玉の輿だったはずなのに!

木島

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俺は悪役の伴侶なので

 ルキーノは俺の態度に呆れ返っていたものの、母に会いたいという願いは聞き入れてくれるようだった。彼はベネディクティス辺境伯家の名で手紙を出すことを許してくれて、俺は早速母に手紙を出した。
 ベネディクティス辺境伯夫君ネロとして、ララサバル男爵夫人イルダをお茶会に招待したのだ。
 今まで音信不通だった息子から突然手紙が届いて母は大層驚いたことだろう。すぐさま承諾の返信が届いたので、俺は張り切って初めてのお茶会の準備を始めたのだった。

「ララサバル男爵夫人は俺の大切な人なんだ。だから精一杯おもてなししたい。手伝ってくれる?」
「もちろんです。お任せください」
「腕によりをかけますわネロ様!」

 俺の侍女であるブリジッタとアンジェラを始め、イラーリオや家政婦長、シェフも快く協力してくれた。招くのは男爵夫人1人とはいえ辺境伯夫君として初めての社交みたいなものだ。彼らも成功させようと張り切ってくれている。

「ネロ、お茶会の準備は順調なのか?」
「ええ、あと7日ありますからね。十分間に合うと思います」

 母の招待が決まって数日、日課になった子供たちとのお茶の時間もその話題が上るようになっていた。

「ララサバル男爵の商会といえば、はくらいひんを多くとり扱っているらしいな。僕もお母様から異国のお菓子をもらったことがあるぞ」
「へえ、そうなんですか」
「ジュリも。だんしゃくのしょーかい?にしかないんだって言ってたのおぼえてるよ」
「おいしかったな」
「うん!またたべたいね」

 どうやら2人にとってララサバル男爵は商人のイメージの方が強いみたいだ。母親が存命の時に食べた思い出のお菓子の話に花を咲かせている。

「じゃあララサバル男爵夫人が来た時に取り寄せてもらえるか聞いてみますよ。子供達が大好きなんですって言ったらきっと夫人も喜んでくれると思います」
「ほんと?やったぁ」
「よかったな、ジュリ」
「うん!」

 手を叩いて喜ぶジュリエッタに優しくその肩を撫でてやるステファノ。兄妹の仲睦まじい姿に俺の心はほんわかと癒される。
 兄妹よ、このまま世の中の汚い所など知らずに純粋に育ってくれ。

「ネロさまのお茶会、うまくいくといいね」
「そうですね。そのためにも準備を万端にしないと」

 こんな風に当主の子供たちが俺の初めての茶会を応援してくれているのとは対照的に大人たちの思いは様々だ。大体の使用人は協力的なんだが、中にはそうじゃない奴もいる。
 例えばそう、厨房近くの廊下で噂話に花を咲かせているメイドたちとか。

「ララサバル男爵と言えば、最近平民から成り上がった名ばかりの成金貴族でしょう?そんな家の夫人が大切な方なんて、どうしてかしら?」
「もしかして、男爵の方がご夫君様のお客様だったとか?」
「まあ!昔のご贔屓の男性のご夫人を呼びつけるなんて、随分大胆なことねぇ」
「本当、下賎な育ちのオメガ様は考えることが違うわ」

 聞こえとりますが?ナニーさーん、ここで何してるの。ジュリエッタ様はどうした。今お昼寝タイム?あそう。

「あんな平民の、しかもオメガで元男娼のお世話をするなんていつまで耐えられるかわからないわ。実を言えば服もシーツも触りたくないの。発情期なんて考えただけで恐ろしい……!」
「わかるわ。他人の垢まみれの汚れた体よ?触ったら私たちまで汚れてしまいそう」
「まあ旦那様もそのうち飽きるんじゃなくて?だって番になってないじゃない。その価値がないと思ってらっしゃるのよ。それまでの我慢よ」
「辺境伯家の血筋に汚れたオメガの血はいらないわ。ステファノ様やジュリエッタ様の憂いをなくすためにも子ができる前に捨ててくださればいいのだけど」

 俺が厨房まで足を運んでシェフに当日出すお菓子の相談をしていたことなど知らなかったのだろう。彼女たちは自分たちの声が大きくなっていることに気付くこともなく楽しそうに俺の話で盛り上がっている。随分言いたい放題だこと。ナニーなんて憂い顔でベネディクティス辺境伯家の行く末とか言ってる。何様だよお前は。
 ていうか、陰口なら本人にバレないところでやれ!それとも聞いてほしくてわざとやってるのかな?

「何ですのあの者たち。ご夫君様にあのような……!私ガツンと言って参りますわ!」
「あ、待って。いいよ行かなくて」
「まぁ!何故です?!」
「オメガの俺やアンジェラが言っても効果ないでしょ。ナニーとか特にさ。後でルキーノ様にチクっとくから今はいい」

 不満げなアンジェラにひらりと手を振って姦しい使用人たちに背を向ける。俺が離れるとアンジェラもついて来ざるを得ない。顔を顰めたまま渋々その場を離れた。
 離れてもまだきゃらきゃらと笑う不快な声が耳に届く。どこにでもああいう奴らはいるものだと自然と溜息が出た。

 俺だって怒鳴りつけてやりたいが、ああいう手合いは権力に弱い。辺境伯家の使用人教育どうなってんの?とでも言えばルキーノは動くだろう。雇用主のルキーノの不興をかえばどうなるかわからない彼女たちではないはずだ。
 それにしても、マジで気持ち悪いこと言わないでほしい。俺だって好きでやってたわけじゃないし、客だって選ぶ。あのクソ野郎が客として来てたら迷わずぶっ殺してたわ。滅多刺しかタコ殴りか。それで捕まってもきっと後悔しない自信がある。

「あ」

 それでふと、あることに気付いてぴたりと足が止まった。

「ネロ様?」

 そうだ。これ、チャンスじゃないか。俺をどん底に叩き込んだクソ野郎に復讐する、チャンス。俺は今やベネディクティス辺境伯夫君。爵位という絶対的なパワーがあいつより上だ。今ならぐしゃっと踏み潰すことだってできてしまう。
 使用人たちの悪口もたまにはいい仕事をする。このことに気付かせてくれたことにだけは感謝してあげよう。

「んふふ、いいことに気付いちゃったぁ~」

 急に立ち止まったかと思えば踊るように軽やかに歩き出す。しかもにたにた笑っている俺は随分と奇妙に見えたことだろう。それでもついてくるアンジェラを引き連れて俺は自室へと戻った。

 お茶会の準備に悪巧み。忙しくなってきたぞ!



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