レイヴン・ヴィランは陰で生きたい~低レアキャラ達を仲間にしたはずなのに、絶望を回避してたらいつのまにか最強に育ってた、目立つな~

嵐山紙切

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第28話 いざ人間界へ

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 魔族が人間界に行かなければならないのは、『先祖返り』が起きるからと言うのは先に書いたとおりである。十二歳から三年間という期間を人間界で過ごさなければ、魔族はモンスターへと姿を変えてしまう。


 とはいえ、それを知っているのは魔族たちだけであり、人間たちは人間界に魔族が紛れ込んでいることすら知らない。【漆黒の霧】は絶対であり、魔族は魔界に完全に封印されていると彼らは思い込んでいる。


 教会がそう教えているというのもあるけれど。


 詰まるところ、人間たちは【漆黒の霧】周辺の土地を守る『霧の伯爵』たちのほとんどが魔族であることなど知るよしもないし、人間界を守ってきた多くの英雄の中に魔族が紛れ込んでいることも知らない――これもまた教会の歴史改ざんが大きい。


(人間界で魔族だってバレないようにしないと。まあ【女王】の加護があるからバレないんだけどね)


 そう思いながらレイは、【漆黒の霧】を通り抜けて人間界にやってきた。


「お久しぶりだぜ、レイヴン様。抱きつかせろ、ぎゅー」


 と、つくやいなや、待っていたヨルが、その巨大で出るところが出ている身体でレイを抱きしめた。


 レイはされるがままである。


「あー癒やされるわあ。他の奴ら抱きしめさせてくれねえんだもん。レイヴン様だけだぜ」

「…………苦しいからでしょ」


 実際、ヨルが思い切り抱きしめてしまえば、防御力が高かろうと、背骨が折れ、肋骨が肺に刺さる――そのくらい、彼女の腕力は異常だった。


 ユニークスキルのおかげで、レイにはまったくダメージが入らないけれど。


「ちょ、ちょっとあんた! なにしてるのよ!」


 ちょうどそこで【漆黒の霧】から出てきたノヴァが悲鳴を上げた。


 人間界にやってきた瞬間、同行者が豊満な巨女に締め上げられていたのだから当然の反応である。


 腰に手をさまよわせて剣を探しているあたり、モンスターだと思ったのかもしれない――ノヴァの腰には剣なんてないけれど。


【漆黒の霧】は物質を通さないから。


 とは言え、それでは服も通さない――つまり裸で通り抜けることになってしまうけれど、そうならないようにレイたちは特殊な服を着ている。


 アラクネ族の服。


 その服は【女王の加護】を受けたアラクネ族たちの魔力糸によって作られ、【漆黒の霧】に弾かれることなく通り抜けられる。


 裏を返せば、レイたちはいま、それ以外の荷物を持っていない。


 馬車もなければ金貨もない。


 着の身着のままとはこのことである。


 だからこそ、ヨルが人間界で馬車を準備して待っていた訳だけれど、こう締め上げられてしまうと敵なのか味方なのか解らない。


「そろそろ降ろして」

「はいな」


 降ろされたレイは「ふう」と息を吐き出して自分の両手をみた。


 ちゃんと人間になっている。


 ノヴァも【女王の加護】で人間の姿になっているけれど、いまは顔を真っ赤にして文句を言っているのでそれどころじゃない。


「いや! 止めて! 近づくな!」

「ノヴァリエ様、聞いてるぜ。防御力が高いんだろ? じゃあウチの抱擁にも耐えられるよなあ。人間姿のノヴァリエ様可愛いなあ。抱きしめさせろ」

「いやああ! レイヴン助けて!」


 ノヴァはレイの後ろに隠れた。


「止めなよ。一応『猫の国』の姫なんだから」

「そ、そうよ! あたし偉いのよ! あたしが言えば国が総出で襲ってくるわよ!」

「受けて立つぜ! 国ぐらい何でもねえ」


(マジで言ってんの!? 止めてよ!! 僕のすみっこぐらしが!)


 一時の快楽で国と戦争することも辞さないとか頭がおかしい――これだから高レアキャラは、とレイは思った。


(ま、高レアだろうって僕が思ってるだけで、ヨルは実際にゲームには登場しないんだけどね)


 とは言え、四人一度に相手取って全員を無傷で気絶させ、担いで落ちてくるような奴が低レアなわけがなく、レイとしては、あんまり近くにいてほしい存在ではなかった。


 守ってくれているのにひでえ評価である。 


(僕の目的はひっそり暮らすことで、だからネフィラとかノヴァとか低レアキャラを仲間にして、裏切られるまで手伝ってもらってるのに、高レアキャラにぶっ壊されたんじゃたまったもんじゃない)


 そうレイは考えているけれど、そもそも適当やって色々ぶっ壊しているのはレイ本人だし、現在、すでにネフィラやノヴァは低レアキャラと言うにはステータスが優秀すぎている。


 レイに救われた時点でネフィラが『先祖返り』をせずに魔族として本領を発揮できるようになったのは先に書いたとおりだが、ノヴァもゲームでは薬を常習的に使われたせいで防御力が極端に下がっていた――それでもある程度壁役として使える低レアキャラとして地位を築いていたけれど。


 もちろんそんなゲーム的な裏話など知らないレイは、


(ノヴァは防御力お化けだけど、そうは言ってもダンジョン潜るなら一人で僕を守るのは無理があるだろうからなあ。パーティメンバーは必須だよね。……ヨルはパーティにしないけど。目立つから)


「ヨル。遊んでないで準備を手伝って。冒険者ギルドに行くんだから」

「ウチもついていくぜ。レイヴン様をお守りするぜ」

「来なくていい。僕が一人でも生きていけるようにする準備なんだからヨルがいたら準備にならないでしょ」

「おお! 偉いな、レイヴン様。感動したぜ。そういうことならウチは身を引くぜ。大教会で登録した時から成長したなあ。うんうん」


(あれからいろいろやらかしたからね! 僕がここにていよく追放されたんだってヨルも解ってるでしょ! 偉いとか皮肉じゃん!)


 頷いていたヨルは続けて、


「よっしゃ。じゃあ街の近くまで送ってやるぜ!」

「……あの、さっきから聞きたかったんだけどさ」

「ん? なんだ?」

「馬車は?」

「忘れてきた」

「……どうやってあたしたち送るつもりなのよ」


 ノヴァが言うとヨルはにっと笑った。


「ウチが担いでいくぜ」

「山賊かな?」

「メイドだぜ」

「……とりあえず一回屋敷に連れてってよ。そこから馬車で行くから」

「はいな」


 仕方なくレイとノヴァはヨルに担がれて屋敷へと向かった――その選択が後になって面倒なことを引き起こすのも知らずに。

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