オートマーズ

小森 輝

文字の大きさ
30 / 72
5章 火星探査部への入部

30

しおりを挟む
「私、部活に入ろうと思って、それで、親の許可がいるみたいだから、これ」
「部活動か……。やっぱり、学生は部活だよな。それで、何部なんだ?」
 母親も父親も気にするところは一緒です。
「言っても分からないだろうけど、火星探査部っていう部活」
 私のその返事に、入部届にサインを書こうとしていた父親のペンが止まりました。
「火星探査部……? 何でまたそんな部活に」
「え? 誘われたからそれで……」
 さっきまで私の入部に賛成だと思っていた父親の態度が急変しました。
「ダメだ。俺は反対だ」
 覚悟もない気持ちで部活をやるなとかいうお説教なら分からないこともなかったのですが、まさか頭ごなしに反対してくるとは思いませんでした。
 これにはご飯の準備をしている母も慌てて私の加勢をしてくれました。
「せっかく、ひーちゃんが部活に興味もってるんだからやらせてあげたらいいじゃない。別にお金に困ってる訳じゃないんだし。まあ、勉強はあれだけど……。そこは部活と一緒に頑張ればいいんじゃない?」
「そうじゃない! 火星探査部、国連が管理しているといっても安全が確証されている訳じゃない。昔から高校生を火星なんていう未知の土地へと向かわせるのには反対意見が多いんだぞ。そんな危険な部活をさせるわけにはいかない!」
「そんな危険だなんて……」
 確かに私は火星探査部について、ほとんど知りません。見せられたのは、火星での胸が高鳴る冒険の始まり。危険なことは一切見せてはくれませんでした。しかし……。
 と、その後の言葉は母が繋げてくれました。
「そうよ。危険っていうならサッカーとか野球とかバスケとか、運動部はみんな危険があるじゃない。それこそ、命に関わるような……」
「そういう危険とは違うんだ! 兎に角、俺は反対だ!」
 頑固な父親というイメージはなかったのですが、なぜか今回だけは特別頑固なようです。
 何を言われても反対は変わらないという膠着した雰囲気の中、もう一人の家族が帰ってきました。
「ただいま……って、なに? どうしたん?」
 この状況に戸惑っているのは、私の兄、葵です。
「おお、葵、いいところに帰ってきた。お前からも言ってやってくれ」
「言ってやってくれって、何をだよ」
 兄も父の味方をしそうです。ですが、言われもない文句を言われるのは見学しただけの私でもいい気はしません。だから、その前に私は反論します。
「大丈夫だよ。今日だって見学で火星に行ってきたけど平気だったし」
「「火星に行ってきた!?」」
 父も兄も同じこと言いました。
「なんて危ないことを……」
 父は怒っていますが、兄の反応は違うようです。
「火星に行ったってことはオートマーズだよな? どうだった? 何か不便なことはなかったか? ほしい機能とか。腕が伸びた方がいいとか、なにかなかったか?」
 兄がこんなに食いついてくるなんて、私含めみんな予想外でした。
「あ、葵? お前は止めてくれるんじゃ……」
「止める? 何を」
「何をって、緋色が火星探査部に入ることだよ」
「は? なんで俺が止めるんだよ」
「ほら、お前、工学部だろ? フルダイブは脳への影響があるかもしれないって見たことあるぞ」
「いつの時代の話だよ。フルダイブで脳に影響なんてでないよ。出てたら俺が持ってるゲームなんて回収されてるって」
「他にも、火星探査機との交信が途絶えたり、何度も火星への有人飛行を断念したり、バミューダ・トライアングルなんて言われてること知ってるだろ?」
「オカルトだろ? 実際、オートマーズでの火星探査での人的被害は出てないんだし」
 父の意見は全て兄に論破されていました。
「俺だって、高校に戻れるんなら火星探査部に入ってたよ。聞くのと実際に行くのじゃ話が違うからな。それぐらい、貴重な体験なんだから、枠が余ってて興味もあるんならやるべきだろ。内申点も上がるだろうしな」
「別に成績が悪いのとは関係ないんだけど……」
 よく考えたら兄が食いついてくるのは、当たり前のことでした。兄は大学生で工学部に入っています。もしかしたら、オートマーズの技師を目指しているのかもしれません。しかし、私は別にオートマーズの技師を目指している訳でもありませんし、内申点が目的で入部するわけではありません。
「そこまで言うなら……」
 私の成績を考えて渋々という様子なのが少し不服ですが、父も同意してくれました。これでなんとか私も火星探査部の一員になれそうです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...