作もないだろうし)


 一体どれだけの費用と人材を使ったんだろうとレイは思う――さすがに申し訳ない。


 申し訳ないのでマジで演技してやろうと思った――これで適当に演技したんじゃ、準備してくれた全員から文句を言われる。


(僕、役者じゃないんだけどなあ。ええっと、僕はノヴァを救う役だから、言わなきゃいけないセリフは……)


 そう考えて、レイはダルトンの方を見て、


「ノヴァを返してもらうよ。それが僕の使命だから」


(嘘はついてない――低レアキャラは仲間にしないといけないし)


 レイは一歩ずつ男たちに近づく。


 先ほど地面に転がった男たちは当たり所が悪かったのか気絶している。レイは彼らの一人が腰にぶら下げていた剣を手に取って構えた。


(重い! 演技なんだからもっと軽い剣用意しておいてよ!! 僕がどれだけポンコツなのか知ってるでしょ!!)


 レイは内心文句たらたら。姿勢を維持するのも難しく、切っ先を地面に突き刺すような形に構えを変える。


「その構えは……あの剣豪の……!」


 ダルトンは歯ぎしりをする。


 構えも何も、疲れるから切っ先を地面につけているだけのレイは、


(いいよ、僕をヨイショするための設定はさあ!)


 そう思って溜息をついたが、その溜息すら呼吸法とでも思ったのかダルトンはさらに怯えたように、


「できるわけがないッス! コイツは俺たちを舐めてるだけッス! 全員で取り押さえるッス!!」


 男たちは壁に立て掛けられていた武器を手に取ると一斉に襲ってきた。多対一という構図はレイにとって初めてで、演技と勘違いしていてもその勢いに飲まれてしまう。


(さすが選び抜かれた役者! 迫力が違う! 本物みたいだ!)


 本物です。


 レイは剣を振ると言うより剣に振られるようにして、身体を傾けて遠心力に任せた斬撃を繰り出す。


 かすりもしない。


 けれど、突撃してきた男たちは次々に跳ね返されて、遠くから見ればその斬撃によってただの子供に屈強な男たちが弄ばれているように見えなくもない。


(重いいいい! 疲れるううううう!)


 レイは内心で文句を言いながらも最後の男が飛ばされるまで剣を振り続けた――適当な演技とか言われたくないから。


 結果、あれだけいた男たちの内、数人は弾き飛ばされた衝撃で気絶し、数人は腰を抜かしたまま後退あとずさりをして逃げ出している。


 立っているのはダルトンだけ――いや、その腕にはノヴァが抱かれ、彼女の首筋にはナイフが突きつけられている。


「ま……まさかここまでやるとは思わなかったッス。俺の部下たち、結構やり手だったんスよ? それをこんな風にしちまって……」

「もう諦めなよ。一人しかいないんだし」


(と言うか、演技疲れた。早く終わりにしたい)


 振り慣れない重い剣を振ったせいで疲労困憊のレイだったが、それに追い打ちをかけるようにダルトンは言った。


「一人? 一人じゃないッスよ? 忘れたんスか? 俺には協力者がいるッス。レイヴン様を眠らせたあの女ッスよ。今頃、ネフィラ・スパイダーを殺して、キャット家を制圧してるはずッス」

「…………っ!!」


(まって! たぶんネフィラにもこれが演技だって話してるんだろうけど、あの子、ちゃんと演技してくれるかなあ!? 訓練場に一緒に行ったときは周りが演技してたのにすんごく反発してたからなあ)


 的外れな心配をしていた。


 訓練場でネフィラが反発していたのはレイがソードブレイカーでぶん殴ったあとの余韻を完全に消されたからであり、今回はそんな私怨みたいなものはない。


 そうとは知らず、レイは無駄な心配を重ねて、


(もしかしたら本気で戦っちゃってるかも!! そしたらキャット家の演技が台無しだ!! 早く戻って演技だって伝えないと!!)


 レイが焦っているのを見て、活路を見いだしたのか、ダルトンは嘲るような笑みを浮かべている。


 一時はどうなるかと思ったが計画は進められそうだ――そんな安堵からか、彼はふっと溜息を漏らす。


 ダルトンは忘れている。


 いま人質に取っているノヴァがどんな存在なのかを。


 いままで黙っていた彼女は突然口を開いた。


「ダルトン……お父様はまだ死んでないわよね? あたしに死ぬ瞬間を見せるって言ったんだから」

「ええ、まだ殺してないッスよ。とは言え時間の問題ッスけど」

「そう……良かった」


 言って、ノヴァは首元に突きつけられたナイフに首を押し当て思い切り体重をかけた。身体ごと頭を前に倒してダルトンから少しでも身体を離そうとする。

 
(うわ! そんなことをしたら、首にナイフが!)


 レイはぎょっとしていたがノヴァは止まらない。


 首に刃がこれでもかと言うほどめり込み、大量の血が噴き出す――と言うことはない。


 ノヴァリエ・キャットの防御力ははっきり言って異常値である。薬が切れている現状、ほぼほぼそれは戻っていると言っていい。ナイフ一本を首に押し当てた位じゃ傷一つつかない。


 そもそも、ナイフは引くことで初めて斬れる。
 

 ここでダルトンがそれを実行していれば――すなわち、完全にノヴァの体重が乗った状態で思い切りそのナイフを引いていれば、ノヴァの頸動脈はさすがに切れ、あたりが血で染まっていただろう。


 ただ、ダルトンはそうしなかった。


 そんな行動をとれるなんて思っていなかったから――痛みを嫌うノヴァがそんなことをするなんて。


 呆気にとられた。
 何をしようとしているのかも、思いつかなかった。


「あたしの痛みを思い知れ!」


 ノヴァは言うと、そのまま身体を思い切り起こして、


 その後頭部で、ダルトンの顔面に頭突きをした。


「ぐっ!!」


 呻き声を上げると、ぐらりと、彼の頭が後ろに倒れて鼻血がぱっと散る。そのまま、ダルトンは後ろに倒れて、気絶した。


(うわ! ほんとにやったのかな? アドリブ? 僕がちゃんと助けないからノヴァがやったのかもしれない! 僕不甲斐ない!!)


 レイはしょぼんとしつつ、ノヴァに「ちゃんと演技しなさい!」と怒鳴られるかもと思いつつ、彼女に近づいて行った。


 彼女は自分の首をさすり、血が出ていないことを確認して深く安堵の溜息をつくと、ぱっと顔を上げてレイをみた。


「助けてくれてありがとう。もうだめかと思った」

「ああ、うん」


(演技続けてくれる!! なんてプロ精神!)


 レイが感激していると、ノヴァは続けて、


「ちゃんとお礼はするわ。でも、その前に、お父様たちを助けないと」

「解ってるよ」


(ネフィラが演技だと解らずに大暴れしてたら大変なことになるからね)


 奪われていた腰のポーチを回収して、自分用の回復薬をノヴァに飲ませると、彼女を支えながらレイは洞窟の外に出た。


 そこは小高い丘の上にあったらしく、かなり遠くまで見渡せる場所だった――キャット家の屋敷もはっきりと見える。


 そのとき、ノヴァは何かに気づいて口を押さえた。


「あ!」

「うわ、びっくりした! なに?」

「アイツ、『死ぬ瞬間は、お嬢様にもしっかりと見てもらう』って言ってた。それって、まさか、ここから屋敷が崩れる瞬間を見せるってこと!?」


 あんなに大きな屋敷を一体どうやって? 


 と、レイは尋ねようとした。


 その答えが頭上を通過する。


 危険区域にいるはずの巨大なドラゴンが大きな翼を広げて、


 今まさにキャット家の屋敷の方へと飛行を続けていた。


(え! あのドラゴン偽物だよね!? でもあの屋敷は本物のはず! だって地図で確認してからきたもん! じゃあ、まさか、僕の演技のために屋敷を壊すつもり!? 予算と迷惑かけ過ぎだよ!! やめて!!)


 レイは心のなかで絶叫した。


 ここで問題なのはノヴァは病み上がり、かつ、レイは俊敏が1であるということで、周りには馬車などなく馬だってすでにダルトンの部下たちが乗って逃げてしまっている状態。


 つまり、


 いかにレイがユニークスキルを持っていようと、キャット家の屋敷を救い、ネフィラを助け出すには、あまりにも距離がありすぎると言うことだった。

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