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1週間後
それからさらに2日経ち、すっかりヒートが落ち着いた俺はようやく部屋の外に出ることができた。
「ネロさま、もうだいじょうぶ?おからだ何ともない?」
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です」
「本当に?ムリしちゃダメよ?」
「本当に大丈夫!これはオメガには必ずあることで、病気とかじゃないんですよ」
「ほんと?うそじゃない?」
すっきりツヤツヤで寝室から出た俺に飛びついてきたのは涙目のジュリエッタ。彼女は俺が怪我をして帰ってきてからずっと俺のことを心配してくれていたらしい。慰めるステファノの声も届かず、食欲も落ちていたとか。
ステファノが言うには、俺がぐったりとしている姿にかつての母の姿を重ねてしまったんだろうとのことだった。2人の母親は2年前に病気で亡くなっている。体調不良というだけでも過剰に反応してしまうのだろう。それを聞いてしまうと何だかすごく胸が痛い。
「こーんな可愛いジュリエッタ様に嘘なんて吐くもんですか。俺はもうすっかり元気です。ルキーノ様が治してくれましたからね」
その小さな体を抱き上げて頬に大丈夫だよとキスをする。ジュリエッタからきゃあと可愛らしい声が上がった。かわいいな。
「俺のこの体の変化はね、オメガなら定期的に来ます。でも、番であるルキーノ様がいればなーんの心配もないんですよ。ルキーノ様と俺がより仲良くなるための期間だと思ってください」
「お父さまと、もっとなかよく?」
「はい」
怪我の件は置いといて、やんわりとオメガ特有の発情期のことを説明する。ジュリエッタのバース性が何であろうと知っているに越したことはないだろう。発情期の度に心配で食事も摂れなくなっては可哀想だ。
「な、だから言っただろう?ネロは大丈夫だって」
「うん、そうみたい。よかったぁ」
心配ないとわかってようやくいつもの朗らかな笑顔を浮べてくれる。ステファノもほっとした表情だ。彼にも随分心配させてしまったな。
そのステファノと目が合って、じっと見つめられる。何だか物言いたげな視線に首を傾げた。
「どうしました?」
「いや……番けいやくというのは、こんいんのけいやくとはちがうものなのだなと思って」
「どう言うことです?」
「うまくは言えないが、ネロの発情期に入る前とはふんいきが全然ちがって見える。何だろう?キラキラしてるし……ここにいないのにお前から父上のけはいがする」
自分でも形容し難いのか首を傾げながらそう語るステファノ。この子はアルファ性が強いのかもな。まだ幼いのに番を得たオメガの変化に気付くなんて驚きだ。
「番契約ってそういうものなんですって。見えない糸みたいなもので繋がって、お互いが唯一無二の存在に変わるんです。そしてそれが、わかる人にはわかるらしいですよ」
「ゆいいつむに」
「ステファノ様ももう少し大人になったら実感するようになりますよ」
「ジュリは?」
「もちろんジュリエッタ様も」
ステファノとジュリエッタの視線は剥き出しになった俺の首に注がれている。2人がネックガードを着けていない姿を見るのは初めてだ。
人生でたった1人の特別な人と番にならなければ外してはいけないのだと話していたから、きっとその意味を考えているのだろう。それから俺が満たされた表情でいるのを見て、ステファノはどこか嬉しそうに、目を輝かせて呟いた。
「そうか。それは少し、たのしみかもしれない」
ステファノのバース性に対する認識の修正はいい方向に働いているかな。未来の番へ想いを馳せる姿は期待に彩られている。俺は嬉しくなってにこにこと上機嫌に笑った。
これで俺とルキーノが睦まじく過ごしていれば乳母たちが植え付けた偏見もなくなっていくだろう。
「ルキーノ様は今日から本格的にお仕事に復帰ですからね。お帰りになるまで俺と一緒にお茶やお勉強をしましょう」
「はぁい!」
「いいだろう。つきあってやる」
今日は子供たちと過ごす時間を最優先にしていいとルキーノから許可をもらっている。1週間ぶりの子供たちとの会話に癒されて過ごし、子供たちが眠る頃に帰ってきたルキーノを出迎えた。
ルキーノもヒート休暇で1週間公務を控えていた。寝室でできる程度の書類仕事はしていたみたいだけど、本格的な復帰は今日から。王宮で溜まっていた仕事をこなし、ついでに俺を誘拐したあの男の件についても対応していたらしい。
食堂で軽い夕食を摂るルキーノに付き合う俺にその経過を報告してくれた。
「エヴァンドロが?」
「正確には王都警備隊がだ。先日の件で被害者であるお前に事情聴取をしたいと申し出があった」
男は今王都警備隊が有する留置所に拘留されている。男への尋問はもちろん進んでいるが、被害者である俺からもある程度の証言は必要とのことだった。そりゃそうだ。あいつが保身や思い込みで自分の都合のいいように言っている可能性は高いからな。
ふむ、と口元に手を当て考える。
「事情聴取か……」
「断っても構わない。我々と王都警備隊が現行犯で取り押さえているうえ、犯人の発言からもあちらに悪意があったのは明確だ。それだけで罪に問うことはできる」
「いえ、話します。あいつの言い分だけで判断されるのはなんかイヤなので」
俺はルキーノの提案をすっぱり断り事情聴取に応じることにした。思い出したくないだろうと当事者なのに蚊帳の外とか勘弁してほしいもん。
そんな風に言い切る俺をルキーノはしばらくじっと見ていたが、俺の表情を見て問題ないと判断したようだった。軽く頷く。
「そうか」
ルキーノはそれ以上は何も言わなかった。そのまま淡々と事情聴取の日取りを決め、3日後にエヴァンドロともう1人が屋敷に赴くことになった。
「ネロさま、もうだいじょうぶ?おからだ何ともない?」
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です」
「本当に?ムリしちゃダメよ?」
「本当に大丈夫!これはオメガには必ずあることで、病気とかじゃないんですよ」
「ほんと?うそじゃない?」
すっきりツヤツヤで寝室から出た俺に飛びついてきたのは涙目のジュリエッタ。彼女は俺が怪我をして帰ってきてからずっと俺のことを心配してくれていたらしい。慰めるステファノの声も届かず、食欲も落ちていたとか。
ステファノが言うには、俺がぐったりとしている姿にかつての母の姿を重ねてしまったんだろうとのことだった。2人の母親は2年前に病気で亡くなっている。体調不良というだけでも過剰に反応してしまうのだろう。それを聞いてしまうと何だかすごく胸が痛い。
「こーんな可愛いジュリエッタ様に嘘なんて吐くもんですか。俺はもうすっかり元気です。ルキーノ様が治してくれましたからね」
その小さな体を抱き上げて頬に大丈夫だよとキスをする。ジュリエッタからきゃあと可愛らしい声が上がった。かわいいな。
「俺のこの体の変化はね、オメガなら定期的に来ます。でも、番であるルキーノ様がいればなーんの心配もないんですよ。ルキーノ様と俺がより仲良くなるための期間だと思ってください」
「お父さまと、もっとなかよく?」
「はい」
怪我の件は置いといて、やんわりとオメガ特有の発情期のことを説明する。ジュリエッタのバース性が何であろうと知っているに越したことはないだろう。発情期の度に心配で食事も摂れなくなっては可哀想だ。
「な、だから言っただろう?ネロは大丈夫だって」
「うん、そうみたい。よかったぁ」
心配ないとわかってようやくいつもの朗らかな笑顔を浮べてくれる。ステファノもほっとした表情だ。彼にも随分心配させてしまったな。
そのステファノと目が合って、じっと見つめられる。何だか物言いたげな視線に首を傾げた。
「どうしました?」
「いや……番けいやくというのは、こんいんのけいやくとはちがうものなのだなと思って」
「どう言うことです?」
「うまくは言えないが、ネロの発情期に入る前とはふんいきが全然ちがって見える。何だろう?キラキラしてるし……ここにいないのにお前から父上のけはいがする」
自分でも形容し難いのか首を傾げながらそう語るステファノ。この子はアルファ性が強いのかもな。まだ幼いのに番を得たオメガの変化に気付くなんて驚きだ。
「番契約ってそういうものなんですって。見えない糸みたいなもので繋がって、お互いが唯一無二の存在に変わるんです。そしてそれが、わかる人にはわかるらしいですよ」
「ゆいいつむに」
「ステファノ様ももう少し大人になったら実感するようになりますよ」
「ジュリは?」
「もちろんジュリエッタ様も」
ステファノとジュリエッタの視線は剥き出しになった俺の首に注がれている。2人がネックガードを着けていない姿を見るのは初めてだ。
人生でたった1人の特別な人と番にならなければ外してはいけないのだと話していたから、きっとその意味を考えているのだろう。それから俺が満たされた表情でいるのを見て、ステファノはどこか嬉しそうに、目を輝かせて呟いた。
「そうか。それは少し、たのしみかもしれない」
ステファノのバース性に対する認識の修正はいい方向に働いているかな。未来の番へ想いを馳せる姿は期待に彩られている。俺は嬉しくなってにこにこと上機嫌に笑った。
これで俺とルキーノが睦まじく過ごしていれば乳母たちが植え付けた偏見もなくなっていくだろう。
「ルキーノ様は今日から本格的にお仕事に復帰ですからね。お帰りになるまで俺と一緒にお茶やお勉強をしましょう」
「はぁい!」
「いいだろう。つきあってやる」
今日は子供たちと過ごす時間を最優先にしていいとルキーノから許可をもらっている。1週間ぶりの子供たちとの会話に癒されて過ごし、子供たちが眠る頃に帰ってきたルキーノを出迎えた。
ルキーノもヒート休暇で1週間公務を控えていた。寝室でできる程度の書類仕事はしていたみたいだけど、本格的な復帰は今日から。王宮で溜まっていた仕事をこなし、ついでに俺を誘拐したあの男の件についても対応していたらしい。
食堂で軽い夕食を摂るルキーノに付き合う俺にその経過を報告してくれた。
「エヴァンドロが?」
「正確には王都警備隊がだ。先日の件で被害者であるお前に事情聴取をしたいと申し出があった」
男は今王都警備隊が有する留置所に拘留されている。男への尋問はもちろん進んでいるが、被害者である俺からもある程度の証言は必要とのことだった。そりゃそうだ。あいつが保身や思い込みで自分の都合のいいように言っている可能性は高いからな。
ふむ、と口元に手を当て考える。
「事情聴取か……」
「断っても構わない。我々と王都警備隊が現行犯で取り押さえているうえ、犯人の発言からもあちらに悪意があったのは明確だ。それだけで罪に問うことはできる」
「いえ、話します。あいつの言い分だけで判断されるのはなんかイヤなので」
俺はルキーノの提案をすっぱり断り事情聴取に応じることにした。思い出したくないだろうと当事者なのに蚊帳の外とか勘弁してほしいもん。
そんな風に言い切る俺をルキーノはしばらくじっと見ていたが、俺の表情を見て問題ないと判断したようだった。軽く頷く。
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