ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第25話 2人のアホ

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 ___話は10年前に遡る。アグネロが7歳、イバラが10歳の頃である。


  『おい、イバラ!  お前、車運転出来ねーのか? お前の父ちゃんの車勝手に借りて、ドライブしよーぜ』


    場所は、ナイテッド家の王宮。2人はイバラの部屋で遊んでいた。部屋と言っても、20畳程の広さで、子供部屋にしては、広すぎる洋間だ。壁一面に、難しそうな本がビッシリと本棚に詰まっている。それ以外の余計な物は無い。


  『僕に不可能は無いさ、何故なら僕の心の中には、愛が満ち溢れているからね』


  『は?    何言ってんだお前』


    アグネロのヤンチャ具合と、イバラの癖の強さは、子供の頃から変わっていないようだ。


  『この町で作られた車は、水の力があれば動く。だから、僕の血法があれば運転なんてチョロいさ』


    鼻がビヨーンと伸びているイバラのドヤ顔は芸術物である。


  『じゃあ、そうと決まれば、早く行こうぜ!』


    悪さを企んでいる、アグネロのニヤニヤ顔も負けず劣らず、芸術物だ。


   そうして2人は、部屋を抜け出し、車があるガレージへと向かった。


    『『抜き足、差し足、忍び足。抜き足、差し足、忍び足』』


    2人は、王達に気付かれないように、気配を消しながら、廊下を歩いている。


    『なあ、イバラ、抜き足ってなんだ?』


    『知らん』


    『差し足は』


    『知らん』


    『忍び足は』


    『知らん』



    『『抜き足、差し足、忍び足。抜き足、差し足、忍び足』』


    意味も知らないのに、何となく唱えている2人は本当にアホだ。そして、2人のアホは、5分程歩いた後に、ガレージへと着き、足を踏み入れた。



  『隊長!車を発見しました!直ちに、運転をお願いします』


    少し薄暗い雰囲気の中に、黒いピカピカの車があった。10年後のイバラが乗っているものと同じと思われるが、タイヤが水では無く、ノーマルのゴムのタイヤだ。

  『了解しました、副隊長!』


    そうして2人は、車のドアを開き、イバラは運転席へ、アグネロは助手席へと腰を掛けた。


  『えーっと、確かここのスイッチだったよな』


    イバラは、ハンドルの右下に付いているスイッチを押した。いつも、父親が運転しているのを見ていて、エンジンスタートを覚えたようだ。そして、車のエンジンがかかり、アクセルを踏めばいつでも発進できる状態になった。


 『エンジンかけるの簡単だな!   それなら、俺でも出来そうだ。水の力なんて必要ないじゃん』


    アグネロは、両腕を頭の後ろで組み、偉そうに言った。


  『エンジンはすぐにかかる、だけどアクセルを踏むと、足から、血法の水が吸い取られ、動き出すんだ。不思議なアクセルペダルだろ』



  『ひょえー、それじゃあ、俺には無理だ。俺の炎が吸い取られたら、爆発しちゃいそうだし』


  『だね、それじゃあいくよ』


    イバラは、そう言って、ドアのレバーの下にあるスイッチを押した。すると、車の正面のシャッターが少しずつ、開いていき、太陽の光が差し込んできた。


    10秒程で、シャッターは全開になり、そこに広がる外の景色を確認した2人は、高揚感がマックスになった。


    『『出発進行!!』』


    キラキラに輝く笑顔の2人は、声を揃えて叫んだ。そして、イバラの右足はアクセルペダルを思いっきり踏み込んだ。一瞬にして、最高速度に達した車は、勢いよくガレージを飛び出して行った。イバラはアクセルの調整などは知らなかったのだ。


   『うっひょー!   最高だぜ、イバラ!』


    野外ライブが開けそうな程広い庭を軽快に駆け抜けて行く車は、誰も止められやしない。綺麗に咲き誇る芝桜をも豪快に踏み散らして行った。アグネロが後ろを振り返ると、絵に書いたような、大きなお城がまるでミニチュアハウスのように、だんだんと小さくなっていった。


    この街の人口は約10万人。敷地は膨大な広さで、街が1つの王国となっている。街の名前は、水郷街すいごうがいと言って、通称アクアドームシティと呼ばれている。その由来は、この街を囲う壁にある。まるでドームのように壁一面から天まで水で出来た壁で覆われている。かなり、透明度の高い水で、水の壁の厚さは、約20m程だ。水の壁があるだけで、壁の中は至って普通に空気が流れている。特別な水の力でこの街は守られているのである。


  『おい、イバラ!    トンネルはこっちじゃねーだろ!』


  『分かってるさ、でもさすがに密集した住宅地を抜けるのは、僕の運転技術じゃ無理だし、騒ぎが大きくなると父さんに見つかってしまう』



    街の外に出るには、街に1つだけあるトンネルをくぐらなければならない。2人は、街の外へと出ていくつもりだ。


  『なんだ、ちゃんとした考えがあるのか! 』


  『当たり前さ』


    そうして、2人は遠回りしながらトンネルへと向かった。軽快に車を飛ばすこと10分。ついに、目標のトンネルが見えてきた。そこだけ、水の壁をくり抜いてある。トンネルの高さは5m、幅は10mといったところだ。


  『アグ、見えてきたよ』


  『おう!    そのまま突っ切れ!』


     興奮状態のアグネロは右手で前方を指さして、叫んだ。そして、2人を乗せた車はトンネルへと進入し、ものの数秒で出口から飛び出して行ったのであった。 目の前には淡い緑の雄大な草原が拡がり、まるで動物パークのバスツアーの始まりのような高揚感に包まれた。


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