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第三十話 カーテンコールにはまだ早い
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セドリックの言葉に石造りの聖堂は沈黙に包まれ、一段と冷え込んだ。
「真実の愛に目覚めた今の僕なら、きっと君を幸せにできる!
あの過ちは忘れて、新たな未来を共に――」
「衛兵」
ぴしっ、とアメリアが扇を畳んだ。
「……お呼びでないことくらい、そろそろ気づきなさい。
このバカ弟の頭を冷やして差し上げて」
「まっ、待て待てま――わーっ!?」
脇を掴まれて引きずられそうになるセドリック。
すると――
「……まあ、待て」
低く抑えた声が、聖堂の石壁に深く響いた。
アウグスト王がゆっくりと立ち上がる。
その動きに呼応するように、場の空気がぴんと張り詰める。
王は玉座の前から歩み出て、リシェルに向き直った。
金糸を織り込んだ王衣が揺れ、ステンドグラスの光を受けて淡く輝く。
――しばしの沈黙。
次の瞬間、王の眼差しは威厳を帯び、
朗々とした声が大聖堂の隅々まで満ちた。
「まず、滅魔の一族の末裔、リシェル・クレイモアよ。
此度は王子だけでなく、王国までも救ったこと……誠に大儀であった」
石造りの大聖堂の天蓋に反響する言葉。
その一語一語は数十年、王国を担ってきた者の重みを帯び、
参列者の胸の奥まで深く沁みわたった。
誰もが息を呑み、聖堂は凍りつくような静けさに包まれる――
ただ一人、アメリアだけが扇の上から鋭く王を睨んでいた。
「え、ええ。過分なお言葉に、感謝いたします」
リシェルはドレスの裾を摘まみ、深く優雅に一礼する。
「うむ……では褒美として、改めて“王家との婚約”を提案したい。
受け入れてもらえると嬉しい」
リシェルの瞳がわずかに見開かれ、頬をほんのり染めながら視線を落とす。
そこには、エリックが脱ぎ捨てた仮面が、淡く光を反射していた。
王は咳ばらいをすると、アメリアに一言。
「婚約は国庫が空でもできるな?」
アメリアは冷たい目のまま無言だったが、リシェルの反応も含め――
承諾と見たのか王はにこりと笑みを浮かべた。
「――セドリックとの婚約を許そう。式は盛大に……今週末でどうじゃ?」
「……え!?」
「父上~ッ!?」
涙と鼻水でぐずぐずのセドリックは、救いの主を見るように目を輝かせた。
アメリアは小さくため息をつくと、扇を静かに畳む。
衛兵二名の眉が、ぴくりと動いた。
王はやさしく微笑みながら、うんうんと頷く。
「過去の過ちを認めてやり直す。その姿勢、見直したぞ……。
今度こそ”真実の愛”とかいうやつを、見誤るでないぞ、セドリック」
セドリックの瞳から涙が零れ落ちる。
「な? エリック? そう思うじゃろ?」
セドリックもまた、うんうんと頷くが、エリックは冷たい瞳のまま無言。
「……ああ、そうじゃ。宴の料理はピーナッツを山盛りに――」
その完全に空気を読まない発言に、場が凍る。
……そして、静かにアメリアが扇を閉じた。
「……衛兵。追加でもう一人」
「ちょっ!? アメリア、まさか父上まで!?」
両脇を衛兵に抱えられ宙吊りのセドリックが叫んだ。
「ええ、頭を冷やすにはちょうどいいかと」
「国王だぞ!? わし、国王なんだけど!?」
「国王なら、なおさら空気を読む練習が必要ですわね。
ピーナッツは山盛りで用意させますので――減塩で。励んでらして」
「うむ。それならば落ち着いて物思いに耽る有意義な時間になるだろう。
アメリア。お前は実に聡い子じゃ……ほめて遣わすぞ」
王は満足げに頷いた。――が、両脇から衛兵が容赦なく腋を掴む。
「――いやいや、そういうことではない! 待て、待て、わあああ――っ!」
衛兵たちに挟まれて、父子仲良くずるずると引きずられてゆく。
アメリアは再び扇をぱたぱたと仰ぎながら、天井を見上げて小さくため息をついた。
「ほんと、どうしてこう育ったのかしら……アウグスト家の男どもって。兄上を除いて」
そして、扇の上からリシェルとエリックを覗く。
「さあ、次は兄上の番ですわよ」
ドアが閉まる音とともに、静寂が戻ってきた。
リシェルがぽつり。
「……カーテンコールには、少し早すぎますわね」
苦笑したエリックもぽつり。
「ええ。まだ、ほんの幕間ということにしておきましょう」
「真実の愛に目覚めた今の僕なら、きっと君を幸せにできる!
あの過ちは忘れて、新たな未来を共に――」
「衛兵」
ぴしっ、とアメリアが扇を畳んだ。
「……お呼びでないことくらい、そろそろ気づきなさい。
このバカ弟の頭を冷やして差し上げて」
「まっ、待て待てま――わーっ!?」
脇を掴まれて引きずられそうになるセドリック。
すると――
「……まあ、待て」
低く抑えた声が、聖堂の石壁に深く響いた。
アウグスト王がゆっくりと立ち上がる。
その動きに呼応するように、場の空気がぴんと張り詰める。
王は玉座の前から歩み出て、リシェルに向き直った。
金糸を織り込んだ王衣が揺れ、ステンドグラスの光を受けて淡く輝く。
――しばしの沈黙。
次の瞬間、王の眼差しは威厳を帯び、
朗々とした声が大聖堂の隅々まで満ちた。
「まず、滅魔の一族の末裔、リシェル・クレイモアよ。
此度は王子だけでなく、王国までも救ったこと……誠に大儀であった」
石造りの大聖堂の天蓋に反響する言葉。
その一語一語は数十年、王国を担ってきた者の重みを帯び、
参列者の胸の奥まで深く沁みわたった。
誰もが息を呑み、聖堂は凍りつくような静けさに包まれる――
ただ一人、アメリアだけが扇の上から鋭く王を睨んでいた。
「え、ええ。過分なお言葉に、感謝いたします」
リシェルはドレスの裾を摘まみ、深く優雅に一礼する。
「うむ……では褒美として、改めて“王家との婚約”を提案したい。
受け入れてもらえると嬉しい」
リシェルの瞳がわずかに見開かれ、頬をほんのり染めながら視線を落とす。
そこには、エリックが脱ぎ捨てた仮面が、淡く光を反射していた。
王は咳ばらいをすると、アメリアに一言。
「婚約は国庫が空でもできるな?」
アメリアは冷たい目のまま無言だったが、リシェルの反応も含め――
承諾と見たのか王はにこりと笑みを浮かべた。
「――セドリックとの婚約を許そう。式は盛大に……今週末でどうじゃ?」
「……え!?」
「父上~ッ!?」
涙と鼻水でぐずぐずのセドリックは、救いの主を見るように目を輝かせた。
アメリアは小さくため息をつくと、扇を静かに畳む。
衛兵二名の眉が、ぴくりと動いた。
王はやさしく微笑みながら、うんうんと頷く。
「過去の過ちを認めてやり直す。その姿勢、見直したぞ……。
今度こそ”真実の愛”とかいうやつを、見誤るでないぞ、セドリック」
セドリックの瞳から涙が零れ落ちる。
「な? エリック? そう思うじゃろ?」
セドリックもまた、うんうんと頷くが、エリックは冷たい瞳のまま無言。
「……ああ、そうじゃ。宴の料理はピーナッツを山盛りに――」
その完全に空気を読まない発言に、場が凍る。
……そして、静かにアメリアが扇を閉じた。
「……衛兵。追加でもう一人」
「ちょっ!? アメリア、まさか父上まで!?」
両脇を衛兵に抱えられ宙吊りのセドリックが叫んだ。
「ええ、頭を冷やすにはちょうどいいかと」
「国王だぞ!? わし、国王なんだけど!?」
「国王なら、なおさら空気を読む練習が必要ですわね。
ピーナッツは山盛りで用意させますので――減塩で。励んでらして」
「うむ。それならば落ち着いて物思いに耽る有意義な時間になるだろう。
アメリア。お前は実に聡い子じゃ……ほめて遣わすぞ」
王は満足げに頷いた。――が、両脇から衛兵が容赦なく腋を掴む。
「――いやいや、そういうことではない! 待て、待て、わあああ――っ!」
衛兵たちに挟まれて、父子仲良くずるずると引きずられてゆく。
アメリアは再び扇をぱたぱたと仰ぎながら、天井を見上げて小さくため息をついた。
「ほんと、どうしてこう育ったのかしら……アウグスト家の男どもって。兄上を除いて」
そして、扇の上からリシェルとエリックを覗く。
「さあ、次は兄上の番ですわよ」
ドアが閉まる音とともに、静寂が戻ってきた。
リシェルがぽつり。
「……カーテンコールには、少し早すぎますわね」
苦笑したエリックもぽつり。
「ええ。まだ、ほんの幕間ということにしておきましょう」
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