玉の輿だったはずなのに!

木島

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初めての夫夫の時間

 1日何度も行われる着替えにぐったりしつつ、晩餐用の正装に着替えて4人でディナーの席に着く。
 これは家族や使用人に対する態度を観察する絶好のチャンスだ。俺は頬が落ちるくらいに絶品のタンシチューを至福の心地で食べながら全員の様子を伺った。

 使用人たちの振る舞いからは過度な緊張は見て取れず、俺に対しても非常に丁寧に食事の内容などを説明してくれる。子供たちもリラックスしていて頻繁に笑顔が見せていた。ルキーノも料理を食べながら今日あった出来事を報告する子供たちの言葉を短い相槌を打ちながら静かに耳を傾けている。
 ごく普通の夕食の光景だ。家族仲に問題があるようにはやっぱり見えないな。

 これと言って問題になることはない、という収穫を得て夕食の時間は終わる。これからも夕食の時間は時間の許す限り4人で食卓を囲むのだそうだ。これって貴族としては珍しいことなのかな?そこのところはよくわからない。

「ではネロ様、湯浴みを済ませてお召し物を交換いたしましょう。今宵は大切な日ですからね」

 そうして部屋まで送り届けられた途端ブリジッタに告げられた言葉。また着替え!と思った後に気にするべきはそこじゃないことに気が付いた。

 そうだ、今日は夫夫で過ごす初めての夜だ。初めての夜ということはつまり……そういうことだ。

「そ、そっか。そういえば昨日は無理だったもんね……」

 正直言うとちょっと忘れてた。それが態度から伝わったんだろう、ブリジッタは呆れている。

「アンジェラ、準備を」
「はい」

 問答無用とばかりにブリジッタとオメガの侍女アンジェラは入浴の用意とその後の準備を進めていく。あれよあれよと言う間に俺は上から下までツルツルのピカピカに……となるところだけど流石に下半身の準備は死守した。
 いや無理だって!アンジェラとはバース性が一緒でも男と女だよ?自分でやります!大丈夫慣れてるから!俺は平民労働者なので!

「そうですか?では外で控えておりますのでお困りの時は声をおかけください」
「うん。大丈夫、大丈夫だから」

 タオル一枚だけを腰に巻いてアンジェラから逃げた俺。流石に無理強いはされなかったので道具だけ預かって風呂場で必要な準備を済ませた。
 発情期じゃない男オメガはベータ男性と機能的には変わりがない。だから今日は念入りな準備が必要なのだ。こんなことを侍女に頼むことはさすがにできない。目覚めたばかりの俺の中の『前世』の記憶もそれはどうかと思うと言っている。

「ではこのまま旦那様をお待ちください。御用がありましたらベルを鳴らしてくださいませ」

 ワンピースタイプのパジャマを着せられ、ベッドに座らされた俺はまさにまな板の鯉。後はルキーノに美味しくいただかれるのを待つだけである。

「初めてでもなし今更って感じはあるけど、環境が違うとちょっと緊張するなぁ」

 夫夫としての夜は今夜が初めてだけど、ルキーノと夜を過ごすことは実は初めてではない。慣れた行為ではあるけど状況が違うと受け取り方も違うって言うかなんと言うか。とにかく緊張で胸が妙にドキドキして意味もなく体を揺らしたり部屋をキョロキョロと見回したりしてしまう。
 俺に与えられたこの部屋はベネディクティス夫人の部屋。それが正式な伴侶として迎えられたのだという事実を実感させる。

「何をしているんだ……?」
「あ、ルキーノ様」

 落ち着かなさすぎて部屋の中を彷徨き始めた頃、ルキーノがやってきた。入ってきたのは互いの寝室と繋がった扉から。これだけでもう彼にもそういうことをする意思があると考えてもいいだろう。
 風呂上がりなのかしっとりと濡れたプラチナブロンド。髪を掻き上げる仕草も男らしい色っぽさで俺の心臓はきゅうぅと締め付けられた。くそ、本当この人の見た目好みど真ん中なんだよな。

「体調はもう問題ないな?」
「もうすっかり。昨日はすみませんでした」
「構わない。式の準備が負担だったのだろう。平民の婚姻に比べれば決まり事も準備する物も多いからな。無理もない」

 サイドテーブルに用意されていたグラスにブランデーを注ぎながら彼は言う。手渡されたそれを受け取って匂いを嗅ぐとその酒精の強さにくらりときた。
 緊張のせいもあるのかな。あんまり飲まない方が良さそう。そっとグラスをサイドテーブルに戻すとルキーノは微かに首を傾げた。

「飲まないのか」
「はは、ちょっと緊張して……」
「今更だろう」
「それはそうなんですけど」

 曖昧に笑ってベッドの側で立ちつくす。ルキーノは既にベッドに腰かけていて、手にしたグラスに口を付けていた。

「まあ、今まではお前からすれば"仕事"だったからな。嫌ならこれも仕事の延長とでも思えばいい」
「なっ、嫌だなんてそんなこと思ってません!」

 グラスを傾けながら何でもないように言われた言葉。思ってもみなかった言葉に焦った俺は思わず声を荒らげた。
 彼の足元に膝をついて膝の上に置かれた片手に手を重ねる。誤解されたくなくてゆるく首を振った。

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