玉の輿だったはずなのに!

木島

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正直俺だってぶん殴りたい気持ちはある

 そもそも何故王都警備隊にあの男の身柄が拘束されているのか。
 普通は王都警備隊が確保に協力したとしても辺境伯家くらい大きな家が相手なら望めばあっさり犯人を引き渡して全ての裁量を任せてしまうはずだ。そうならなかったのはエヴァンドロの正義感もあるが、一番は俺とルキーノがあいつの存在を気にすることなく発情期を過ごし、無事番になれるようにという配慮によるものらしい。
 あの日事後処理を請け負ったカミッロはエヴァンドロにそう説得され、一理あると引き下がったと聞いている。

 確かに、すぐ近くに俺を誘拐して強姦したアルファがいたら落ち着かなかったと思う。ルキーノだってそっちを気にしてあんなにずっと側にはいてくれなかったかも。そう考えるとエヴァンドロの配慮に感謝したいくらいだ。それはルキーノも理解しているが、それとこれとは別問題のようだった。

「もちろん、このまま裁判で刑が確定するまで我々が預かります」

 ルキーノの鋭い眼光に晒されながら答えるエヴァンドロの表情は緊張で強張っている。対するルキーノは大袈裟なほど大きな溜息を吐いてゆったりと足を組んだ。

「アレは当家の配下の者で主人である我らに害を齎したのだ。これはベネディクティス家の家内の問題。我ら自身で罰を与える。速やかにこちらへ引き渡してもらいたい」
「王都で起きた問題は我々王都警備隊が対処します。ご安心ください、ベネディクティス辺境伯家に悪いようにはなりません」
「私自身が裁かねば気が済まないと言っているのだ。奴を引き渡せ」
「認められません」

 隣からチッ、と強い舌打ち。ルキーノが物凄く苛ついている。それでもエヴァンドロが譲る様子はない。睨み合う2人の目に見えない火花がバチバチだ。
 ちなみに隣のオセロは一言も喋ってないけどものすごく顔色が悪い。
 この2人、さすがは原作で主人公と敵だっただけあってめっちゃ相性悪いっぽいな……てかルキーノが怖えーよぉ!やだこの一触即発な空気!

「ま、まあ落ち着いて。ルキーノ様、悪いようにはしないって言ってるんだし任せましょうよ」
「お前は黙ってろ」
「なんでぇ?」

 俺当事者ぞ?何よその言い草酷くない?

「彼は公的な場で犯した罪に対して正当な裁きを受けるべきです」
「エヴァンドロ!すすすすみません、この男頑固者で!その件に関しましてはじょ、上司にも掛け合っておりますのでこの場は何卒ご容赦を!」

 全く折れない2人の間に果敢にも真っ青な顔で飛び込んでいったオセロ。深々と頭を下げながらエヴァンドロの頭もグイグイ押して無理やり頭を下げさせる。対するエヴァンドロはまだ何か言いたそうな表情だったが、賢明にも口を噤んだ。
 うん、それでいいと思うよ。ルキーノは辺境伯。怒らせたらエヴァンドロの立場が悪くなるだけだ。

「ルキーノ様、今日はもういいでしょ?エヴァンドロたちだって自分で勝手にどうこうなんてできないんですから。今日は持ち帰ってもらいましょ」

 ね、と腕に手を添えて説得する。ルキーノはちらりと俺を見下ろしてしばらく黙っていたが、やがて不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。

「返答は早急に。いつまでも引き延ばすようならばこちらにも考えがある。そう伝えておけ」
「しょ、承知いたしました!」

 ルキーノに怯えた様子を見せながらもなんとか受け答えを続けるオセロ。なんか物凄く気弱そうな人だけど、こんな感じで荒事とか務まるんだろうか。すぐやられそうで心配になるな。

「それでその、最後の確認なのですが……」

 おっかなびっくりのオセロから聞かされたのは男の変わらぬ主張。男は未だ俺を運命と信じており、全て同意の上の行為であったと言い続けているらしい。それは事実かと問われ、俺はにこりと満面の笑みを浮かべた。

 もちろん答えは決まってる。全力でノー!だ。

「俺はルキーノ様の夫だよ?俺の唯一の人はルキーノ様だ」
「ですよね」

 あちらもただの形式的な質問という奴だったみたいだ。反論は特にない。これまでのことを書き付けていたノートをぱたりと閉じるとエヴァンドロは俺を見て頷いた。

「聴取はこれで以上となります。お2人ともご協力ありがとうございました」

 どうやらこれで一通りの聴取が終わったらしい。帰り支度を始める2人にもう興味を無くしたのかさっさとサロンを後にするルキーノ。と、それについて行くカミッロ。え、俺置いて行っちゃうんだ。

 俺はと言えばこれは労いにお茶くらい出した方がいいのでは?と業者が家に来た時の母親みたいな気持ちでおろおろしていた。

「えっと、あの、ブリジッタお茶を……」
「ネロ様、どうぞお構いなく」
「お、お気持ちだけ頂戴いたします」
「そう?いらないの?」

 じゃあせめてお見送りだ。出て行こうとする2人を玄関先まで先導する。

「私もベネディクティス辺境伯も、カミッロ殿もあの日の奴の狼藉を目の当たりにしています。あなたの言葉を疑う余地はありません。奴は独りよがりな考えであなたを深く傷つけた。必ず、奴に己の行いの報いを受けさせましょう」
「エヴァンドロ……ありがとう」

 去り際に力強くそう言ったエヴァンドロはまさにヒーロー。うんうん、こういう人が警察とかにいたら頼りたくなっちゃうよね。俺もちょっとじんと来ちゃった。
 まあ、敵対する可能性がある以上絆されるわけにはいかないんですけど!
 



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