オートマーズ

小森 輝

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10章 火星人との邂逅

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 そこにいたのは、火星人、ではありません。
 それは、人でもなければ生物でもありません。その体を構成しているものを見れば、誰だってそう思うでしょう。
 これは機械です。
 ただ、機械とは言ってもオートマーズとは全く別の代物です。古い機械なのでしょう、その質感からは時代を感じます。
「これ……ローバーか?」
 彦君の言葉に首を傾げましたが、手招きをしていたので、少し移動して見てみると、その全貌が見えてきました。
 視点を変えることによって、今まで重なって見えなかった後ろ足に気づいたのです。それも、4本あります。つまり、この機械には足が6本あるのです。そして、その全てにタイヤが付いています。オートマーズのように二足歩行をしていたわけではなく、車のように6つの車輪で動いていたのでしょう。
「そうか……なるほど……」
 何かに気づいた様子の彦君は、今度は壊れたオートマーズがいる場所でしゃがみ込みました。
「確かに、正面から見れば人型に見えなくもないな……」
 正面から見ることにより、後ろ足は重なり2本に。そして、ソーラーパネルが手のように見え、上に伸びたカメラが首と頭のように見えます。
 平常時であれば見間違えることもなかったのでしょうが、不安と恐怖と死に心が支配されていたあの状況で見ると、人に見えても仕方がないと思うのです。
 しかし、これを火星人だと言い張っていた私は、滑稽なものです。世紀の大発見だなんて期待していた私が馬鹿みたいです。
 それを責めることなく、みんなは謎の機械の調査を始めました。
「これは火星探査機? でも、なんでこんなものが……。それに、あの声は……」
 大葉部長はまだ近づく様子はなく消極的でしたが、マリさんは積極的に調査を始めています。軽く小突いたりして中の空洞具合なども見ています。
 すると、マリさんが何かを見つけたようです。
「こ、これ! このマークって、もしかして、JAXAのマークじゃないか?」
 マリさんが見つけた場所には、空をイメージさせる青色でJAXAと書いてあり、JとXの間にあるAの文字は星のような形をしています。
 いくら私がニュースを見ない女子高生だと言っても、これぐらいは流石に知っています。JAXAというのは、日本の宇宙関係のことをしている機関の名前だったと思います。確か、アメリカにあるのがNASAだったはずです。他の国にもあるのでしょうが、残念ながら私の脳に記憶されていません。
 しかし、JAXAがどうしたというのでしょうか。この機械にJAXAと書いてあるのなら、これは日本からこの火星にやってきた機械だということなのでしょうか。
 そう言った疑問は、私よりも他の人たちのほうが詳しいはずです。
「JAXA……そう言えば、何年か前、まだオートマーズが開発されていない時代に、JAXAも火星探査機を打ち上げていたような……。確か、名前は『ライチョウ』」
「でも、なんでそのライチョウがこんなところに?」
「ライチョウは無事に火星へと着陸したのですが、それからすぐに火星を覆い尽くす大規模な砂嵐が起こって、1ヶ月もしないうちに通信が途絶えてしまったんです」
「なるほど、それでここに落ちたと……。他の探査機って可能性はないの?」
「はい。JAXAが火星に着陸させた火星探査機は、今までに1機しかありません。間違いなく、これがその1機でしょう」
 大葉部長とマリさんの話を聞くと、私が火星人と見間違えたこの機械は、日本のJAXAがこの火星へと送ってきた火星探査機、その名も『ライチョウ』だそうです。
 この機械の謎は解明されましたが、まだ謎は残っています。
「じゃ、じゃあ、さっきのあの声はどこから聞こえてきたんですか?」
 助けを求めていたあの声は空耳なんかではありません。ここにいる全員がその声を耳にしています。つまり、その声の主がこの場にいるはずなんです。
 しかし、それも大葉部長には心当たりがあるようです。
「おそらく、この火星探査機ライチョウからの救難信号だったんじゃないかと。それをオートマーズが受信し、さらにそのデータを言語化したものが、私たちの意識へと流れてきてしまったのではないのかと」
 難しいことは分からないのですが、要は、あの助けを求めていた声は、この火星探査機ライチョウが私たちに送っていたものだと大葉部長は考えているようです。
 しかし、そんなことが可能なのでしょうか。
「でも、何年も前の機械ですよね? そんなことできるんですか?」
「可能だと思います。ライチョウにはAI、人工知能が搭載されていたはずですから、ここに落ちた時点で自力での帰還が不可能だと考え、普段は電力を落とし、近くに送信可能な物体が来たときに備えていたのではないのでしょうか。それでも、救難信号を送るので精一杯だったのでしょう」
 そんな状態になっても、誰かが来るのをずっと待っていたのでしょう。この真っ暗な崖の底に、たった一人で。それは、私が味わった恐怖や不安なんて比べものにならないでしょう。例え人工知能だとしても、もし意識があるのなら、こんな寂しい場所から救い出してあげたいです。
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