56 / 77
正直俺だってぶん殴りたい気持ちはある
そもそも何故王都警備隊にあの男の身柄が拘束されているのか。
普通は王都警備隊が確保に協力したとしても辺境伯家くらい大きな家が相手なら望めばあっさり犯人を引き渡して全ての裁量を任せてしまうはずだ。そうならなかったのはエヴァンドロの正義感もあるが、一番は俺とルキーノがあいつの存在を気にすることなく発情期を過ごし、無事番になれるようにという配慮によるものらしい。
あの日事後処理を請け負ったカミッロはエヴァンドロにそう説得され、一理あると引き下がったと聞いている。
確かに、すぐ近くに俺を誘拐して強姦したアルファがいたら落ち着かなかったと思う。ルキーノだってそっちを気にしてあんなにずっと側にはいてくれなかったかも。そう考えるとエヴァンドロの配慮に感謝したいくらいだ。それはルキーノも理解しているが、それとこれとは別問題のようだった。
「もちろん、このまま裁判で刑が確定するまで我々が預かります」
ルキーノの鋭い眼光に晒されながら答えるエヴァンドロの表情は緊張で強張っている。対するルキーノは大袈裟なほど大きな溜息を吐いてゆったりと足を組んだ。
「アレは当家の配下の者で主人である我らに害を齎したのだ。これはベネディクティス家の家内の問題。我ら自身で罰を与える。速やかにこちらへ引き渡してもらいたい」
「王都で起きた問題は我々王都警備隊が対処します。ご安心ください、ベネディクティス辺境伯家に悪いようにはなりません」
「私自身が裁かねば気が済まないと言っているのだ。奴を引き渡せ」
「認められません」
隣からチッ、と強い舌打ち。ルキーノが物凄く苛ついている。それでもエヴァンドロが譲る様子はない。睨み合う2人の目に見えない火花がバチバチだ。
ちなみに隣のオセロは一言も喋ってないけどものすごく顔色が悪い。
この2人、さすがは原作で主人公と敵だっただけあってめっちゃ相性悪いっぽいな……てかルキーノが怖えーよぉ!やだこの一触即発な空気!
「ま、まあ落ち着いて。ルキーノ様、悪いようにはしないって言ってるんだし任せましょうよ」
「お前は黙ってろ」
「なんでぇ?」
俺当事者ぞ?何よその言い草酷くない?
「彼は公的な場で犯した罪に対して正当な裁きを受けるべきです」
「エヴァンドロ!すすすすみません、この男頑固者で!その件に関しましてはじょ、上司にも掛け合っておりますのでこの場は何卒ご容赦を!」
全く折れない2人の間に果敢にも真っ青な顔で飛び込んでいったオセロ。深々と頭を下げながらエヴァンドロの頭もグイグイ押して無理やり頭を下げさせる。対するエヴァンドロはまだ何か言いたそうな表情だったが、賢明にも口を噤んだ。
うん、それでいいと思うよ。ルキーノは辺境伯。怒らせたらエヴァンドロの立場が悪くなるだけだ。
「ルキーノ様、今日はもういいでしょ?エヴァンドロたちだって自分で勝手にどうこうなんてできないんですから。今日は持ち帰ってもらいましょ」
ね、と腕に手を添えて説得する。ルキーノはちらりと俺を見下ろしてしばらく黙っていたが、やがて不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。
「返答は早急に。いつまでも引き延ばすようならばこちらにも考えがある。そう伝えておけ」
「しょ、承知いたしました!」
ルキーノに怯えた様子を見せながらもなんとか受け答えを続けるオセロ。なんか物凄く気弱そうな人だけど、こんな感じで荒事とか務まるんだろうか。すぐやられそうで心配になるな。
「それでその、最後の確認なのですが……」
おっかなびっくりのオセロから聞かされたのは男の変わらぬ主張。男は未だ俺を運命と信じており、全て同意の上の行為であったと言い続けているらしい。それは事実かと問われ、俺はにこりと満面の笑みを浮かべた。
もちろん答えは決まってる。全力でノー!だ。
「俺はルキーノ様の夫だよ?俺の唯一の人はルキーノ様だ」
「ですよね」
あちらもただの形式的な質問という奴だったみたいだ。反論は特にない。これまでのことを書き付けていたノートをぱたりと閉じるとエヴァンドロは俺を見て頷いた。
「聴取はこれで以上となります。お2人ともご協力ありがとうございました」
どうやらこれで一通りの聴取が終わったらしい。帰り支度を始める2人にもう興味を無くしたのかさっさとサロンを後にするルキーノ。と、それについて行くカミッロ。え、俺置いて行っちゃうんだ。
俺はと言えばこれは労いにお茶くらい出した方がいいのでは?と業者が家に来た時の母親みたいな気持ちでおろおろしていた。
「えっと、あの、ブリジッタお茶を……」
「ネロ様、どうぞお構いなく」
「お、お気持ちだけ頂戴いたします」
「そう?いらないの?」
じゃあせめてお見送りだ。出て行こうとする2人を玄関先まで先導する。
「私もベネディクティス辺境伯も、カミッロ殿もあの日の奴の狼藉を目の当たりにしています。あなたの言葉を疑う余地はありません。奴は独りよがりな考えであなたを深く傷つけた。必ず、奴に己の行いの報いを受けさせましょう」
「エヴァンドロ……ありがとう」
去り際に力強くそう言ったエヴァンドロはまさにヒーロー。うんうん、こういう人が警察とかにいたら頼りたくなっちゃうよね。俺もちょっとじんと来ちゃった。
まあ、敵対する可能性がある以上絆されるわけにはいかないんですけど!
普通は王都警備隊が確保に協力したとしても辺境伯家くらい大きな家が相手なら望めばあっさり犯人を引き渡して全ての裁量を任せてしまうはずだ。そうならなかったのはエヴァンドロの正義感もあるが、一番は俺とルキーノがあいつの存在を気にすることなく発情期を過ごし、無事番になれるようにという配慮によるものらしい。
あの日事後処理を請け負ったカミッロはエヴァンドロにそう説得され、一理あると引き下がったと聞いている。
確かに、すぐ近くに俺を誘拐して強姦したアルファがいたら落ち着かなかったと思う。ルキーノだってそっちを気にしてあんなにずっと側にはいてくれなかったかも。そう考えるとエヴァンドロの配慮に感謝したいくらいだ。それはルキーノも理解しているが、それとこれとは別問題のようだった。
「もちろん、このまま裁判で刑が確定するまで我々が預かります」
ルキーノの鋭い眼光に晒されながら答えるエヴァンドロの表情は緊張で強張っている。対するルキーノは大袈裟なほど大きな溜息を吐いてゆったりと足を組んだ。
「アレは当家の配下の者で主人である我らに害を齎したのだ。これはベネディクティス家の家内の問題。我ら自身で罰を与える。速やかにこちらへ引き渡してもらいたい」
「王都で起きた問題は我々王都警備隊が対処します。ご安心ください、ベネディクティス辺境伯家に悪いようにはなりません」
「私自身が裁かねば気が済まないと言っているのだ。奴を引き渡せ」
「認められません」
隣からチッ、と強い舌打ち。ルキーノが物凄く苛ついている。それでもエヴァンドロが譲る様子はない。睨み合う2人の目に見えない火花がバチバチだ。
ちなみに隣のオセロは一言も喋ってないけどものすごく顔色が悪い。
この2人、さすがは原作で主人公と敵だっただけあってめっちゃ相性悪いっぽいな……てかルキーノが怖えーよぉ!やだこの一触即発な空気!
「ま、まあ落ち着いて。ルキーノ様、悪いようにはしないって言ってるんだし任せましょうよ」
「お前は黙ってろ」
「なんでぇ?」
俺当事者ぞ?何よその言い草酷くない?
「彼は公的な場で犯した罪に対して正当な裁きを受けるべきです」
「エヴァンドロ!すすすすみません、この男頑固者で!その件に関しましてはじょ、上司にも掛け合っておりますのでこの場は何卒ご容赦を!」
全く折れない2人の間に果敢にも真っ青な顔で飛び込んでいったオセロ。深々と頭を下げながらエヴァンドロの頭もグイグイ押して無理やり頭を下げさせる。対するエヴァンドロはまだ何か言いたそうな表情だったが、賢明にも口を噤んだ。
うん、それでいいと思うよ。ルキーノは辺境伯。怒らせたらエヴァンドロの立場が悪くなるだけだ。
「ルキーノ様、今日はもういいでしょ?エヴァンドロたちだって自分で勝手にどうこうなんてできないんですから。今日は持ち帰ってもらいましょ」
ね、と腕に手を添えて説得する。ルキーノはちらりと俺を見下ろしてしばらく黙っていたが、やがて不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。
「返答は早急に。いつまでも引き延ばすようならばこちらにも考えがある。そう伝えておけ」
「しょ、承知いたしました!」
ルキーノに怯えた様子を見せながらもなんとか受け答えを続けるオセロ。なんか物凄く気弱そうな人だけど、こんな感じで荒事とか務まるんだろうか。すぐやられそうで心配になるな。
「それでその、最後の確認なのですが……」
おっかなびっくりのオセロから聞かされたのは男の変わらぬ主張。男は未だ俺を運命と信じており、全て同意の上の行為であったと言い続けているらしい。それは事実かと問われ、俺はにこりと満面の笑みを浮かべた。
もちろん答えは決まってる。全力でノー!だ。
「俺はルキーノ様の夫だよ?俺の唯一の人はルキーノ様だ」
「ですよね」
あちらもただの形式的な質問という奴だったみたいだ。反論は特にない。これまでのことを書き付けていたノートをぱたりと閉じるとエヴァンドロは俺を見て頷いた。
「聴取はこれで以上となります。お2人ともご協力ありがとうございました」
どうやらこれで一通りの聴取が終わったらしい。帰り支度を始める2人にもう興味を無くしたのかさっさとサロンを後にするルキーノ。と、それについて行くカミッロ。え、俺置いて行っちゃうんだ。
俺はと言えばこれは労いにお茶くらい出した方がいいのでは?と業者が家に来た時の母親みたいな気持ちでおろおろしていた。
「えっと、あの、ブリジッタお茶を……」
「ネロ様、どうぞお構いなく」
「お、お気持ちだけ頂戴いたします」
「そう?いらないの?」
じゃあせめてお見送りだ。出て行こうとする2人を玄関先まで先導する。
「私もベネディクティス辺境伯も、カミッロ殿もあの日の奴の狼藉を目の当たりにしています。あなたの言葉を疑う余地はありません。奴は独りよがりな考えであなたを深く傷つけた。必ず、奴に己の行いの報いを受けさせましょう」
「エヴァンドロ……ありがとう」
去り際に力強くそう言ったエヴァンドロはまさにヒーロー。うんうん、こういう人が警察とかにいたら頼りたくなっちゃうよね。俺もちょっとじんと来ちゃった。
まあ、敵対する可能性がある以上絆されるわけにはいかないんですけど!
あなたにおすすめの小説
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
※画像はpicrewさんよりお借りしました。
Xアカウント(@wawawa_o_o_)
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ただのハイスペックなモブだと思ってた
はぴねこ
BL
神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。
少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。
その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。
一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。
けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。
「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」
そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。
自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。
だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……
眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。
貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない
こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。