玉の輿だったはずなのに!

木島

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ルキーノという男

 と、意気込んだものの俺の外出はルキーノ手によって阻まれた。

「買い物など商人を呼びつければ良い。お前、以前のことを忘れたわけではないだろうな?」
「……はぁい」

 習慣にしている就寝前の本日の報告の中で相談したのだが、そう言われてはぐうの音も出ないというもの。大人のくせに街で迷子になった前科はそうそう消えるものではないらしい。外出は当面禁止、もしくはルキーノ同伴でないと許されなくなった。
 内容が内容だけにできれば外で話したかったんだけど仕方がない。最初と同じようにうちにミケランジェロを呼びつけることにしよう。

「それで、何が買いたいのか決まっているのか?服か靴なら」
「いえ、ステッラ商会のミケランジェロを呼びます」
「ミケランジェロ?あの男はお前を売った男だろう。元々はお前の家の商会だったとは言え……気にならないのか?」

 商人の名を聞いたルキーノの目が驚きに見開かれる。先日一度会って話したことは知っているが、具体的な内容は伝えていない。彼から気遣うような言葉が続いて俺は感動で片手で己の口元を覆った。
 原作では冷酷非道な王道悪役だったルキーノがこんなに人間らしく……!

「もしかして心配してくれるんですか?やだルキーノ様優しい……!」
「誤魔化す気か?」
「失礼な。本気で感動してるんですぅ」

 俺は本気でルキーノの気遣いに喜んでるって言うのに、ちょっとふざけるとすぐ怒るんだから困るなぁ。

「大丈夫ですよ許したわけじゃないんで。俺が母に何も言わない代わりに、俺のわがままなーんでも聞いてもらうって約束したんです!要するに下僕ですよ、げ・ぼ・く♡」
「ふむ」

 語尾にハートでにっこり笑って伝えると、ルキーノはその真偽を見極めようとしているのか俺の顔をじっと睨みつけ……いや見つめてくる。慌ててちゃんと契約書も交わしたことも付け加えると彼はようやく頷いた。

「お前も今やベネディクティス家の男、己の手足の1つ2つは必要か……いいだろう」

 曰く、辺境伯家の男になったからにはそういう独自の情報源とか、手足となって使える子飼いの者は持って然るべきなんだそう。侍女のブリジッタとアンジェラもそのうちの1人なんだって教えてくれた。彼女たちはルキーノ自身からルキーノより俺を優先するよう指示が出ているそうだ。知らんかった。
 一応交わした契約書の内容は確認されたが、ルキーノから見ても不備はなかったようだ。余計な突っ込みはなく大事な書類は手元に返される。

「この男はお前や母親に対して負い目がある分、裏切るリスクは低そうだ。ただし、こういう手合いは隙を見せると手を噛む。上手く使うんだな」
「わかってまーす。生かさず殺さず、反抗の意思を持たせないように、でしょう?」
「……知ってはいたが、お前も相当良い性格をしている」
「そう?結婚相手の影響かしら?夫婦って似るって言うじゃない」

 呆れがちに半目になったルキーノに心底不思議そうな顔で首を傾げる。そんな俺の姿にクッと口角を上げてルキーノは笑った。
 おお、珍しい。

「ハッ、言ってくれるな」
「わぁっ!?」

 ニヒルに笑う顔に見惚れていたらぐいと引っ張られて押し倒された。ソファに倒れ込む俺と覆い被さるルキーノ。俺を見下ろす彼は随分と機嫌が良さそうだ。

「お前がただの従順なオメガではないことなど随分前から知っている。強かだが時に浅はかな私のオメガよ」

 耳元でそう囁かれながらネックガードに隠された頸が撫でられる。色を感じさせる指先にぞくりと体が震え、誤魔化すように身を捩ってうつ伏せに。そして不満ですと言いたげに唇を尖らせた。

「褒めてんのか貶してんのかわかんないお言葉ありがとうございます」
「褒めている」
「わかりにくぅ」

 褒め言葉だったらしい。浅はかが?バカにしてるの間違いじゃない?
 ルキーノはケラケラ笑う俺の服を脱がしにかかりながら言う。

「浅はかさも時に愛らしさになるということだ。限度はあるがな」
「ということは俺はかわいいと」

 無言。じぃっと見つめるとふいと視線を逸らされた。無言は肯定と取りますよルキーノ様。

「都合が悪くなると黙るのやめなさいよね」
「やかましい」
「ほらそうやって……んぅ」

 キスで言葉を奪われる。服のボタンはいつの間にか全部外れてて、胸元を大きな手が這う。鼻腔をくすぐる甘くてスパイシーなルキーノのフェロモンに誘発されて俺も気分が高まってきた。
 さっきの話の何がスイッチだったんだろう。ここソファなんだけど、もしかしてこのままここでするのかな。

「ルキーノ様、ベッドに」
「ここでいい」

 俺は上半身はすっかり脱がされボトムスも前をくつろげられている。このままじゃ色々汚しそうで嫌だなー、と思ったんだけどルキーノは気にしないらしい。
 大きなソファの上に2人で乗り上げて濃厚なキスを交わす。曝け出した胸の尖りを摘まれ弄られどうでもよくなった。

「ソファ、取り替えになっても知りませんよ……んっ」
「その時はその時だ。お前が好きな物を買えばいい」
「んわぁ、ブルジョアー」

 原作小説のルキーノは冷徹で残酷で、自身の益のために他人の犠牲を厭わないような男として描写されていた。彼が裏で様々な悪事を働き、主役であるエヴァンドロを殺そうとしたことに間違いはない。
 子供たちや前妻、オメガの後夫に対して優しい言葉をかけたり愛情を感じるような描写も一切なく、逆に使い捨ての駒と言った言葉が『俺』記憶に残っている。
 相手を思い通りに動かすために甘い言葉を吐くこともあったが、それだけ。小説のルキーノは誰も愛していなかった。

 じゃあ、目の前の彼は?

 子供たちを気にかける姿も、俺に執着を見せる姿も偽りなんだろうか。
 でも、そうだったとしても。

「たとえあなたがどんな人でも、俺はあなたの隣にいるから」

 疲れ切って寝落ちる前に呟いた言葉を、ルキーノがどんな気持ちで聞いていたのかを俺は知らない。






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