玉の輿だったはずなのに!

木島

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イレギュラー

 *今回の展開に合わせて「迷子の救世主」回に軽微な加筆をしております。



 いつのことだっただろう。多分、何でもない日あるのことだったはずだ。

「ねえ祥平ちゃん、これ見て!」

 双子の妹、祥子がノックもなしに部屋に入ってきたかと思うと、目をキラキラと輝かせて俺にスマホの画面を見せてきた。って近い近い、ピンボケして全然見えんがな。俺は押し付けられるスマホを祥子の腕ごと遠ざけて首を傾げた。

「んー……?」

 すんごい見覚えのある、けどどことなく印象の違うプラチナブロンドと青い目の男のイラストがデデンと真ん中に立つ画像。それをニコニコと満面の笑みを浮かべて見せてくる祥子は俺の反応を待っている。

「何これ」
「ルキーノが主役のスピンオフ小説!作者さんが投稿サイトのアカウントで公開してるらしいの!」
「ルキーノが主役ぅ?」

 喜色満面の祥子に対して俺の反応は懐疑的だ。
 だって、ルキーノと言えば主人公と敵対して処刑された悪役だ。それが主役になるなんて、とスマホの画面で澄まし顔をしているルキーノから顔を背けた。

「俺こういうのきらーい。悪役は悪役のままでいいじゃん。実はいい奴だった!とか悪に染まったのには悲しい理由が!とかマジいらね」
「はー?!何その態度!そんなこと言うなら読まなくていいよ。でも!後で後悔したって知らないんだからね!」
「はは、ないない」

 げえ、と舌を出して否定した俺に祥子も声を荒げて大事そうにスマホを抱き込む。俺たちは双子でよく似ていると言われるが、こういう小さい衝突はしょっちゅうだ。いつものことと息を吐いて俺は手元の携帯ゲームを再開した。
 俺にそのスピンオフ小説を読んだ記憶はない。知らなくてもいいと思ったし、本編のルキーノがそれなりに好きだったからスピンオフでイメージが変わるのが嫌だったのだ。

 なのにごめん、祥子。まさか生まれ変わってからお前のその言葉が真実になるなんて思わなかったよ。兄は反省した。もし読んでたらこのピンチに光明が見えたかもしれないのに、と。

「ネロ様……いや、ネロ。俺の運命のオメガ」

 両手足を縛られた格好でベッドに転がされている俺。状況が理解できず朦朧とする頭で目の前に立つ男を見上げる。

「俺を裏切った最低最悪のオメガ。お前を、他のアルファの物になどさせるか。他人の手で幸福になどさせてたまるか……」

 爛々と光る男の目は狂気を孕んで見える。伸ばされる手に恐怖を感じて拘束された手足を捩って後退った。
 今俺は小さな部屋に閉じ込められている。
 ホテルのようなベッド、テーブル、椅子しかない狭い部屋。俺が乗せられたベッドの横に小さな窓はあるが厚いカーテンで遮られ外の様子は見えない。

 俺はこの男……屋敷の門番をしていた男にここへ連れてこられた。こいつは俺が街で迷子になった日に俺を見失った護衛の1人。外出の度に俺を親の仇のように睨み付けている男だ。
 多分昨夜のこと。どうにも寝付けなくて気分転換に夜の庭を1人で散歩していた時、ふいに匂ったルキーノ以外のアルファのフェロモン。それが何故か酷く気になって元凶を探していると行き当たったのがこの男だった。
 正門から兵士用宿舎に向かう通り道でかち合ったから多分仕事終わりか?驚いている男の顔を見ながらああ、こいつアルファだったんだー、なんて呑気になれたのは一瞬だけ。最悪なことにそのフェロモンが元々近かったヒートを誘発してしまった。急激にヒートのマックスまで引き上げられる感覚に意識が混濁して、アルファの目の前で倒れてあっさり連れ去られてしまったわけである。

 そして今ここ。これはどう考えても誘拐です。

 こんな流れ俺は知らない。本編小説のエピソードに、ルキーノのオメガ妻が誘拐されたなんてものはなかったはずだ。ならスピンオフには?あったのか?今となってはわからない。

「っは、うら、ぎる……?何を……言って」
「覚えてないのがいい証拠だ」

 頭がぐらぐらしてまともに考えられない。纏わり付く咽せ返るような花の香りに吐き気が治らなかった。

 気持ち悪い。気持ち悪い。
 なのに体はぐらぐらと煮立つように火照って力が入らない。心臓は激しく脈打ち息は上がる一方。腹の奥が何かを求めて疼いて堪らない。
 もう本当に最悪だ。なんでルキーノじゃなくてこんなオッサンに発情してるの見られなきゃなんないんだよ。最悪すぎて泣きそう。

「お前のその尻軽さを俺は許してやるとも。今からお前は俺の番になって、一生を俺に捧げることになるんだからな」
「そ、んなの絶っっ対嫌だ……!近寄んなストーカー!変質者!誘拐犯!」
「暴れるなよ、手荒なことはしたくないんだ。俺はお前の裏切りを恨んでいるけど、愛してもいるんだ」

 熱に浮かされたような、恍惚とした表情で俺の顔を掴む男。アルファもオメガの発情期に吊られてラットを起こすことがあるが、この男の様子はどうにもそれだけじゃないように見える。凡そ正気じゃない言葉に俺は動かない手足でバタバタと暴れた。
 大体、俺本当にこいつのこと何も知らないんだけど?!

「意味がわからない。せつめい、しろ……俺が裏切ったって、なに。俺はお前と話したこともない、のに」
「それが裏切りだって言ってるんだよこのクソオメガ。俺と会ったことも、話したことも忘れやがって……俺は片時も忘れやしなかったのに!」
「いっ……!」

 怒鳴り声と共に乱暴に肩を掴まれてベッドに押さえつけられる。痛みに顔を歪めると男は一層興奮したのか歪に口元を吊り上げた。
 不気味に笑う顔が近付いてくる。嫌な予感に顔を逸らすが顎を掴まれて口と口が強引に重ねられた。それどころかこっちの口内に侵入しようと唇を舐められて背筋に悪寒が走る。

「ぐぅ……!んー!んんー!!」

 打ち上げられた魚の如くのたうち回る俺。堪らず一度上体を起こした男はしかし勝ち誇った顔で俺を見下ろしていた。

「あの時は周りに人がいて無理だったが、今日は2人きり……これは精霊の導き、俺たちが運命の番である証拠なんだ」

 不自然なまでに優しく頬を撫でられて自然と息が上がる。これは恐怖からなのかヒートのせいなのか混乱する頭ではもうよくわからない。

 なんで俺がこんな目に会わなきゃならないんだ。俺は己の不運を嘆いて唇を噛み締めた。


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