オートマーズ

小森 輝

文字の大きさ
67 / 72
10章 火星人との邂逅

67

しおりを挟む
「それでは、このオートマーズを回収した後、帰還しましょう」
 私たちがここへ来た目的である壊れたオートマーズと植物が入った箱も回収できました。しかし、私たちには、もう一つここへ来た目的があります。
「ちょっと待ってください! 火星人は探さないんですか?」
 むしろ、そのためにここまで来たと言っても過言ではありません。
「一応、飛び散ったオートマーズの部品を拾ったりするので、それまでは待ちます。しかし、それまでに向こうから何らかの接触がなければ、そのまま帰還しようと考えています」
「そんな……」
「火星人にだって私たちと接触するタイミングがあるはずです。無闇に探して相手からの印象を悪くしてしまえば、今後の火星人との交流にも悪影響が出てしまいますから」
「……分かりました」
 渋々ながらではありますが、私は首を縦に振りました。
 飛び散ったオートマーズの部品を集めるのは、それほど時間はかかりませんでした。左腕も左足もすぐ側にありました。今は大葉部長とマリさんが帰りの予定を話し合っています。経験値が少ない1年生の私と彦君は、暇をつぶしも兼ねて見落としがないか壊れたオートマーズを調べていました。
「しっかし、ずいぶん派手に壊したよな」
「好きで壊したわけじゃないからね?」
「分かってるよ。でも、一応、火星は地球より重力が小さいんだ。ただ落ちただけじゃ、普通、こんなに壊れないって」
「まあ、2回も落ちちゃったからね……」
 そのせいでオートマーズはこんなにボロボロになってしまいましたが、おかげで世紀の大発見をしたのです。
「その時に、か……。そう言えば、その火星人ってのは、どの辺にいたんだ?」
「それは……」
 彦君に言われて、オートマーズが倒れている位置からどちらを向いていたのかを考えていると、急にそれは聞こえてきました。
(たすけて)
 それは、私がこの崖の底へと落ちたときに聞こえてきた声と一緒のものです。
「い、今!」
 慌ててみんなの方を見ると、全員、目を丸くして驚いていました。私だけ特別に聞こえているわけではないようです。これで、私の気のせいやオートマーズの故障という可能性が消えました。
「い、今、声が……。日本語?」
「私にも聞こえた……。どこだ? どこから聞こえたんだ?」
「いいえ、今のは聞こえたんじゃありません。これは……何かのデータ……? それをオートマーズが受信して、言語化したみたいです。でも、いったい誰が……」
 みんなが辺りを警戒している中、私は何かの影を感じ取りました。
「誰?」
 私の声で全員に緊張が走ります。
 恐る恐るではありますが、ゆっくりと影を感じた方向、壊れたオートマーズが向いていた方向へと視線を向けていくと、徐々にその姿をライトが照らしていきました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...