玉の輿だったはずなのに!

木島

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ダイヤのプレゼント

 入り婿と子供の関係が良好なのはいいことだろう。今日はルキーノにいい報告ができるな。にこにこ笑っているとブリジッタが声をかけてきた。

「顔色が良くなられましたね。宜しければお召替えをなさいませんか?昨夜から同じ寝衣をお召しのままですので」

 そういえばそうでした。ステファノに叱られたばかりだし、ちゃんとした格好をしておくべきだろう。

「そうだね、お願いしようかな。俺の持って来たトランクに着替えがあるからそれを」
「それはなりません。旦那様がネロ様にと誂えた衣装がありますので本日はそちらをお召しになっていただきます」
「えっ?そうなの?」
「はい」

 何を当たり前のことをと言わんばかりにブリジッタが告げる。そんなこと一言も聞いてなかったから当面の着替えとして向こうからあるだけ持って来たんだけどな。あるなら言ってよぉ。
 あっ、もしかしてお前の粗末な服など当家に相応しくない!とかそう言う意味かな?!そうだったら余計な手間をかけさせてしまったことになっちゃう。

「ネロ様?」
「何でもない。じゃあそれを用意してくれる?」
「畏まりました」

 動揺をへらりと笑って誤魔化す。するとブリジッタは手慣れた様子でウォークインクローゼットへ引っ込み、タイヤがついたハンガーラックを押して戻ってきた。
 見るからに質の良さそうなジャケットやシャツ、スラックスがいち、にい、さん……たくさん。

「ネロ様の紅茶色のお髪とグレーの瞳に合うように仕立てております。どれをお召しになりますか?これ以外にも色々ございますよ」
「えっ、そうなの?わー、なんか悪いなぁ」
「ネロ様」

 想像以上にある衣装に気後れしていると、何かを咎めるようにブリジッタが名前を呼ぶ。怒られるんじゃないかと思わずピンと背筋が伸びた。

「アルファの皆様にとって番のオメガへ自身の選んだものを贈るのは喜びでもあります。どうぞ何もご遠慮なさらずお受け取りください」
「はい」

 意中のオメガに貢ぐのはアルファの求愛行動のひとつだ。多分ベータだろうブリジッタに諭されて俺は身を縮めつつ頷いた。やっぱり彼女はちょっと厳しい。
 でも、今までたくさんのアルファに貢物を貰ってきてもルキーノからは婚約の証のネックガード以外に貰ったことがなかったんだ。ちょっとくらい驚いても許してほしい。

「じゃあ、これとこれを。俺グレー好きなんだよね」

 シンプルな白シャツとグレーのウエストコートとスラックスのセットアップを選ぶ。屋敷の中だしこれでいいだろうと思っていると、ブリジッタにダイヤモンドにプラチナの台座がついたポーラー・タイを付け足された。多分ルキーノをイメージしているんだろう。襟の下に隠れたネックガードにも小ぶりだけど同じようなデザインの石がついている。
 この大きさ、透明度、精密なカット。これはおそらく目玉が飛び出るくらい高額なものだろう。俺はビビり倒してちょこんと座った椅子から動けなくなった。

「ベネディクティス様、早く帰って来ないかな。話たいことたくさんできちゃった」
「もうすぐお戻りになりますよ。今日は早めにお戻りになると仰っていましたので」

 まともに挨拶もできていないままでは勝手にウロウロもできない。暇なのでブリジッタに基本的なお屋敷の構造とか使用人の構成を聞いて過ごしていると、午後のお茶の時間にようやく吉報が届けられた。

「ネロ様、そろそろ旦那様がお戻りになります。お出迎えなさいますか?」
「本当?!もちろん行くよ!」

 退屈で死にそうになっていた頃、執事長のイラーリオが呼びに来て俺は二つ返事で部屋を出た。前に執事長のイラーリオ、後ろにメイドのブリジッタを連れて玄関ホールまで向かう。
 すごい、今の俺ちゃんと貴族の奥様って感じだ。まあ俺は妻じゃなくて夫なんだけど。

 イラーリオに連れられ広々とした玄関ホールに辿り着くと扉の前に従僕が1人立っている。従僕は俺たちを見つけるとぴんと背筋を伸ばし、深々と一礼した。

「ネロ様、お待ちしておりました。旦那様のお戻りです!」

 顔を上げた従僕は玄関扉に手をかけ大きく開く。
 開かれた扉の先には日の光でキラキラ輝くプラチナブロンドの彼が立っていた。



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