オートマーズ

10章 火星人との邂逅

62

　それから数分後の出来事です。
「あれじゃないですか？　おーい！　生きてるか？」
　遠くから聞き覚えのある声が飛んできました。
　私は慌てて落書きを消して声の方を見ました。そこには予想通り彦君の姿が見えます。それに大葉部長とマリさんも一緒です。みんな無事に私を迎えに来てくれました。
「みんなー！　こっちだよー！」
　私が手を振ると、無事だったことが嬉しかったのか、みんな小走りで来てくれます。それに応えて、私もみんなの元へ急いで向かいました。
　まず最初に抱きついたのは大葉部長です。一人で不安だった私の心をしっかりと抱きしめてくれました。
「緋色さん、大丈夫ですか？」
「ちょっと寂しかっただけです。大丈夫です」
　オートマーズは機械の体なので涙は流しませんが、弱気とはここでおさらばします。
「そうだったんですね。でも、もう心は大丈夫ですね。体の方は大丈夫ですか？」
　そう聞かれて、急に恥ずかしくなりました。最初から、大葉部長は私の体の方を気にかけていたのです。言わなくてもいい自分の心の内を口に出してしまいました。
　このままでは恥ずかしさに耐えきれないので、無駄に強がって見せます。
「だ、大丈夫です！　今ならボルダリングの世界記録を狙えそうなぐらいです」
「それはよかったです。こっちに走ってくるときに問題は感じられませんでしたか？」
「はい！　走って来るときも今まで通りで問題は……あっ！」
　そこで城山先生の言いつけを思い出しました。みんなと合流するまでは動くなと。みんなの姿が見えた興奮でそのことをすっかり忘れていました。
「この距離ですし、先生も大目に見てくれますよ」
「そうだといいんですけど……」
　地球に帰ったら先生に怒られそうで少し不安です。
「緋色さんの動作チェックもありますし、ここで少し休憩をしましょう」
　それから大葉部長に動作チェックをしてもらい、問題はなかったので、私たちは本命の第二目標へと向かいました。