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122話 紅玉龍の遺跡

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 馬車に乗り込むとそこには既に先客がいたようだった。

「ああ、シュンも来るのか」

 その声が自分の父親の声であるということはすぐに分かった。

「僕が覚えている中では遺跡には一度も行ったことがなかったからさ」

「そうだな、シュンは赤ん坊の頃に行ったっきりだったな」

 当然、シュンにその記憶はない。
 だが、シュンの父にとってはかなりの思い出だったらしい。

「あの時は不思議なことが起こってな、シュンは何かに憑かれたかのようにこっちに向かって話そうとしてたな」

 なにそれこわい。
 実際のところ、自分だってある意味とりついた身であるために何とも言えないが……。

「シュンという名前はその時に聞き取れた言葉をそのままつけたんだっけな、懐かしい」

 果たしてそれが偶然だったのかどうかは定かではないが、もしかしたらその時から僕のさだめは決まっていたのかもしれない。
 シュン、もしもそれが運命だとするならば……。


 馬車で紅玉龍の遺跡に着くのには一時間ほどかかっただろうか。
 遺跡の近くともなるとほとんど人工的な建造物は見当たらなくなっていて、いかに自然に保存されていたかがわかる。

 馬車が止まり、操縦をしていた男性は客室のドアを開けた。

「目的地、紅玉龍の遺跡となります。お帰りの際もこちらでお待ちしております」

 彼のその言葉に軽く会釈だけすると、遺跡の方を見る。

「紅玉龍の遺跡」

 入り口には石にそう彫られていて、所々文字がつぶれているものの読めなくはない。

『………………か…?』

 どこからか声が聞こえたような気がしてあたりを見渡してみるが、誰かがこちらに向かって話しかけている様子はなかった。
 気のせいなのだろうかと遺跡に入ると、もう一度声が聞こえてきた。

『わ…………声…えて……か?』

 やはり気のせいなんかではない。
 確実に、こちらに向かって誰かが話しかけている。

 と同時に、その声が僕以外の誰にも聞こえてないことにも気がついた。

 声が強くなる方向は、おそらく僕たちが向かっている方向なのだろう。
 さらに進むとその声がはっきりと聞こえるようになった。

『私の声が聞こえてますか?』

 その声はまるで本当に隣にいるかのように話しかけている。
 でも、このような経験は初めてではない。

 シュンと別れた時にもたしか……。

『聞こえてますよ。あなたは一体?』

 心の中で念じるように言葉を投げかける。
 それは相手に届いたようだった。

『私は、ミトラスです。シュン、貴方に逢うのは初めてかもしれません』

 しかし、なぜいきなり先祖であるミトラス神がこちらに向かって話しかけてくるのだろうか?

『あなたの目的は一体何ですか?』

『……、私はずっと待っていました。日本であなたが身を投げた後、転生したあなたがこの遺跡に来ることを』

 それは、まるで僕がここに来ることをはじめから知っていたかのように。

『私は、貴方に必要な力を授けるためにここで待っていました』
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