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その後もシグルドに思いついたことをいくつか質問して過ごしていると、控えめなノックの音が会話を遮った。
「失礼いたします。オークラ様、お部屋のご用意ができました」
現れたのはマルクスさんだ。客間の準備が整ったとのことで、一旦話を中断して部屋に案内してもらう。
途中何人か使用人の人たちとすれ違ったが、彼らは俺の顔に驚いた顔を見せなかった。スマートに会釈をして自分の仕事に戻っていく。多分マルクスさんが知らせておいてくれたのだろう。後で何か言われているかもしれないが、今好奇の視線に晒されないことは単純に嬉しかった。
「こちらです。必要なものは一通り揃えてありますが、不足しているものがありましたらご遠慮なくお申し付けください」
「ありがとうございます」
案内された部屋はまるでホテルのスイートルームのような出で立ちで、根っからの庶民の俺は恐る恐る部屋の中へと入った。
ぱっと見た感じで16畳くらいの広さがありそうで、奥にもまだ部屋があるのか立派な扉が二つ並んでいる。床は全て複雑な模様のカーペットが敷き詰められていて、扉から右手に応接セットとライティングビューロー、左側にはダイニング。右奥の部屋を覘いてみると大人が三人くらい寝ても余裕そうな広いベッドが備え付けられたベッドルームで、続きに独立した風呂と洗面とトイレ。そんでもってベッドルームの隣の扉はウォークインクローゼットだった。
どの部屋も大きな窓が取り付けられていて日当たりもよさそう。応接スペースの窓はバルコニーに繋がっていて、そこにも小さなテーブルとイスが置いてあった。
俺には実際の値段や価値がわかるわけではないが、多分備品も全部目玉が飛び出るくらいの高級品なんだろう。
広い。豪華。俺の自宅アパートが犬小屋に思えてくる。
「こんないい部屋用意していただいて……俺にはもったいないくらいです」
「王太子殿下が客としてお迎えになったのです。このくらいは当然のことですよ。質を落としては殿下の沽券に関わるというものです」
「ああ、なるほど」
恐縮するとアルフォンスのためだと返されて納得した。客のもてなしに度量の広さが出るってやつか。ならありがたく使わせてもらおう。俺はバルコニー越しに見える庭に視線を移し、これまた手入れされた西洋風の美しい庭に目を細めた。
「色々あってお疲れでしょう。私は一度騎士団に戻りますので、殿下がお戻りになるまでこちらでゆっくり体を休めてください」
「はい、そうします」
そう言って客間から出て行くシグルドを見送る。マルクスさんに用があれば鳴らすようにとベルを受け取って、俺はようやく一人で考える時間を得た。
「って言っても、まだ何にもわかんないんだけどな……」
体を包み込むようにフィットするソファに座って天井を仰ぐ。天上にはライトが設置されているが、電力がないこの世界で何を動力にしているんだろう。これも魔鉱石かな。
風呂場や洗面所には水道らしき配管があった。少なくとも水を汲み上げるシステムがある。ゲームでは当たり前のように受け入れていたことだが、実際目にすると何がどうなっているのかサッパリだ。
「世界を救う手助けをするって、ゲームの知識を使えってことなのかなぁ。そりゃまあ覚えてはいるけど……本当にそんなことが起きるのか?」
そもそもだ。これが本当にLoDの世界かどうかも定かじゃない。よく似ただけの別の世界かもしれないし、そうなったら何の力もない俺にはお手上げである。
「いや、何の力もない……わけじゃないのか。なんか役に立つスキルがあるって言われたし」
ぺた、と自分の顔に触れる。
平々凡々だったはずの俺の顔はアルフォンス・ラーゲルブラードそっくりに変わった。これが俺のスキルに何か関係あるのか、ないのか。
「失礼いたします。オークラ様、お部屋のご用意ができました」
現れたのはマルクスさんだ。客間の準備が整ったとのことで、一旦話を中断して部屋に案内してもらう。
途中何人か使用人の人たちとすれ違ったが、彼らは俺の顔に驚いた顔を見せなかった。スマートに会釈をして自分の仕事に戻っていく。多分マルクスさんが知らせておいてくれたのだろう。後で何か言われているかもしれないが、今好奇の視線に晒されないことは単純に嬉しかった。
「こちらです。必要なものは一通り揃えてありますが、不足しているものがありましたらご遠慮なくお申し付けください」
「ありがとうございます」
案内された部屋はまるでホテルのスイートルームのような出で立ちで、根っからの庶民の俺は恐る恐る部屋の中へと入った。
ぱっと見た感じで16畳くらいの広さがありそうで、奥にもまだ部屋があるのか立派な扉が二つ並んでいる。床は全て複雑な模様のカーペットが敷き詰められていて、扉から右手に応接セットとライティングビューロー、左側にはダイニング。右奥の部屋を覘いてみると大人が三人くらい寝ても余裕そうな広いベッドが備え付けられたベッドルームで、続きに独立した風呂と洗面とトイレ。そんでもってベッドルームの隣の扉はウォークインクローゼットだった。
どの部屋も大きな窓が取り付けられていて日当たりもよさそう。応接スペースの窓はバルコニーに繋がっていて、そこにも小さなテーブルとイスが置いてあった。
俺には実際の値段や価値がわかるわけではないが、多分備品も全部目玉が飛び出るくらいの高級品なんだろう。
広い。豪華。俺の自宅アパートが犬小屋に思えてくる。
「こんないい部屋用意していただいて……俺にはもったいないくらいです」
「王太子殿下が客としてお迎えになったのです。このくらいは当然のことですよ。質を落としては殿下の沽券に関わるというものです」
「ああ、なるほど」
恐縮するとアルフォンスのためだと返されて納得した。客のもてなしに度量の広さが出るってやつか。ならありがたく使わせてもらおう。俺はバルコニー越しに見える庭に視線を移し、これまた手入れされた西洋風の美しい庭に目を細めた。
「色々あってお疲れでしょう。私は一度騎士団に戻りますので、殿下がお戻りになるまでこちらでゆっくり体を休めてください」
「はい、そうします」
そう言って客間から出て行くシグルドを見送る。マルクスさんに用があれば鳴らすようにとベルを受け取って、俺はようやく一人で考える時間を得た。
「って言っても、まだ何にもわかんないんだけどな……」
体を包み込むようにフィットするソファに座って天井を仰ぐ。天上にはライトが設置されているが、電力がないこの世界で何を動力にしているんだろう。これも魔鉱石かな。
風呂場や洗面所には水道らしき配管があった。少なくとも水を汲み上げるシステムがある。ゲームでは当たり前のように受け入れていたことだが、実際目にすると何がどうなっているのかサッパリだ。
「世界を救う手助けをするって、ゲームの知識を使えってことなのかなぁ。そりゃまあ覚えてはいるけど……本当にそんなことが起きるのか?」
そもそもだ。これが本当にLoDの世界かどうかも定かじゃない。よく似ただけの別の世界かもしれないし、そうなったら何の力もない俺にはお手上げである。
「いや、何の力もない……わけじゃないのか。なんか役に立つスキルがあるって言われたし」
ぺた、と自分の顔に触れる。
平々凡々だったはずの俺の顔はアルフォンス・ラーゲルブラードそっくりに変わった。これが俺のスキルに何か関係あるのか、ないのか。
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