オートマーズ

小森 輝

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10章 火星人との邂逅

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 私が目覚めたとき、体は体操座りのようにして縮こまっていました。
「うぅ……ここは……」
 凝り固まった体を解すように伸びをして、辺りを見渡すと、ここがどこか一目で分かりました。
「火星についたのか……」
 ここは、火星です。それも見知らぬ天井もなく、ベッドで寝ていたわけでもありません。
 辺りは一面、赤い砂漠が広がり、天井なんてものはありません。私は、たった一人で火星の大地に放り出されているのです。
 もちろん、何か問題が起きて私一人だけ火星の大地に放り出されたわけではありません。これは想定していた状況です。
 私のオートマーズは前回の火星探査で機能が停止してしまい、使えなくなりました。そのため、代わりのオートマーズが必要なのです。それが今の私の体です。
「新しい体だけど、違和感なんて全然ないな……」
 これが新しい体だと知らなければ気づかないほどです。最初はオートマーズの体を生身の体と勘違いしていたほどですから当たり前のことかもしれません。
 それよりも、私にはみんなと合流するまでにやらなければならないことがあります。
「えっと……体は……大丈夫そう」
 腕も2本ありますし、足もちゃんと付いています。体の欠損はなさそうです。
 新品の体なのに、なぜ体が欠損していないか心配しなければならなかったのか。それには理由があります。
 オートマーズは元から火星にあるわけではありません。地球から送られてくるのです。そして、予備のオートマーズは、火星の周りを公転している人工衛星にストックしてあります。今回、私に代わりのオートマーズが必要になったということで、ストックされている1体が火星へと降り立ったのですが、その際に希にですが体の部位が欠損してしまう場合があるそうです。しかし、今回は無事に、私の元へとオートマーズは届いてくれたようです。
 と、そこで、もう一つ確認しなければならないことを思い出しました。
「そうだ。パラシュート」
 オートマーズは人工衛星から火星の大地へと投下される際、パラシュートを使用します。着陸後は不要なので、すぐに回収しないと、砂嵐などの強い風をパラシュートが受けてオートマーズごと飛ばされてしまう可能性があります。二度も砂嵐で飛ばされるのは勘弁してもらいたいので、背中にあるパラシュートを確認するのですが、すでになくなっていました。
「よかった。機能してる」
 風で飛ばされるといった危険性も考慮して、着陸後はパラシュートを自動で回収する機能が備わっているのですが、それがうまく機能してくれました。もしパラシュートが出たままだったら手作業で背中にある収納スペースに押し込めなければならなかった所です。手間が省けて何よりです。
 これで城山先生から言われていた事前の確認は終わりました。つまり、やることがなくなったというわけです。
「そうだ! 準備運動!」
 歩き回ることは城山先生に堅く禁じられていますが、準備運動は禁止されていません。2回目の火星探査のとき、マリさんが言っていたように、火星に来たらまず準備運動をする癖を付けようと思います。
「それにしても、違和感ないな……」
 準備運動をすると、ますます違和感が消え去っていくような気がします。みんなの話だと、最初は同期が合わなくて歩くのも大変だと聞きますが、私にはそんな違和感が全くありません。むしろ体が軽いです。最近はボルダリングの練習で筋肉痛が続いていたのですが、この体はそんな痛みもなく快適です。これもオートマーズとの相性がいいおかげなのでしょうか。
 そんなことを考えながら体を動かしていると、準備運動も終わってしまいました。後は歩行テストぐらいなのですが、城山先生の監視もありますので、今はやめておきます。
 そうなると、本格的にやることがなくなっていまいました。
「みんな早く来てくれないかな……」
 しゃがんで地面に落書きをするぐらいしかやることがなくなってしまいました。
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