玉の輿だったはずなのに!

木島

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孤児院にて

「あ。そうだ、お前にも言っとかないと。俺3日後にベネディクティス伯爵に付いて辺境領に行くんだ。しばらくこいつらのことよろしくな」
「え?」

 唐突なエヴァンドロの言葉にきょと、とチョコレートを手にしたまま目を丸めるオセロ。寝耳に水と言った彼の様子に俺は首を傾げた。あれ、もしかして初耳?

「ネロ様は次のシーズンまで領地でお過ごしだから、王都に戻るのは早くても来年の春になる。だから任せた、オセロ」
「は、え?え?来年のはる?なん、なんでそんなことに……?」
「俺今はネロ様の護衛だからな。ネロ様のいらっしゃるところが俺のいるところになるだろ?」

 何を当たり前のことを、とでも言いたげなエヴァンドロにオセロは理解が追いつかないようだ。それなのに話は終わったとばかりに足元の幼子を抱き上げてあやし始めるエヴァンドロに俺は顔を顰めた。

「もしかして言ってなかったのか?何事もホウレンソウは大事だぞ。見ろ、オセロめっちゃびっくりしてんじゃん」
「ホウレンソウ?何ですか?」
「報告連絡相談です。ネロ様の仕事場ではそのように表現するそうですよ」
「要するに状況に合わせてちゃんと話しをしなさいってことね」

 辺境への出張は少し前から話が出てたことだ。こんなギリギリに物のついでとばかりに言うんじゃなくて、もう少し早く話すことはできたんじゃないだろうか。友達なんだし。

「あの、大丈夫です。エヴァ、エヴァンドロは昔からこういう奴なので」
「そうなの?」

 オセロ曰く。
 寝起きに急に思い立って早朝から王都の外まで遠乗りに出かけたり、料理をやったこともないのにできるはずと言い張って小火を起こしかけたり、王都警備への志願も人員募集の張り紙を見てこれだ!とその足で面接に行って採用を勝ち取ってきたり。何せ行動が唐突らしい。
 オセロの言葉にエヴァンドロを見ればへらりと笑って頭を掻いている。どうも本当の話みたいだな。
 そう言えば小説のエヴァンドロもそんな感じの奴だった気がする。閃いたらバッと先に走り出してしまうタイプ。追いかける方は大変なのにそれに気付いていないのだ。その上に正義感が強くて頑固者。小説じゃエヴァンドロが王位についたところで終わってたけど、実際先があったら周りが凄く苦労してそう。

「ごめん、もっと早く言えばよかったか」
「あ、いや、大丈夫。仕事だもんな。わかったよ、気をつけて」
「うん。ありがとう」

 俺が彼方へ思考を飛ばしているうちに話はついたようだ。頷いたオセロに笑うエヴァンドロの顔はいつもより少し幼く見える。やっぱりお互い気心知れた相手なんだろう。
 エヴァンドロはアルファでオセロはオメガだけど、第二性を越えた友情があるのかな。それとも……

「エヴァにいちゃ、どっかいっちゃうの?」
「お仕事なんだって。ちょっとの間我慢だね」
「おしごと?にいちゃいっちゃやだ……」
「わぁ~!泣くなって!大丈夫すぐ戻ってくるから!な?」
「やだぁー」

 と、子供の泣きそうな声で我に帰る。いかんいかん、ついつい邪推を。
 だってほら、俺ってアルファとオメガの恋物語に夢抱いちゃってたタイプだから。小さい子抱えて2人仲良く並んでるとなんかこう、仲良し親子っぽくていいなぁ~って思っちゃうんだって。

「帰ってくるまでいい子にしてたらいっぱいお土産買って帰ってやるから。それでいーっぱい遊ぼうな?な?」
「お、俺も遊びに来るから。泣かないでロビン」
「う~!」

 泣き出した子供を必死にあやすエヴァンドロとオセロ。溢れる涙と鼻水をハンカチで拭ってやる手は慣れていて、ずっとこうやって自分たちより幼い子たちを見てきたんだなと実感する。
 そうこうしていると他の子たちも集まってきて、みんなで1番小さな弟を囲んで慰め始めた。みんな仲が良さそうだ。
 その様子を見ていて馬鹿なことを考えていた自分を猛省する。あの子を本当に泣かせているのは俺だ。兄のように慕うエヴァンドロを引き離してしまうのは俺の都合なのだから。

「出向だからって、王都所属の人間を連れていくって本当によかったのかなぁ」

 辺境領なんて王都警備の管轄外にも程がある。なのに俺が彼を王都から引き離したいからと領地に連れて行くのは横暴だろうか。
 ついつい溢れた言葉に後ろに控えていたブリジッタが口を開いた。

「いいも何も、彼はあなた様の護衛として契約したのです。着いて行くことは当然のことでは?」
「そうかもしれないけど」
「彼自身も前向きに受け入れているのですから問題ありませんよ」

 目の前の光景に簡単に揺れる俺に比べてブリジッタは冷静だ。彼女は仕事は仕事と割り切っている。

「あの年頃の子はまだ受け入れ難いのかもしれませんが、自ずと理解するでしょう。いつも共にいられるわけではないと学ぶのは悪いことではありません」

 他の子たちやスタッフが支えてくれるでしょうし、独りで待つわけではありません、とブリジッタは続ける。それは確かにそうだ。彼女の言葉に素直に頷いた。俺は前世も今世も子供とあまり関わることがなかったから正解がわからないんだよな。

「せめていい土産話ができるようにしてあげないとな」
「そうですね。そのくらいの心持ちで宜しいかと」

 沢山の兄弟たちに慰められてようやく泣き止んだ子は再度泣き出す前にとエヴァンドロから院長の腕に移動していた。泣き止んで偉いぞー、と頭を撫でるエヴァンドロに子供は目元を赤く染めたまま誇らしげに笑っている。寂しいのに我慢して本当に偉い。

「すみません、お待たせしました」
「もう大丈夫?じゃあそろそろ帰ろうか」

 孤児院の様子もなんとなくわかったし、子供たちとの出発前の挨拶を終えたエヴァンドロが戻ってきたので俺たちも帰ることにする。あんまり遅くなると治安も悪くなるし、家の人たちが心配するからな。
 子供たちと院長に声をかけ、商会の職員には撤収の指示を出す。

「エヴァンドロ」

 しかし馬車の準備が整っていざ乗り込もうと言う時、エヴァンドロはオセロに引き止められた。俺とブリジッタは先に馬車に乗り込むが、野次馬根性が働く俺はこっそりとその様子を窓から覗き見た。

「その、手紙、できるだけ書いて欲しい。子供たちも喜ぶし、俺もお前がどうしてるか知りたい……から」

 長身の体を縮こまらせて俯きながら必死に訴えるオセロ。ちらりと見える頬は赤らんでいることに気付いて思わず視線が釘付けになってしまった。
 おやおやおや?

「もちろん書くよ。あ、お前も書けよ?思えばお前とこんなに離れるのも初めてだもんな」
「う、うん」

 ちょっと寂しくなるな、とはにかむエヴァンドロに俺は内心大興奮だ。もしかしてこれはもしかするんじゃないの?
 まだ外で会話を続ける2人。エヴァンドロがオセロの肩に手を置いて優しく撫でる様子を見ながら俺は慌てて口元を押さえた。ほっとくと心の声が出そうだ。

 やっぱり付き合ってるのか?!幼馴染で同僚で恋人ってこと?いいねそれ!俺そういう話好き!
 え~話聞きた~い!

「ネロ様、ご自重ください」
「ごめんなさい」

 と、テンション上がってジタバタしてたら呆れ顔のブリジッタに怒られた。
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