玉の輿だったはずなのに!

木島

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ジュリエッタ先生!

「ナニーの言うことも一理あるかもよ?実際マナーなんてまだまだ勉強中だし。社交界にだって出たことないしね」
「だとしても、同じ屋敷の者が主人を侮っていい道理がありません」

 なんとか場を納めようと言った言葉にブリジッタは反論する。彼女の言うことも確かにそうなので否定もできないところだ。屋敷を纏める立場になる俺が使用人に舐められちゃ示しがつかない。
 だが今はそれよりも大人達のギスギスした空気に力なく眉を下げているジュリエッタだ。彼女の気を紛らわせつつ、この場を納めるにはどうしたら……

「そうだ!ジュリエッタ様、私のマナーの先生になってくれる?」
「えっ?」
「な、何ですって?」
「私は元々平民だから、色々教えてくれるいい先生が必要なんだ。家庭教師はいるけど、先生はいればいるほどいい。どうかな?」

 俺の突然の提案に目を丸くしたジュリエッタとナニー。多分見えないけどブリジッタも驚いている。それをあえて無視して俺は話を続けた。
 するとどうだろう。先程まで不安そうだったジュリエッタの表情がキラキラと輝き始めたのだ。

「ジュリがせんせ?わぁ、それすごいねぇ!ネロさま、ジュリせんせになんでもきいてください!」
「はぁーい、よろしくお願いします。ジュリエッタ先生」

 先生、と呼ぶと嬉しそうに頬を綻ばせるジュリエッタ。作戦成功かな?
 それに反してナニーの表情は硬く苛立ちを隠せていない。

「ネロ様、勝手な思いつきで大切なジュリエッタ様の時間を削らないでくださいませ。あなたにはあなたの教育係がいらっしゃるでしょう?」
「そんなに時間は取らせないよ。こんな風にお茶の時間に教えてもらえればいいんだ」
「うん!いいよー。ジュリがおしえてあげます!」
「ジュリエッタ様!」

 まかせて!と胸を叩くジュリエッタに悲鳴を上げるナニー。そんなに嫌がらんでもいいのにな。焦る彼女の様子に俺はにこりと笑ってみせた。

「ふふ、知らない?人に教えるって自分の振り返りにもなって案外いいんだよ。下手なことを相手に教えられないって再勉強するでしょ?」
「ああ、なるほど。それはよいお考えですね」
「な、何を根拠に……そんな教育法聞いたことがありませんわ」

 おや、これは前世の話だったかな。
 でも男娼時代に芸事やマナーを下の子に教える時って自分の記憶が合ってるか振り返ったりしたし、間違いってことはないと思う。それを一考することもなく否定するナニーは多分俺を否定したいだけだろう。だって彼女の教育論だって同じように振り返りながら作られたものだろうから。

「カルロッタ、ジュリせんせいやりたい。ネロさまといっしょにおべんきょうするのよ?」
「ジュリエッタ様……」

 じいっ、とナニー改めカルロッタを見つめるジュリエッタ。無垢な瞳に見つめられ言葉を詰まらせていたカルロッタはやがて諦めたのかゆっくり目を閉じて息を吐いた。

「わかりました……お茶の時間だけですよ!それ以上は認めません。ジュリエッタ様個人として学ぶことはまだまだありますので」
「わかってる。無理はさせないよ」

 肩を落としたカルロッタに勝利の笑顔を贈る俺。不安げな表情から一転、嬉しそうなジュリエッタを連れて午後の勉強のためにバラ園を去っていく彼女の顔は非常に悔しそうだった。
 これで彼女も俺が舐められて終わりの男ではないことはわかってくれたことだろう。

 それにしても。
 
「いやぁ、嫌われたもんだ」
「業腹ですが致し方ありません。彼女は根っからの貴族至上主義でアルファ至上主義です。平民出身でオメガ性のネロ様を受け入れられないのでしょう」
「あーね」

 ブリジッタが言うに、カルロッタの生家も婚家もアルファ至上主義かつ貴族至上主義という非常に選民意識の強い家らしい。前妻の侍女としてここに着いてきて、2人目の子のナニーとなった。ベネディクティス辺境伯であり優秀なアルファであるルキーノの血を継ぐジュリエッタを育てることは彼女にとっては名誉だ。辺境伯家に相応しい選民意識バリバリの教育を施すつもりだったのだろう。
 それなのに俺という平民オメガ、しかも元男娼が正式な伴侶として伯爵家に乗り込んできた。まさに晴天の霹靂。彼女にとって俺は最も辺境伯家に相応しくない男。受け入れられないわけだ。

 そして問題なのが、その選民意識が彼女だけに根付いたものではないというところだ。


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