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第二章
第22話 2対1
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「アグネロぉぉ」
アグネロの姿を見て安堵したヒマレは、眉を八の字にして可愛い声で呟いた。そして、バゲットとガロの目を盗み、駆け足でアグネロの元へと向かうと、両手を広げるアグネロの胸へと飛び込んだ。
「お待たせヒマレ、怖い事されなかったか?」
「怖かったけど、アグネロが来てくれるって信じてたよ」
涙目で見つめてくるヒマレに、ニコッと笑うアグネロはまさに紳士。普段はアホだがやる時はやる男なのだ。
「おいお前ら、俺の仲間になにしてくれんだっての。うちの姫イジメた覚悟は出来てんだろうな」
威勢よく啖呵を切るアグネロに対して、バゲットが先に口を開く。
「よお兄ちゃん、久しぶり。その姫には特別なにもしてねーよ、そんなキレんなって。見りゃ分かんだろ、無理矢理服を脱がせた訳でもねぇ、蹴飛ばした訳でもねぇし。血一滴も流れてねぇだろ?なぁガロ、俺達は何もしてねぇよな」
「そうだな、それなのに覚悟だなんだって大袈裟な野郎だ。ヒーロー気取りで格好良いガキだこと。こっちは2人、お前は1人。分が悪いのに、戦う理由なんてあるか?」
ガロの問いかけに対して、ギロっと睨みをきかせるアグネロは、ヒマレを自分の後ろに匿い格好良く言葉を発す。
「戦う理由なんて仲間が泣いてる、それだけで十分だろ」
「へぇ、格好良いね。じゃあやってやる。おいバゲット、こいつは俺一人に殺らせてくれ。お前はそこで座って見てろ」
「うわ出たよ。2対1で分が悪いとか言ってた癖に、独り占めとかまじキメェから。まぁ、寝起きでダルいから今日は任せといてやるよ」
これから戦いが始まる緊張感で、空気が一気にピリつき始めた。アグネロとガロは10m程距離を保ち向かい合う。ヒマレは数歩後ろに下がり、バゲットは壁に寄り掛かりながら戦闘態勢の2人をじっと見ている。
「来いよガキ、いつでもいける」
「あぁ、言われなくても」
アグネロは左手で右の掌を引っ掻き、傷を付けて出血さた。これがアグネロの戦闘スタイルのようだ。
「血ニ選バレシモ天ノ運、コノ世ニ受ケタ魂ハ紅蓮ノ炎デ焼キ尽クス」
アグネロが呪文のような言葉を口にすると、右手に滴る血が炎に変わり、拳にメラメラとまとわりついた。ファイと戦った時と同じ光景だ。
「血炎焼拳!!」
ガロ目掛けて、一気に距離を詰めるアグネロ。燃え盛る右手はガロの左頬にクリーンヒット、するはずだった。振りかざした右フックは空振り。かなりのスピードだったアグネロの一撃をガロは、しゃがんでかわしていた。
「おっそ。死ね!」
しゃがみこんだガロはそのまま勢いよく飛び上がり、アグネロの顎に脳天からの頭突きを食らわせる。
「グバァッ」
もろに攻撃を食らったアグネロは、天高く吹っ飛ばされ、勢い良く地面に叩きつけられた。口の中を傷付けた様で、ダラダラと血が流れ出した。
「それが噂に聞くロイヤルブラッドの能力なのね、大したことねぇな。いくら特殊な能力が使えたって、身体能力が低いんじゃ意味無いな」
「るせぇっ。俺は血で戦うからあえて出血させただけだっての」
「痛々しいのに去勢張るねぇ」
「去勢は弱ぇ奴が張るもんだ。俺は強ぇっっ!!血炎焼拳!!」
口から血を流すアグネロは、すかさず二発目を繰り出した。先程と同じ攻撃だ。
「だから、遅せぇって言ってんだろ」
ガロは渾身の二発目も軽々しくかわし、カウンターの左フックをアグネロの右頬にねじ込ませた。そして、アグネロは壁にぶち当たり床に転げ落ちた。ボロボロにやられるアグネロを目の当たりにし、ヒマレは心配になり大声で叫ぶ。
「アグネロ!!」
ヒマレは自分が傷を癒せることを思い出し、血だらけのアグネロを助けようと駆け寄ろうとしたその時、それまで座って見ていたバゲットに捕まってしまった。
「おい、姫ちゃん。男二人の決闘に水を差すのは御法度じゃねぇかー?俺と一緒に見てろよ」
「やめて!はなしなさいよ!」
抵抗虚しく、男の腕力には勝てないヒマレだった。そんなヒマレの叫び声を聞いたアグネロは、また立ち上がり臨戦態勢をとる。まだ心は折れていないようだ。
「もう一発だ、次は必ず当てる」
「何回やっても同じだよ、雑魚が。お前のパンチは俺には当たらねぇよ」
「るせっ。血炎焼拳!!」
諦めないアグネロは、また同じ攻撃でガロに迫る。何か考えがあるようには見えない。アグネロが腕を振り上げた瞬間、バゲットに押さえつけられているヒマレは、必死の抵抗でバゲットの右手に思いっきり噛み付いた。
「痛っでぇ!何してくれてんだ、このクソアマ!!」
その直後、アグネロの全身全霊の三発目が見事にガロの顔面にクリーンヒット!目に見えない程のスピードで、吹き飛んだガロは、壁に叩きつけられ、地面に崩れ落ちた。
「よしっ、ヒット!」
ようやく当たった攻撃に手応えを感じたアグネロは、両手でガッツポーズをしてのけた。一方でバゲットは、どうにか噛み付くヒマレを引き剥がし、怒りのままにヒマレをぶん投げた。宙を舞うヒマレは、アグネロが上手くキャッチ。
「よっと、大丈夫かい姫よ」
「うん、ありがとう。アグネロ、負けないよね」
「当たり前だっての」
ヒマレをお姫様抱っこするアグネロはまさに王子様。そっとヒマレを降ろすと、アグネロはドヤ顔で口を開く。
「ははぁん、分かったかも」
そう言うとアグネロはすかさずに攻撃態勢をとる。視線はガロではなく、何故かバゲットに向いている。そして、バゲットに隙を与えぬ速さで近付くと、右回し蹴りをボディに食い込ませ、壁と蹴りに挟まれ衝撃が一点集中した。
「ガブォッ」
急な不意打ちに対応出来なかったバゲットは、白目を向いてその場で倒れ込んだ。それまで倒れていたガロは、その光景を見て、動揺し始めた。
「何となくだけどなお前の戦い方、いやお前髪達の戦い方分かった。」
「クソガキが、アホに見えて意外と戦闘中は頭がキレるタイプみてぇだな」
「エンチャントだな。そっちのくたばってるバゲットとかいう奴は何もしてねぇ様で、お前に魔法をかけてたんだろ。スピードアップとか身体能力上昇とか?そんなとこだろ」
「さすがはロイヤルブラッド様、御明答。こりゃもう勝ち目ねぇな」
アホの割には頭がキレるアグネロ、流石である。作戦がバレてしまったガロはこの勝負を諦めた様子だ。
「ヒマレがあいつに噛み付いた時、集中が切れて魔法が一瞬解けたから、俺のパンチが当たったと考えた。だからもう俺の勝ちだ」
「さすがアグネロね。私、少しだけだけど役に立てて良かった」
「あぁ、ありがとう。ちょっくら倒すから待っとけ」
ボロボロのアグネロは、力を振り絞り、攻撃の姿勢をとった。本日四度目の血炎焼拳をぶちかまして、勝負ありといったところだろう。
誰もがアグネロの勝利を確信したその時だった。倉庫内に銃声が響き渡った。その音はアグネロの背後から聞こえ、銃弾はアグネロの下腹部痛を貫通し、その場で倒れ込んだ。
一瞬の出来事でアグネロとヒマレは何が起きたのか理解が追いつかなかった。
「アグネロォォオ!!!」
ヒマレは目の前で倒れ込んだアグネロの体を揺さぶった。口から、お腹から、沢山の血が流れ出した。
「よくやったキャス。負けるかと思ったよ」
背後からアグネロを撃ったのは、キャスというガロ達の仲間だった。
アグネロの姿を見て安堵したヒマレは、眉を八の字にして可愛い声で呟いた。そして、バゲットとガロの目を盗み、駆け足でアグネロの元へと向かうと、両手を広げるアグネロの胸へと飛び込んだ。
「お待たせヒマレ、怖い事されなかったか?」
「怖かったけど、アグネロが来てくれるって信じてたよ」
涙目で見つめてくるヒマレに、ニコッと笑うアグネロはまさに紳士。普段はアホだがやる時はやる男なのだ。
「おいお前ら、俺の仲間になにしてくれんだっての。うちの姫イジメた覚悟は出来てんだろうな」
威勢よく啖呵を切るアグネロに対して、バゲットが先に口を開く。
「よお兄ちゃん、久しぶり。その姫には特別なにもしてねーよ、そんなキレんなって。見りゃ分かんだろ、無理矢理服を脱がせた訳でもねぇ、蹴飛ばした訳でもねぇし。血一滴も流れてねぇだろ?なぁガロ、俺達は何もしてねぇよな」
「そうだな、それなのに覚悟だなんだって大袈裟な野郎だ。ヒーロー気取りで格好良いガキだこと。こっちは2人、お前は1人。分が悪いのに、戦う理由なんてあるか?」
ガロの問いかけに対して、ギロっと睨みをきかせるアグネロは、ヒマレを自分の後ろに匿い格好良く言葉を発す。
「戦う理由なんて仲間が泣いてる、それだけで十分だろ」
「へぇ、格好良いね。じゃあやってやる。おいバゲット、こいつは俺一人に殺らせてくれ。お前はそこで座って見てろ」
「うわ出たよ。2対1で分が悪いとか言ってた癖に、独り占めとかまじキメェから。まぁ、寝起きでダルいから今日は任せといてやるよ」
これから戦いが始まる緊張感で、空気が一気にピリつき始めた。アグネロとガロは10m程距離を保ち向かい合う。ヒマレは数歩後ろに下がり、バゲットは壁に寄り掛かりながら戦闘態勢の2人をじっと見ている。
「来いよガキ、いつでもいける」
「あぁ、言われなくても」
アグネロは左手で右の掌を引っ掻き、傷を付けて出血さた。これがアグネロの戦闘スタイルのようだ。
「血ニ選バレシモ天ノ運、コノ世ニ受ケタ魂ハ紅蓮ノ炎デ焼キ尽クス」
アグネロが呪文のような言葉を口にすると、右手に滴る血が炎に変わり、拳にメラメラとまとわりついた。ファイと戦った時と同じ光景だ。
「血炎焼拳!!」
ガロ目掛けて、一気に距離を詰めるアグネロ。燃え盛る右手はガロの左頬にクリーンヒット、するはずだった。振りかざした右フックは空振り。かなりのスピードだったアグネロの一撃をガロは、しゃがんでかわしていた。
「おっそ。死ね!」
しゃがみこんだガロはそのまま勢いよく飛び上がり、アグネロの顎に脳天からの頭突きを食らわせる。
「グバァッ」
もろに攻撃を食らったアグネロは、天高く吹っ飛ばされ、勢い良く地面に叩きつけられた。口の中を傷付けた様で、ダラダラと血が流れ出した。
「それが噂に聞くロイヤルブラッドの能力なのね、大したことねぇな。いくら特殊な能力が使えたって、身体能力が低いんじゃ意味無いな」
「るせぇっ。俺は血で戦うからあえて出血させただけだっての」
「痛々しいのに去勢張るねぇ」
「去勢は弱ぇ奴が張るもんだ。俺は強ぇっっ!!血炎焼拳!!」
口から血を流すアグネロは、すかさず二発目を繰り出した。先程と同じ攻撃だ。
「だから、遅せぇって言ってんだろ」
ガロは渾身の二発目も軽々しくかわし、カウンターの左フックをアグネロの右頬にねじ込ませた。そして、アグネロは壁にぶち当たり床に転げ落ちた。ボロボロにやられるアグネロを目の当たりにし、ヒマレは心配になり大声で叫ぶ。
「アグネロ!!」
ヒマレは自分が傷を癒せることを思い出し、血だらけのアグネロを助けようと駆け寄ろうとしたその時、それまで座って見ていたバゲットに捕まってしまった。
「おい、姫ちゃん。男二人の決闘に水を差すのは御法度じゃねぇかー?俺と一緒に見てろよ」
「やめて!はなしなさいよ!」
抵抗虚しく、男の腕力には勝てないヒマレだった。そんなヒマレの叫び声を聞いたアグネロは、また立ち上がり臨戦態勢をとる。まだ心は折れていないようだ。
「もう一発だ、次は必ず当てる」
「何回やっても同じだよ、雑魚が。お前のパンチは俺には当たらねぇよ」
「るせっ。血炎焼拳!!」
諦めないアグネロは、また同じ攻撃でガロに迫る。何か考えがあるようには見えない。アグネロが腕を振り上げた瞬間、バゲットに押さえつけられているヒマレは、必死の抵抗でバゲットの右手に思いっきり噛み付いた。
「痛っでぇ!何してくれてんだ、このクソアマ!!」
その直後、アグネロの全身全霊の三発目が見事にガロの顔面にクリーンヒット!目に見えない程のスピードで、吹き飛んだガロは、壁に叩きつけられ、地面に崩れ落ちた。
「よしっ、ヒット!」
ようやく当たった攻撃に手応えを感じたアグネロは、両手でガッツポーズをしてのけた。一方でバゲットは、どうにか噛み付くヒマレを引き剥がし、怒りのままにヒマレをぶん投げた。宙を舞うヒマレは、アグネロが上手くキャッチ。
「よっと、大丈夫かい姫よ」
「うん、ありがとう。アグネロ、負けないよね」
「当たり前だっての」
ヒマレをお姫様抱っこするアグネロはまさに王子様。そっとヒマレを降ろすと、アグネロはドヤ顔で口を開く。
「ははぁん、分かったかも」
そう言うとアグネロはすかさずに攻撃態勢をとる。視線はガロではなく、何故かバゲットに向いている。そして、バゲットに隙を与えぬ速さで近付くと、右回し蹴りをボディに食い込ませ、壁と蹴りに挟まれ衝撃が一点集中した。
「ガブォッ」
急な不意打ちに対応出来なかったバゲットは、白目を向いてその場で倒れ込んだ。それまで倒れていたガロは、その光景を見て、動揺し始めた。
「何となくだけどなお前の戦い方、いやお前髪達の戦い方分かった。」
「クソガキが、アホに見えて意外と戦闘中は頭がキレるタイプみてぇだな」
「エンチャントだな。そっちのくたばってるバゲットとかいう奴は何もしてねぇ様で、お前に魔法をかけてたんだろ。スピードアップとか身体能力上昇とか?そんなとこだろ」
「さすがはロイヤルブラッド様、御明答。こりゃもう勝ち目ねぇな」
アホの割には頭がキレるアグネロ、流石である。作戦がバレてしまったガロはこの勝負を諦めた様子だ。
「ヒマレがあいつに噛み付いた時、集中が切れて魔法が一瞬解けたから、俺のパンチが当たったと考えた。だからもう俺の勝ちだ」
「さすがアグネロね。私、少しだけだけど役に立てて良かった」
「あぁ、ありがとう。ちょっくら倒すから待っとけ」
ボロボロのアグネロは、力を振り絞り、攻撃の姿勢をとった。本日四度目の血炎焼拳をぶちかまして、勝負ありといったところだろう。
誰もがアグネロの勝利を確信したその時だった。倉庫内に銃声が響き渡った。その音はアグネロの背後から聞こえ、銃弾はアグネロの下腹部痛を貫通し、その場で倒れ込んだ。
一瞬の出来事でアグネロとヒマレは何が起きたのか理解が追いつかなかった。
「アグネロォォオ!!!」
ヒマレは目の前で倒れ込んだアグネロの体を揺さぶった。口から、お腹から、沢山の血が流れ出した。
「よくやったキャス。負けるかと思ったよ」
背後からアグネロを撃ったのは、キャスというガロ達の仲間だった。
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