玉の輿だったはずなのに!

木島

文字の大きさ
76 / 77

待ち受ける苦行?!

 旅の最後の夜に泊まるのは領境から少し進んだ先にある街道沿いの街。そこの管理者はなんとカミッロの父親で、王都で勤めを終えて戻ってきた主人をそれはそれは盛大にもてなした。もちろん俺にも色々良くしてくれて、疲れただろうと早めにベッドの用意もしてくれた。
 しかしルキーノとカミッロ親子は遅くまで何かしらを酒の席で話すようだ。食後の一服にサロンでくつろいでいる時にそう言われ、これはチャンスと情報収集したさに同席したいと言ったが素気無く断られてしまった。

「娼館では一緒に飲ませてくれたじゃないですか。なんでダメなんです?お酌ぐらいならしますよ」
「もうお前は私の伴侶だぞ。わざわざ酒の席で男娼のように振る舞う必要はないだろう。明日も早いのだから休んでいればいい」
「そうですよネロ様。それに、貴方様にとってはつまらない話かもしれませんし」
「つまるかつまらないかは俺が決めることじゃん」

 ルキーノとカミッロ、2人がかりでダメと言われてむっつりと唇を尖らせた。

「紳士クラブもですけど、俺も男なんだから酒の席に参加してもいいじゃないですか。それともオメガは男じゃないとでも言うんですか?」
「そうは言わないが」

 俺の言葉にきゅっと眉を寄せるルキーノ。俺のこの発言は不服だったようだ。
 なるほど、性差を理由にしたいわけではないと。ならばこれは俺にあまり聞かせたくない話をすると見た。ならば何を遠慮るす必要があるんだ。男娼時代にあんたのちょっと後ろ暗い話はちょこちょこ聞いていただろうに。

「じゃあいいじゃないですか。なんでダメなの?あ、俺に聞かせられないような悪巧みでもしてるんですかぁ?」

 むぎゅ、とルキーノの腕に腕を絡ませて上目遣いで問いかける。しかし、甘えるようなあざとい振る舞いにもルキーノが表情を変える様子は全くない。

「そうだと言ったらどうするつもりだ?」
「俺も混ぜて♡」
「混ぜるわけないだろうこの駄犬が」

 渾身のおねだりも虚しく絡めた腕を引き剥がされる。まあそう言うだろうとは思ったけどね。渋々離れるものの、諦めきれない俺をカミッロが横から優しく諭してくる。

「ネロ様はまだ貴族としての生活にも慣れておられないのですから、急いで領地運営に参加する必要はないのですよ。ゆっくりで良いのです」
「ああ、その通りだ」
「でももう4ヶ月経ったのに」

 俺まだ勉強ばかりで辺境伯家のためになるようなことは何もしてない。やらかしは色々やっちゃってるけど。早く力になりたいのだ、などと殊勝な態度を取って揺さぶろうとしてみるがそれでも2人の反応は芳しくはなかった。
 困った表情のカミッロ。対するルキーノは俺のネックガードを着けた首元に大きな手で触れて、その鋭利な青い瞳で真っ直ぐに見下ろした。

「いずれお前にも話す時は来るだろう。だから今は大人しくしておけ」
「ルキーノ様……」

 今はまだ時じゃないとルキーノは言う。もっと信頼を深めていけばいつかは色々教えてくれるということだろうか。
 もしかしたら今を逃れるための口先だけの言葉かもしれないが、これ以上食い下がるのは下策だろう。怪しまれては元も子もないので俺は丸め込まれてやることにした。

「仕方ないなぁ。今日のところはこのくらいにしておいてあげます」

 譲歩しているんだぞ、と言ったていで頷くとルキーノもゆっくりと頷いた。カミッロもどことなくホッとした顔をしている。すみませんね、わがままなご夫君様で。

「ではネロ様、お部屋へ参りましょう。明日は本邸に入りますので今夜はしっかりお身体のお手入れをしてお休みいただきますよ」
「は?手入れ?」
「ええ!夜更かしなんて以ての外でしたもの。諦めてくださってようございましたわ。ささ、参りましょう。準備は整えてありますわ」
「え何、何するの一体?!」

 待ってましたとばかりに控えていたブリジッタとアンジェラがずずいと前に出てきた。彼女たちはやんわりと、だがしかし有無を言わせぬ勢いで俺の手を取り立たせ、俺は逆らえないままするすると部屋の外へと誘導されていく。
 ブリジッタは無表情だがアンジェラは実に楽しそうに笑っている。この感じ、いつもの寝る前のお手入れではなさそうだ。一体何をされるんだ。

「さあさあ、ピッカピカにいたしましょうね~」
「待って待って、もしかしてアレ?フルコースされんの?」
「当然です。明日は家臣や領民の目に触れることになるですよ?手抜かりがあってはなりません」

 ブリジッタの言葉に初夜の時や大夜会の時、隅々まで風呂で体を洗われ、ムダ毛処理やら涙が出るほどの全身のリンパマッサージとフェイシャルエステ、頭皮マッサージにやれパックやれヘアケアだと受けた記憶が甦る。これだけ聞けばスペシャルなリラックス体験にも聞こえるだろうが、彼女たちだけでなく他のメイドも一緒になってあっちこっちから手を変え品を変え色々されるのは俺にはちょっとした恐怖体験でもあるのだ。
 第一印象が大事なのはわかる。わかるけどそこまでしなくてもいいんじゃないだろうか。絶対ルキーノにはやってないよね?俺もルキーノと同じくらいの手入れでいいんだけど?助けを求めてルキーノを見るが彼は無情にも俺から視線を逸らした。
 今絶対面倒だと思ったな?!自分関係ないから首突っ込みたくないんだ~!薄情者~!

「では旦那様、御前を失礼致します」
「ああ、任せた」

 アンジェラに背中を押されて廊下に出された俺。そして無情にもサロンの扉は閉められてしまった。

「ネロ様、ファイトです。俺はお部屋の前で御身をお守りしますのでご安心ください!」

 そして追い打ちをかけるように廊下で控えていたエヴァンドロがサムズアップしてくる。お前も他人事か。ってそりゃそうか。爽やかな笑顔を憎らしく思いながら俺はブリジッタたちと共に寝室の扉を潜ったのだった。








感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。