玉の輿だったはずなのに!

木島

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わかりやすい悪意

 記憶はないが言われた通りの挨拶ができていたらしい。よかった。一仕事した後の水は美味い。
 酒?公爵様の挨拶が終わるまで飲んじゃダメだってよ。そう、俺の仕事はまだ終わってなかったんだった。

「えーっと、テオバルト・プロカッチーニ公爵……でしたっけ?」
「ああ。陛下へご挨拶した時に近くに居られたぞ。気付かなかったか」
「は?気付くわけないでしょーが!それどころじゃなかったんですよこっちは」
「だろうな」

 小声でぷりぷり怒る俺にくつりと笑うルキーノ。わかってんなら言うなよな全く。

「今は陛下と歓談中だ。後程挨拶に向かうぞ」
「はぁい」

 嫌だなぁ、という気持ちと表情をグラスに口をつけることで隠す。すると何故かルキーノが俺に手を差し伸べてきた。
 何を求めているのかわからないがつい反射でその手に自分の手を重ねた。まるで犬のお手のように。

「んで?なんです?」
「踊らないのか?」
「踊……あ、そうか」

 今日の夜会はダンスも有りの会だ。ホールの中央では王太子殿下と王女殿下のダンスを皮切りに幾人もの参加者がパートナーとダンスを楽しんでいる。
 きょろ、と様子を伺うとその中に母の姿を見つけた。カミッロと優雅に、かつ楽しそうに踊っている。

「えー、母さんダンスうま……」

 お、おかしいな。カミッロのリードが上手いのかもしれないけど、あの動きはそれだけじゃなさそうだぞ?
 俺も一応男娼時代からダンスは習ってたし結婚してからはスパルタ教育だったはずなんだけど、貴族になって数年の母の方がよっぽど上手だ。

「何だ、怖気付いたか?」
「ちょっとだけ」

 アハハと誤魔化し笑い。ルキーノはちらと母を見て、そして俺を見て鼻で笑った。

「お前は下手だものな」
「おぉいデリカシー」

 思わずべしりと腕を叩く。今から踊ろうって時にそんなことを言うとは全く酷い男だ。自分で思ってても人に言われると腹立つことってあると思う。
 しかしこんな会話はじゃれあいのようなもの。俺もルキーノも本気で馬鹿にしてるわけでも怒っているわけでもない。いつも通りにすることで寧ろ緊張が解れて気持ちが落ち着いてくる。

 しかしそうすれば、周りからチラチラと視線を向けられていることにも気づくというもので。
 デジャヴ再び。

「なぁんか見られてますね」
「まあ目立つだろうな。いくらアルファとオメガでも正式な伴侶で同性というのはあまり多くない」
「確かに。今いるのは俺たちくらいですかね」

 この国では貴族の令嬢令息でさえオメガであれば下に見られる。そして異性愛が主流である。正式な伴侶として迎えられる可能性があるのはオメガ女性で、オメガ男性は愛人止まりになることが多いのだ。
 要するに男オメガで正式な伴侶の俺はそれだけで珍獣みたいなもんである。

 見られているしコソコソ何か言われている。伺い見る表情からしていい話ではなさそうだ。言いたいことあるなら話しかけてくればいいのに。
 どうもどうも、俺が冷徹辺境伯と結婚した平民の元男娼オメガですよ~。怖くないからおいで~。

「ごきげんよう、ベネディクティス辺境伯様」

 とか何とか考えているうちに本当に2人のご令嬢と1人の男がこちらに近寄ってきた。
 真ん中に立つ綺麗なピンクブロンドのご令嬢が1番家格が高いっぽいな。ドレスもアクセサリーもゴージャスだ。

「ベネディクティス辺境伯様にご挨拶いたします」
「アマーティ侯爵令嬢。ご無沙汰しております」

 声をかけてきた真ん中のご令嬢にルキーノが応じた。慌てて俺も頭を下げる。
 彼女がアマーティ侯爵家のご令嬢か。ヤバ、俺の鬼門が向こうからやってきちゃったじゃん。内心焦るが顔にだけは出ないように必死に取り繕った。

「こちらがお噂の新しいご伴侶様ですか。初めまして、アマーティ侯爵家の長女フランチェスカと申します」
「お初にお目にかかります。この度ベネディクティス辺境伯家に迎えていただきましたネロと申します」
「ネロ様とおっしゃるのね。よろしく」

 にこりと笑うフランチェスカ嬢。彼女の態度は実に友好的に見える。本当にただ挨拶しにきただけか?背後に控えていた男女も挨拶をしてくれたが、そっちはどことなく腹に何かありそうな微妙な顔をしていた。
 それに男の方、カサヴォーラ子爵家ってなんか聞いたことのある家名だな。どこで聞いたんだっけ。
 思い出せずにうんうんと考えているといつの間にかルキーノがそのカサヴォーラ子爵令息に連れられてアマーティ侯爵のところへ行ってしまった。

「後で夫人に声をかけておく」

 そう耳元で囁いて行ってしまったルキーノ。
 年頃のご令嬢と1対2とかキッツ。鬼かよ。

「まさかベネディクティス辺境伯様が男性のオメガをお迎えになるとは驚きましたわ。辺境伯様とはどちらで?ああ、ご実家は辺境伯領とかですの?」
「いえ、私は王都の生まれで」
「そうなんですか?私も王都で生まれ育ちましたが、社交界で一度もお目にかかったことがありませんよね。ご実家はどこのご家門ですか?」

 フランチェスカの問いに素直に王都出身と答え、すぐに失敗したと内心舌打ちした。後ろにいたご令嬢が不思議そうに言う言葉にフランチェスカが首を傾げている。
 これは……どっちだ。俺が平民であることを知っていて訊いているのか、本当に知らないのか。

 だが別に、ルキーノから出自を隠せとは言われていない。流石に男娼でしたとは言いにくいが、俺は平民であることを恥じたりはしていないからな。

「商家の出ですよ。平民の身ではありますが、ルキーノ様に見初めていただきました」
「まぁ、平民の……ではご苦労なさったことでしょう。よきご縁があってようございましたね」
「ええ、本当に」

 俺の告白にもフランチェスカが動揺した様子はない。穏やかに微笑み、良縁を寿いでいるように見える。もう1人は僅かに眉を顰めているな。彼女は貴族至上主義の家なのかもしれない。

「辺境伯家には既にご子息がおられますし、後妻に多くを求めてはいらっしゃらなかったのでしょう。平民から辺境伯夫君とは実に幸運でしたね、ネロ様」

 うーん言葉にトゲがある。フランチェスカと違って全く目が笑っていない。

「大夜会の後は辺境伯様と領地へお戻りになるの?」
「ええ、その予定でおります」
「ああ、それは良いですね。貴族の何たるかをご存知でないなら、お辛い思いをなさる前に領地に移って穏やかにお過ごしになる方が賢明でしょう」
「エリザベス」
「失礼致しました」

 フランチェスカに嗜められて口だけの謝罪をしつつ扇子で口元を隠すエリザベスと呼ばれたご令嬢。これは確定。彼女は貴族主義者だ。
 しかしまあストレートな嫌味だこと。貴族って何でもオブラートに包むんじゃなかったっけ。

 早くどっか行ってくれないかな。そう思いながら彼女たちの話に適当に合わせていると、ついにエリザベスが仕掛けてきた。

「そうだわ。私平民街で起きた興味深い事件の話を聞いたのですけど、フランチェスカ様とネロ様はご存知でしょうか」



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