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10章 火星人との邂逅
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大葉部長の許可も下り、私たちは火星探査機ライチョウの引き上げ作業の準備へと取りかかりました。
火星探査機と言っても車ほどの大きさはありません。しかし、ラジコンのような大きさでもありません。私が上に乗れるぐらいには大きいです。例えるなら、バイクぐらいの大きさでしょうか。
それだけ大きなものをそのまま担いで崖をよじ登ることはできません。そのため、ある程度、分解して、パーツを分担して持つことになりました。
そして、その役目には、彦君が立候補しました。彦君は機械に強いらしく、1から組み立てるのではなく分解して元に戻すぐらいならできるそうです。流石、男の子といったところでしょうか。頼りになります。ちなみに、私はその補助という役割を与えられました。と言っても、彦君から渡されるネジなんかを大事に取っておくぐらいしかやることはありません。
集中している彦君の姿を見ていると、無駄口も叩けず、ただただ作業だけが進み、数分で分解は終わりました。
「こんなもんだな……」
分解と言っても、車輪とソーラーパネルを外したぐらいです。6つの車輪を一つに纏めると、3つのパーツに分けたぐらいにしかなっていません。
「こんなんでいいの? これじゃあ本体を持つ人が大変じゃない?」
明らかに、本体を持つ人の負担が大きいように見えます。しかし、これが限界のようです。
「何十年も昔の機械だからな。これ以上いじると不具合が出て動かなくなるかもしれない。でも、パーツの中でも重量がありそうな車輪とソーラーパネルを取り外せたんだから見た目の割には軽いはずだ」
「そうなんだ……」
確かに、本体の大きさはありますが、そのほとんどが骨組みで、重量感は感じられません。しかし、これを運ぶとなると骨が折れそうです。
そんなことを考えていると、ちょうど帰路の確認をしていた大葉部長が戻ってきました。
「鷲斗君、調子はどうですか?」
「はい。このぐらいが限界だと思います」
謙遜する彦君ですが、分解されたライチョウの姿を見て、大葉部長の表情は笑顔になりました。
「ソーラーパネルを外せたのなら、上出来です」
「あ、ありがとうございます」
大葉部長に誉められて彦君の頬が緩みます。思えば、彦君のこんな表情は初めてみたかもしれません。なんだか、少し良いことをした気になります。
「そっちは準備が整ったみたいだな」
そんな私たちの話し声が聞こえたのか、マリさんも合流しました。
「マリさんの方も終わりました?」
私が聞くと、マリさんは自分の背中を見せてきました。
「こっちは大丈夫。むしろ、時間があったからもう
背負っちゃった」
マリさんの背中には、私が壊してしまったオートマーズがいました。大葉部長からマリさんにはオートマーズを持ちやすいように纏めてくれと頼まれていましたが、まさかもう背負ってしまうとは思いませんでした。
「それじゃあ、マリちゃんはそれで。私たちでこっちを分担しましょうか」
こっちというのは火星探査機ライチョウのことです。私個人としては、自分の尻拭いとして壊したオートマーズを背負うべきだったのでしょうが、それは取られてしまいました。しかし、この火星探査機も私が言い出したことです。負担が大きいものを私が持つべきでしょう。
しかし、それを言い出すことはできませんでした。
「俺が本体を持ちます」
率先して名乗り出たのは、彦君でした。重いものは男が持つべきだと考えているのでしょうか。しかし、ここは火星で体はオートマーズなので、男女での筋力差はありません。私も彦君も筋力は同じなのです。私を気遣ってなのか、それとも、大葉部長にいいところを見せたいのか。何が目的なのかは分かりません。
しかし、まずいことに、全て私が原因で起こっていることなのに、次々と運ぶものが決まっていきます。
「では、私がソーラーパネルを。緋色さんには車輪をお願いできますか?」
「はい……」
私に分担されたのは、一番軽そうな車輪でした。これでは、私が楽をしているみたいです。私が足手まといのようです。
「で、でも、私が言い出したことですし……」
しかし、決まったことは覆りません。
「緋色さんには前回の箱も持ってもらうので、負担としてはみんな同じですよ」
「……はい」
不満そうな私を見て声をかけてくれたのは彦君でした。
「まあ、落ち込むのは持ってからにしたらどうだ?」
そう言われて、彦君から6つの車輪の束を受け取りました。
「うおっと……」
その重さに、思わず落としてしまうところでした。見かけによらず、渡された6つの車輪は重かったのです。
「火星まで飛ばして無人で走らせるんだぞ。その車輪が軽いわけないだろ。それに、車輪を重くして重心を下げれば、風で飛ばされにくくもなるし、仮に飛ばされたとしても、重心が下にあれば車輪から着地できる。このライチョウもそのおかげで倒れずに立っていたんだろうからな」
何年も前の機械なのに、そこには様々な知恵が詰め込められているのでしょう。
「各自の持ち物も決まりましたし、これより、基地へと帰還します。ここからが正念場ですよ」
帰るまでが遠足なんて言葉は使いたくありませんが、まだまだ気は抜けないようです。
火星探査機と言っても車ほどの大きさはありません。しかし、ラジコンのような大きさでもありません。私が上に乗れるぐらいには大きいです。例えるなら、バイクぐらいの大きさでしょうか。
それだけ大きなものをそのまま担いで崖をよじ登ることはできません。そのため、ある程度、分解して、パーツを分担して持つことになりました。
そして、その役目には、彦君が立候補しました。彦君は機械に強いらしく、1から組み立てるのではなく分解して元に戻すぐらいならできるそうです。流石、男の子といったところでしょうか。頼りになります。ちなみに、私はその補助という役割を与えられました。と言っても、彦君から渡されるネジなんかを大事に取っておくぐらいしかやることはありません。
集中している彦君の姿を見ていると、無駄口も叩けず、ただただ作業だけが進み、数分で分解は終わりました。
「こんなもんだな……」
分解と言っても、車輪とソーラーパネルを外したぐらいです。6つの車輪を一つに纏めると、3つのパーツに分けたぐらいにしかなっていません。
「こんなんでいいの? これじゃあ本体を持つ人が大変じゃない?」
明らかに、本体を持つ人の負担が大きいように見えます。しかし、これが限界のようです。
「何十年も昔の機械だからな。これ以上いじると不具合が出て動かなくなるかもしれない。でも、パーツの中でも重量がありそうな車輪とソーラーパネルを取り外せたんだから見た目の割には軽いはずだ」
「そうなんだ……」
確かに、本体の大きさはありますが、そのほとんどが骨組みで、重量感は感じられません。しかし、これを運ぶとなると骨が折れそうです。
そんなことを考えていると、ちょうど帰路の確認をしていた大葉部長が戻ってきました。
「鷲斗君、調子はどうですか?」
「はい。このぐらいが限界だと思います」
謙遜する彦君ですが、分解されたライチョウの姿を見て、大葉部長の表情は笑顔になりました。
「ソーラーパネルを外せたのなら、上出来です」
「あ、ありがとうございます」
大葉部長に誉められて彦君の頬が緩みます。思えば、彦君のこんな表情は初めてみたかもしれません。なんだか、少し良いことをした気になります。
「そっちは準備が整ったみたいだな」
そんな私たちの話し声が聞こえたのか、マリさんも合流しました。
「マリさんの方も終わりました?」
私が聞くと、マリさんは自分の背中を見せてきました。
「こっちは大丈夫。むしろ、時間があったからもう
背負っちゃった」
マリさんの背中には、私が壊してしまったオートマーズがいました。大葉部長からマリさんにはオートマーズを持ちやすいように纏めてくれと頼まれていましたが、まさかもう背負ってしまうとは思いませんでした。
「それじゃあ、マリちゃんはそれで。私たちでこっちを分担しましょうか」
こっちというのは火星探査機ライチョウのことです。私個人としては、自分の尻拭いとして壊したオートマーズを背負うべきだったのでしょうが、それは取られてしまいました。しかし、この火星探査機も私が言い出したことです。負担が大きいものを私が持つべきでしょう。
しかし、それを言い出すことはできませんでした。
「俺が本体を持ちます」
率先して名乗り出たのは、彦君でした。重いものは男が持つべきだと考えているのでしょうか。しかし、ここは火星で体はオートマーズなので、男女での筋力差はありません。私も彦君も筋力は同じなのです。私を気遣ってなのか、それとも、大葉部長にいいところを見せたいのか。何が目的なのかは分かりません。
しかし、まずいことに、全て私が原因で起こっていることなのに、次々と運ぶものが決まっていきます。
「では、私がソーラーパネルを。緋色さんには車輪をお願いできますか?」
「はい……」
私に分担されたのは、一番軽そうな車輪でした。これでは、私が楽をしているみたいです。私が足手まといのようです。
「で、でも、私が言い出したことですし……」
しかし、決まったことは覆りません。
「緋色さんには前回の箱も持ってもらうので、負担としてはみんな同じですよ」
「……はい」
不満そうな私を見て声をかけてくれたのは彦君でした。
「まあ、落ち込むのは持ってからにしたらどうだ?」
そう言われて、彦君から6つの車輪の束を受け取りました。
「うおっと……」
その重さに、思わず落としてしまうところでした。見かけによらず、渡された6つの車輪は重かったのです。
「火星まで飛ばして無人で走らせるんだぞ。その車輪が軽いわけないだろ。それに、車輪を重くして重心を下げれば、風で飛ばされにくくもなるし、仮に飛ばされたとしても、重心が下にあれば車輪から着地できる。このライチョウもそのおかげで倒れずに立っていたんだろうからな」
何年も前の機械なのに、そこには様々な知恵が詰め込められているのでしょう。
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