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遭難、からの 2
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意識を失っている間、懐かしい夢を見た。
俺がまだ小さな子供だった頃にランさんとほんの少しだけ言葉を交わしたあの日の記憶だ。俺の目の前にしゃがんで視線を合わせてくれた彼女。光を浴びてキラキラ輝く薄水色の長い髪に透き通る榛色の瞳、そして背中に広がる瑠璃色の大きな翼。柔らかな春の日差しのような微笑みを浮かべる彼女は夢の中でも美しくて、俺はきゅうと胸を締め付けられた。
「会いたい。俺、あなたに会いたいんです」
子供の俺ではなく今の俺の気持ちを口にする。その言葉に彼女は微笑みを崩すことなく俺の手を握ってくれた。
「またお会いできたらゆっくりお話ししましょう」
そう言って立ち上がり、俺から背を向ける。躊躇いなく去っていくその背中を追いかけるが、どれだけ必死に走ってもその背に追いつくことはできなかった。
「待って……待って!行かないで!」
手を伸ばしても届かない。それでも諦められなくて走って、呼んで、手を伸ばして。
「まっ……!」
そして目が覚めた。
「っえ……?」
目覚めたばかりで今自分がどこにいるのかわからず、俺は横たわったまま視線を彷徨わせる。
さらりとしたシーツの肌触り、まず俺はベッドに寝ている。そして木でできた壁と天井にこれまた木製の飾り気のない家具がぽつぽつと並ぶ。窓から見える景色は森の木々で、もう日暮れなのか少し赤く染まっていた。
ええと、本当にどこだここ。
俺は頭を打ってそのまま意識を失ったはず。もしかして誰か倒れてる俺を見つけて助けてくれたんだろうか。まだぼんやりしているが起き上がって自分の体を見てみれば、服はダボダボだけれど綺麗なものを着ていて、痛めた足には包帯が巻いてあった。
一体誰が。
そう考えていると外から足音が聞こえてきて、程なくして部屋の扉が開いた。
教授かアイズナーさんかはたまたエンセイか。誰だろうと怒られるだろうなと扉の方へ目をやって、俺は驚きに目を見開いた。
「あ……」
部屋に入ってきたのは大柄な男。その人は薄水色の髪に榛色の瞳、そして大きな瑠璃色の翼を生やしていたのだ。
彼女と同じ色だ。全く同じ色を持った人が目の前に立っている。
「ああ、気が付いたのか。気分は?」
俺が起きていることに気づいた男は一瞬驚いたのか目を見開いて、次いでほっと息を吐いていた。ゆっくり近づいてきて俺の顔を覗き込む。
「聞こえてるか?痛みは?」
「え?あっ……はい、大丈夫です」
はっとして咄嗟に答える。この様子では俺を助けてくれたのは多分この人だ。水の入ったグラスをテーブルに置きながら男は状況を説明してくれた。
「狩りのために外に出ていて森の中で倒れているのを見つけたんだ。意識もないし、怪我もしていてずぶ濡れだったからひとまず家へ運ばせてもらった。君、もしかして川に落ちたのか?」
髪の色、目の色、羽の色。どれも彼女とそっくりだ。だけどどう見ても男の人で、多分俺よりかなり背が高いし腕なんて軍人のように太い。顔つきもキリッとした男らしい美形といった感じだ。明らかに彼女じゃない。
でもなんだろう、色だけじゃなくて纏う空気も似ているような……
「聞いてる?もしかしてまだ意識はっきりしてない?」
「あっ!ご、ごめんなさい!ぼーっとしてました」
完全に違うことを考えていて反応しない俺を気遣わしげに見てくる男。助けてくれた人に失礼だったと気付いて一旦彼女のことを横へ置いておくことにした。
「俺はクラウスと言います。危ないところを助けていただきありがとうございました」
ベッドの上で座ったままだが男に頭を下げる。男は礼などいらないと首を振り、ベッドの脇に置いたイスヘ腰かけた。
「無事で何よりだが……君は人間だろう?なぜこの森に?ここは人間の立ち入りはできないはずだ。それとも、森より上流から流れてきたと言うつもりか?」
「いえ、違います。流石にそんな距離流されたら死んじゃってます!」
「では何故?」
男は目を眇めて俺を見ている。
疑われている。当然だ。人間の立ち入りが禁止されている森で怪我をした人間なんて、事情を知らなきゃ不審人物としか思えない。俺は男の誤解を解こうと慌てて事の次第を説明することにした。
「俺は不法侵入者ではありません!ちゃんと族長から許可は得ています!ただその、ちょっとトラブルがありまして……」
俺がまだ小さな子供だった頃にランさんとほんの少しだけ言葉を交わしたあの日の記憶だ。俺の目の前にしゃがんで視線を合わせてくれた彼女。光を浴びてキラキラ輝く薄水色の長い髪に透き通る榛色の瞳、そして背中に広がる瑠璃色の大きな翼。柔らかな春の日差しのような微笑みを浮かべる彼女は夢の中でも美しくて、俺はきゅうと胸を締め付けられた。
「会いたい。俺、あなたに会いたいんです」
子供の俺ではなく今の俺の気持ちを口にする。その言葉に彼女は微笑みを崩すことなく俺の手を握ってくれた。
「またお会いできたらゆっくりお話ししましょう」
そう言って立ち上がり、俺から背を向ける。躊躇いなく去っていくその背中を追いかけるが、どれだけ必死に走ってもその背に追いつくことはできなかった。
「待って……待って!行かないで!」
手を伸ばしても届かない。それでも諦められなくて走って、呼んで、手を伸ばして。
「まっ……!」
そして目が覚めた。
「っえ……?」
目覚めたばかりで今自分がどこにいるのかわからず、俺は横たわったまま視線を彷徨わせる。
さらりとしたシーツの肌触り、まず俺はベッドに寝ている。そして木でできた壁と天井にこれまた木製の飾り気のない家具がぽつぽつと並ぶ。窓から見える景色は森の木々で、もう日暮れなのか少し赤く染まっていた。
ええと、本当にどこだここ。
俺は頭を打ってそのまま意識を失ったはず。もしかして誰か倒れてる俺を見つけて助けてくれたんだろうか。まだぼんやりしているが起き上がって自分の体を見てみれば、服はダボダボだけれど綺麗なものを着ていて、痛めた足には包帯が巻いてあった。
一体誰が。
そう考えていると外から足音が聞こえてきて、程なくして部屋の扉が開いた。
教授かアイズナーさんかはたまたエンセイか。誰だろうと怒られるだろうなと扉の方へ目をやって、俺は驚きに目を見開いた。
「あ……」
部屋に入ってきたのは大柄な男。その人は薄水色の髪に榛色の瞳、そして大きな瑠璃色の翼を生やしていたのだ。
彼女と同じ色だ。全く同じ色を持った人が目の前に立っている。
「ああ、気が付いたのか。気分は?」
俺が起きていることに気づいた男は一瞬驚いたのか目を見開いて、次いでほっと息を吐いていた。ゆっくり近づいてきて俺の顔を覗き込む。
「聞こえてるか?痛みは?」
「え?あっ……はい、大丈夫です」
はっとして咄嗟に答える。この様子では俺を助けてくれたのは多分この人だ。水の入ったグラスをテーブルに置きながら男は状況を説明してくれた。
「狩りのために外に出ていて森の中で倒れているのを見つけたんだ。意識もないし、怪我もしていてずぶ濡れだったからひとまず家へ運ばせてもらった。君、もしかして川に落ちたのか?」
髪の色、目の色、羽の色。どれも彼女とそっくりだ。だけどどう見ても男の人で、多分俺よりかなり背が高いし腕なんて軍人のように太い。顔つきもキリッとした男らしい美形といった感じだ。明らかに彼女じゃない。
でもなんだろう、色だけじゃなくて纏う空気も似ているような……
「聞いてる?もしかしてまだ意識はっきりしてない?」
「あっ!ご、ごめんなさい!ぼーっとしてました」
完全に違うことを考えていて反応しない俺を気遣わしげに見てくる男。助けてくれた人に失礼だったと気付いて一旦彼女のことを横へ置いておくことにした。
「俺はクラウスと言います。危ないところを助けていただきありがとうございました」
ベッドの上で座ったままだが男に頭を下げる。男は礼などいらないと首を振り、ベッドの脇に置いたイスヘ腰かけた。
「無事で何よりだが……君は人間だろう?なぜこの森に?ここは人間の立ち入りはできないはずだ。それとも、森より上流から流れてきたと言うつもりか?」
「いえ、違います。流石にそんな距離流されたら死んじゃってます!」
「では何故?」
男は目を眇めて俺を見ている。
疑われている。当然だ。人間の立ち入りが禁止されている森で怪我をした人間なんて、事情を知らなきゃ不審人物としか思えない。俺は男の誤解を解こうと慌てて事の次第を説明することにした。
「俺は不法侵入者ではありません!ちゃんと族長から許可は得ています!ただその、ちょっとトラブルがありまして……」
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