水神様、いきなり巫女って言われても、恋もあやかしも難しすぎます! 〜こちら、帝都第一高校文芸部 あやかし相談室〜

猫屋敷むぎ

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序章 ユイ編 第二章【完結済】

第十話 水神様。まさか!?

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これは、結花の前世、”ユイ”のお話。

――また恋に落ちて間もなく、ふたりとも不器用だった朝のこと。

結婚してひと月。
“祠の守り人”としての暮らしが始まって、ようやく形になりかけてきた頃。

私――結《ユイ》はまだ、旦那様のことを
「ちょっと変わってるけど優しい人」
……そのくらいにしか思っていなかった。

***

その朝も、旦那様――蒼生《アオイ》は、祠の前を箒で静かに掃いていた。

真剣そのもの。
無言。
余計な動きが一つもなく、風の筋すら読んでいるような所作。

掃除というより、
何か“空気そのもの”を整えているみたいだった。

「……ねえ、あなた。そこ、三度目よ?」

声をかけると、アオイは箒を止めたまま、少しだけ首を傾けた。

「……いま、“流れ”が変わった」

「流れ? 今日、風なんて吹いてないわよ?」

「……“兆し”がした」

「……兆し……?」

(兆しって、そんな気軽に起きるものなの?
 ていうか、掃除中に察するものなの?)

こういう“よくわからない理屈”も、結婚してひと月も経てば慣れてくる。
慣れないと生活が進まない。

「じゃあ朝餉の支度してくるわね」

私は前掛けを手にした。
妹がくれたもので、妙に張り切って刺繍が施されている。

――その妹が、結婚式のあとに言った言葉を思い出す。

『姉さんって……けっこうメンクイだったんだね……いいな~』

周りから見れば、確かにアオイは麗しい人なのだろう。
でも私はそんな“見た目”で選んだつもりは……ない。たぶん。

かまどへ向かおうとしたとき――

「……今日は、水源を見に行く」

アオイが淡々と言った。

「……え?」

「午前のうちに、様子を確かめたい」

「水源って……滝の方? 最近、妙に通ってない?」

アオイは箒を置き、布袋を肩にかけ、いつもの真顔で言った。

「行ってくる」

「ちょ、ちょっと待って。“確かめる”って何を?」

問いかけると、アオイは一瞬だけ、声をひそめた。

「……ミズノ……“メグリ”を……」

風にほどけて消えそうな、弱い声。

そして横顔が――
ほんの、ほんの少しだけ“気まずそう”に揺れた。

(ミズノ……? 誰、その苗字。
 ていうか“メグリ”ってどう考えても女の名前よね?)

「“メグリ”って……誰?」

尋ねると、アオイはなぜか視線をすっとそらした。

水色の髪が木漏れ日に揺れ、
その横顔が妙に整っているせいで、余計に腹が立つ。

(……最近、祠にご婦人が来ること増えた気が……
 まさか……いや、まさかね?)

アオイは平静を保っているつもりなのだろうけれど、
どう見ても挙動不審だ。

(……浮気……?)

その言葉が浮かんだ瞬間、胸がちくりと痛んだ。

疑うつもりなんてなかった。
そんな人じゃないと信じていた。
でも、胸が苦しくなるのはどうしてなのか。

前掛けの布をぎゅっと握る。

(……やだ、私……なんでこんな……)

胸の奥が、薄曇りみたいにきゅっとする。

たったひと月。
まだ夫婦らしい夫婦にもなっていないのに。
それだけでこんなに揺れるなんて。

でも――

(……腹立つわね)

胸の曇りの奥から、別の感情がむくっと起き上がった。

(いいわ。“メグリ”って誰なのか、この目で確かめてやる。
 あなたに“後ろめたさ”なんて、一番似合わないんだから)

私は前掛けの紐をきゅっと結び、かまどへ向かった。

ただの朝。
ただのすれ違い。

――でも、この小さなざわめきが、
ふたりの恋の歯車を、そっともう一度動かし始めるのだった。
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