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遭難、からの 3

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 俺は有翼種の民俗研究を行っている学生であること、フィールドワークの一環で許可を取ってシェンフゥの森へ入ったこと、今朝からエンセイに案内を受け遺跡へ訪れていたことを説明した。

「遺跡にいる時に俺が誰にも言わずに単独で行動して、足を滑らせて川へ落ちてしまったんです。何とか川から上がって、町へ戻ろうと迷っている時に転んで頭を」

 頭に触れるとガーゼのようなものが貼ってある。この人が手当してくれたんだろう。その親切な男は俺の話も黙って聞いてくれている。

「なるほど、そういう事か……」
「すみません。俺の勝手で皆さんにご迷惑を」
「うん、それは後で君の教授や担当者に怒られてくれ。私は状況の把握をしたかっただけだから。まあ、褒められた行動ではないと思うけど」
「はい……」

 ごもっともでございます。神妙な顔で腕を組んで答える男に俺はしょんぼりと小さくなった。

「君は足を傷めているし、頭も打ってるから一晩はここで安静にするといい。族長には明日迎えに来てほしいと伝えておくから」
「ありがとうございます。えっと……あの、お名前を伺ってもいいですか?」
「ああ」

 そういえばまだ名前を聞いていない。助けてくれた人の名前くらいは知りたいと問いかけると男も今気付いたかのような声を出した。

「私の名はハオランだ。よろしく」
「ハオランさん……」

 なんと名前まで似ている。もしかしてこの人はランさんの親戚だったり……?
 気になる。気になるけどいきなりこんなこと訊くのは流石に失礼だろうか。さっきエンセイを怒らせたばっかりだしな。

「目も醒めたことだし、町へ君の無事を知らせてくる。君は安全のためにベッドから動かないように。水はそこに置いておくから好きに飲んでくれ」
「あ、ありがとうございます。もしかして、町の中心地ってここから近いんですか?」
「飛べばそう遠くはないが、ここは町からは外れたところにあって私以外の住人はいない。君は運が良かったよ。私が見つけていなければ森の中で夜になっていたかもしれない。夜は野生の肉食獣が活発になるから危険なんだ」

 淡々と、何でもないように言うがこれは聞き捨てならない話だ。それ、下手したら死んでたかもしれない。見つけてもらえて本当によかった。
 鮮やかな赤い夕焼け空をした窓の外を眺めて俺はほっと安堵の息を吐く。

「1時間ほどで戻る。大人しくしているように」
「はい」

 そう言ってハオランさんは部屋を出ていく。出て行く前にぽんぽんとシーツの上から無事な足を軽く叩かれて、優しさに胸が暖かくなった。
 その背を見送ってからもう一度窓の外を見ると、ちょうど彼が翼を羽ばたかせて空を飛んでいく姿が見える。

「あ……!」

 ひらり、まるで重さを感じさせない動きに思わずベッドから飛び出て窓に張り付く。この時ばかりは足の痛みなど感じなかった。
 夕焼けの赤い光を受けて薄水色の髪がきらきらと光り、瑠璃色の羽が艶やかな濃紺に色を変える。そのゆったりと大きな羽ばたきに俺の心は酷く揺さぶられた。

「きれい」

 ああ、彼女が羽ばたいているみたいだ。
 ハオランさんが町へ向かって飛んでいく姿が小さく小さくなるまで見送って、米粒みたいに小さくなった影は町を見つけたのか森の中へと消えていった。

「はぁ……あ、いったた」

 姿が見えなくなった途端に足の痛みが蘇ってきた。立ってるだけでも痛い。へっぴり腰でベッドに乗り上げて足を伸ばした。
 労わるように痛む左足を撫でながら、ハオランさんのことを考える。

 愛想がいいとは決して言えないが、ハオランさんは多分いい人だ。
 怪我をしているとはいえ不審な存在である俺を助け、家に上げて手当までしてくれた。ベッドを貸してくれて、今なんて俺を自分の家に1人にしている。寧ろちょっと警戒心が低いんじゃないだろうか。いや、もちろんおかしなことをするつもりはないけど。

 ハオランさんは俺がずっと会いたいと思っていたランさんと同じ色を持っている。そりゃ性別は違うし体つきもがっしりした偉丈夫だ。でもどことなく顔つきに彼女の面影を感じて、それをただの偶然とは思えなかった。

「ハオランさんか……」
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