水神様に溺愛されたら、死に戻り巫女になりました。――たとえ何度あなたを忘れても、私はきっとまた恋をします。

猫屋敷 むぎ

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第一部 ユイ編 第一章 

第二話 滲む記憶

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私は――また死んだ。

しかし、その次の瞬間。

ぽちゃん。

また、冷たい水が全身を抱きしめた。
冷たい。苦しい。息ができない。

足首には相変わらず、何かが重く絡みついている。
まるで“上に行くことを許さない”と告げるように。

氷のような水が肌にまとわりつき、体温をごっそり奪っていく。
何度沈んでも、この凍える痛みだけは決して薄れなかった。

どうしてだろう。
私は確かに“死んだ”はずなのに――
気づけば、また水の中にいる。

身体は本能で水面へ向かおうとするのに、足首の痛みがそれを阻む。
蹴っても、蹴っても、絡みつくそれは外れない。
ただ重く、冷たく、底へ引きずるだけ。

こんなにも苦しいのに。
――どうして、私は沈まなきゃいけなかったんだろう。

誰かのために?
そんな気がした。けれど、思い出せない。

苦しい。苦しい。
胸が裂けそうなのに、呼吸ができない。

そのとき――また、あの水底からの声が響いた。
それが聞こえるたびに、黒い闇が私を深く深く飲み込んでいく。

また、だ。

ぽちゃん。

冷たい水が、また全身を包む。

何度も、何度も。
死んでは、生き返り、そしてまた沈む。
冷たさも、痛みも、恐怖も――ひとつも消えてくれないまま。

足首の重みは変わらず、呼吸はできない。
そして、また死ぬ。

けれど、何度目かの“死の縁”で――
私は、水面に浮かぶ“何か”を見た。

――小舟?

そこには、人影がいくつも並んでいた。
祈るように、両手を胸の前で固く合わせている。

どうして?
どうして、ただ祈っているの?

お願い、助けて――。

声を出したかった。けれど、水が喉に絡みつき、音にならない。

祈りの人影の奥で、世界がわずかに歪む。
輪郭が滲み、ゆっくりと剥がれていくように見えた。

そのとき、ふと自分の姿が目に入る。

白い――装束。
巫女のような布が、水の中でゆらゆらと揺れていた。

どうして?
どうして私、こんな格好をして――
そもそも、私は誰だった?

記憶が滲んでいく。
大事な何かを必死に掴もうとしているのに、指の間から零れ落ちていくみたいだった。

また意識が沈む。
でも、その暗闇の奥で――

誰かが泣いていた。

ぼんやりと浮かぶ記憶。

「やだよ、お姉ちゃん」

か細くて、震えていて、必死に縋る声。

――あれは……私の妹?

どうして泣いているの?
どうして、そんな声で私を呼ぶの?

わからない。
わからないまま、私は、また死んだ。
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