おとぎストーリー

きりんとう

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雑書

法人と矛盾

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「お、馬鹿のカズヤだ!おい、なんでこいつが馬鹿か知ってるか?それは、こいつの親が恥晒しだからだ!やーいやーい、恥晒しの子!」

この人は、父の雇い主の息子だが、いつも僕を見下し、馬鹿にしてくる。
父に迷惑をかけるだけだし、いつもは何を言われても無視していたが、今日は父を馬鹿にしてきた。

父が好きな僕は、怒りを覚えた。
たまらず、言い返してしまった。

「うるさい…!」

「おっ!こいつ、顔が赤くなったぞ!カズヤ真っ赤だ!はずかしー!」

僕は怒りを押し殺し、その部屋を離れた。


家に帰っても、言われた言葉が頭から離れない。

『恥晒しの子!』

「…。」

「カズヤ、どうした?顔色がわるいぞ。何かあったか?」

父の優しい声。

「今日、酷いことを言われたんだ。」

「息子よ。誰が敵になっても、俺だけは味方だ。」

父の言葉はいつも体を包み込む毛布のように、暖かかった。



ーーーー

ある日。

「なんだ、その顔色は!大丈夫か?…なんていう熱さだ。熱がある。水を持ってくるから、布団で寝てなさい。」

「お父さん、寒いよ。」

「大丈夫。お父さんが、ついてるから。」

「お父さん、お仕事、行かなくてもいいの?」

「大丈夫。心配するな。」

父はこっそりとつぶやいた。

「お前より大事なものなんか、お父さんにはないんだよ。」

目を瞑ると、意識は眠りの底へと沈んでいった。

ーーーー

数日後。

「おい、お前。ここ数日何してた。無断で休んでおいて、どの面下げてきたんだ?わかってんのか、誰のおかげであの家にすめてるのか。去年の分の家賃すらまだ払い終わってないお前を、住まわせてやってるんだ。」

「は、はい…。申し訳ございません。」

「誤ってすむ問題じゃねえんだよ!!いやあ、これは落とし前つけてもらわねえとなあ。」

「ひ、…。落とし前、と言いますと?」
「お前、保険入ってるよな。」
「は、はぃっ!え?」
「これ、請求書。明日までに振り込まれてなければ、どうなると思う?お前確か、息子がいたな。」 
「か、カズヤだけは!息子だけは!どうか!」

「可愛い息子のために、よく考えて行動するんだな。」

ーーーー

「おかえりなさい!お父さん!僕もう治ったよ!お父さん?」

父親は息子を抱きしめた。

「お父さん?」

「ああ、カズヤ。お父さんはな、お父さんはな、お前が大好きだ。うぅ…。」

泣きながら、そう言う父の体は、軽く感じた。

「…?」


ーーーー

翌日父は死んでいた。

庭の木で首を吊っていた。

頭が真っ白になった。



「お?カズヤ、こんな場所でどうした?恥晒しの息子!」

気がつけば、俺はそいつを殴っていた。
何度も、何度も。

何か言葉にならない嗚咽のようなものを叫びながら。

ーーーー


「被告人カズヤは、殺人未遂を犯したた。よって、無期懲役に処す。」

しばらく記憶がなかったが、裁判官らしき高齢の男がそういうと、うしろからきた屈強な男二人に支持されて、移動を始めた。
『これから牢屋にいくのか。』
と漠然と思いながら、歩き出した。

ーーーー


「おい、兄貴!なんてことをしたんだ!子供のいる人間を保険金目当てで自殺に追い込むとは!」

「なんだよ、トラフ?俺が俺の土地に住まわせてやってんだから、家畜みたいなもんだろ?お前は豚が死ぬたびにそうやって叫ぶのか?」

「外道が!見損なったぞ!兄貴!」

そういうと、トラフは出て行った。

「へっ。あいつは利口だが甘いな。地主には向いてない。」



トラフは役所へ向かった。

「正気か!?あの子は親を殺されたんだぞ!その相手を殴っただけで、一生牢屋行きだと!?」

「ああ、その通りだ。故意の殺人未遂は、重罪だ。死刑じゃないだけましだ。」

と役所の門番。


「そんな。そんなの、あんまりだ!不公平だ!」

「しかたないだろう。法律で決まっているのだから。」

カズヤ及びトラフの住むダルマル国の法律は、少数の貴族によって作られていた。

「そんなのおかしい。」

「何がおかしいんだ?」

「正しいことがなされないのは、おかしいじゃないか!」

「正しいことってなんだ?」

「論理的に正しいことだ!少なくとも、法律は話し合いで決めるべきだろう。」

「はん。何言ってんだか。」

そして、カズヤは出された食事を食べず、衰弱して牢屋のなかで死んだ。

独り身や孤児が埋められる墓場で一人、トラフはつぶやく。

「こんなのは、おかしい。間違っている。まってろよ、カズヤ。俺が変えてやる。この国の法律を。」

ーー二十年後ー


「ついに、上り詰めた。ついに、ここまできたぞ。」

トラフは、法務卿となり、国の法律に対して、最も強い権限を手にした。

トラフの苦労ののち数年後、ダルマル国の法律は、厳しい選別をクリアしたトレーニングを積んだ学者たちが議論を通して決めることになった。


トラフ「まず、人を殺してはいけない、という法律は必須だろう。一応聞いておくが、意義のあるもの、誰かいるか?はい、そこの君。」

熟練法律家「戦争の場合、どうなる?相手国の兵士を殺してはならないとなると、国など守れるはずがない。守るすべを持たない国は無意味な争いの原因となり、攻撃的な国よりはるかに人を殺す。」

トラフ「それはその通りだ。では、他国の兵士は除く、というものを付け加えよう。他に誰か?はい、そこの君。」

熟練法律家「どこまでが自国の者で、どこまでが他国のものなんだ?」

トラフ「国境の内側の者が自国のものだろう。」

若手法律家「国境は、現在停戦中の国境ばかりで、国が公式に国境を宣言すれば、宣戦布告とみなされます。」

トラフ「ぬぬ。では、我が国の言葉を話すものを自国のものとする。」

若手法律家「ご冗談でしょう?長年犬猿の関係にある隣国は、ほぼ同じ言語を使うのです。そんなことでは、有事の際に国を譲り渡すようなものです。」

トラフ「では、どうすれば良いのだ。このままでは自国と他国の間に区別すらつかぬぞ。」

若手法律家「住民登録をしてはいかがでしょうか?住民登録帳簿に名前があれば自国民、なければ他国民です。」

トラフ「それはいい!」

熟練法律家「他国と陸続きの我が国でどれだけの商売人、難民、旅人が行き来しているかご存知かな?概算でも毎年国民と同量の人々が出入りしている。
そんな状態で国民を帳簿に登録したところで抜け穴だらけ。
時間と予算の無駄遣い以外の何になりましょうか。」

若手法律家「せ、関所だ!国境沿いに関所を設けて、人の出入りを全て確認するのだ。」

熟練法律家「国境の長いこの国の全ての国境を監視するだけの予算も人材もない。それに鎖国は文化の遅れとなる。」

トラフ「もう、国境を暫定的に定めよ。これしかない」

熟練法律家「お言葉ですが法務卿。国境の宣言は甘く見ない方がいい。間違いなく隣国との間で摩擦が生じますよ。」

トラフ「うるさい!くっ。とりあえず、暫定的な国境を定めよ!議題は次に進む。私にはあまり時間もないのだ。次の予定もある。」

熟練法律家「私は言うべきことは言いました。」


ーーーー
数年後。


「敵国が攻めてきました!」

トラフ「なんだと!原因はなんだ!」

「国境沿いでのいざこざです!税金や法律をどちらの国のものを適応するか、互いに領土を主張し合った結果、小競り合いとなり、その争いが拡大したようです。その際に我が国の新法に記載されていた国境の定義を持ち出したことで、相手の軍をも刺激したようです。」

トラフ「クソッ!!何故だ!私は正義が行われる、法を求めただけなのに!」


ああ、争いの尽きない人間!

神の定めを守るために戦っているのに、何故だ!

家族を守るために戦っているのに、何故だ!

全ての人間に認められる、普遍の法とはどのようなものだろうか。

我々人間の境目すら明確に決めることができない不完全な言語・記号と論理によって、全ての人に認められる、普遍の法を定めることは、不可能であったのだ。

論理の元になる知識は、人間の欲望によって、いくらでも増えていく。

ああ、尽きない人間の欲望!

賢者は論理と、その原因である知識と、その原因である欲望を明らかに見てとり、速やかに欲望の洗浄を始めるのだ。

発言が不要となる心地まで。
言語が不要となるレベルまで。

不快の解決法が世界の操作ではないと気づくまで。

己を完全に理解するまで。


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