オートマーズ

小森 輝

文字の大きさ
69 / 72
10章 火星人との邂逅

69

しおりを挟む
「助けましょう。やっと誰かが来たのに、こんなところに置き去りにされるなんて……。私たちが助けてあげるべきです」
 しかし、全員が口を噤みます。その様子を見れば、誰だって分かります。答えはノーです。
「な、何でですか? 火星は常に物資不足なんですよね? これを持ち帰らない理由はないはずです!」
 そのはずなのに、誰も何も言ってくれません。
 そんな中、一人だけ、私の言葉で心が動いてくれる人がいました。
「俺は……緋色の意見に賛成です」
 意外にも、彦君が私の意見に賛成してくれたのです。
 彦君は大葉部長に好意を寄せているので、対立なんてしたくないはずです。それなのに、私の意見を押してくれました。
「もし、これが充電不足なだけだったなら、太陽光発電で動き出す可能性があります。俺たちは植物の育成がメインで、周辺の探索には時間が割けません。でも、これが動いてくれれば、それをカバーしてくれるかもしれません。それに、もし動かなくても、これに付いているソーラーパネルには価値があります。持ち帰るには十分かと……」
 彦君が力説してくれましたが、大葉部長の首は動きません。後一押しだと思うのですが、その言葉が私には出てきません。
 そんな私たちを眺めていたマリさんがやっと口を開きました。
「緋色の感情論は抜きにして、鷲斗の意見は正しい。迷っているのは、危険だからだろ?」
 マリさんの問いに大葉部長が頷きます。
「はい。オートマーズだけなら抱えて崖を登ることも可能です。しかし、ローバーもとなると……」
 持ち帰ることは難しいと言いたいのでしょう。それなら、壊れたオートマーズと一緒に登らなければいいだけです。
「なら、往復しましょう。それなら大丈夫なはずです」
「しかし……」
 それでも大葉部長は許可してくれません。何がそんなに大葉部長の足を止めさせているのでしょうか。
 そんな私たちの会話に呆れてしまったのか、マリさんはため息をついて話に割って入りました。
「みんなを危険な目に遭わせることはできない。それは分かる。でもさ、私はもちろん、鷲斗と緋色も、ここに足手まといになりに来たわけじゃない。私たちは火星探査部の部員として、何かをするために、ここに来てるんだ。そんで、その何かは、部長が決めることだろ」
「私が……」
「そう! 私たちは全力で手伝うだけだから。な!」
 そう言って、マリさんは私と彦君を抱き寄せました。私たちにも同意を求めているのでしょう。その答えは、もちろん、イエスです。
「私にできることは少ないかもしれませんけど、できる限りお役に立てるように頑張ります!」
「俺は、自分の意見と違っていたとしても部長の判断に従います。俺は、部長を信じていますから……」
 最後の言葉が大事だというのに、彦君の声はくぐもっていました。隅に置けないと思っていたのに、大葉部長と向き合った途端、男気を失ってしまうのは悪いところです。
 しかし、それでも、私たちの気持ちは伝わってくれました。
「ミッションを追加します。この火星探査機ライチョウの引き上げを行います。危険と判断したら中止も考えますが、できるなら持ち帰りたいです。みんな、私の力になってくれますか?」
 そんなこと、聞く必要もありません。
「「「もちろん!」」」
 三人そろって同じ言葉を口にしました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...