炎と風の反逆者

小森 輝

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襲来する紅蓮の女王

炎と風の反逆者 14

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「あわわ、もしかして私のせい?」
「違うだろ。どっかの誰かがまたやっちまったんじゃねぇの?」
 俺も紀彦の意見に賛成だ。あの程度でブザーが鳴らないだろうし、それに、もしあの程度で鳴るなら、紀彦の技で鳴っているはずだ。
「気にせずに、人探ししよう」
「そうですね」
 緊急ブザーが鳴っているのに、真面目な透真さんを含めた誰一人として慌てていない。
 それも仕方がないことなのかもしれない。この緊急ブザーは今までに何度も鳴っている。特に1組は強力なサクセサーを持っている者の集まりなので、一回の授業で必ず誰かが鳴らしている状態だ。そのため、慌てる人は愚か、避難する人なんて皆無だ。
 ブザーを気にせず、改めて一歩目を踏み出したら、今度は緊急ブザーの音も打ち消すほど強烈な爆音が室内を揺らした。
「緊急ブザーが鳴っているっていうのに、懲りないな」
 爆音は断続的に続いている。
 緊急ブザーが鳴っているのにドンパチやっているのだろう。バカな奴だ。これは反省文だけじゃ済まないぞ。
 呆れながら音の方向を見ると、ちょうど紀彦が傷を付けた壁の方向だ。
 そこで、異変に気付いてしまった。
 今、1組の全員はこの室内演習場にいるはずだ。なのに、音は外から聞こえてくる。
 不審に思い、音の方向を見ていると、何の前触れもなく爆音が止まった。
「なんか、おかしいな」
 紀彦が傍に来た。茜音も透真さんの隣にいる。
 周りを見渡しても、みんなおかしなことに気が付いている様子だ。
 4人揃って壁を眺めていると、ちょうど傷が入ったところが鈍く発光した。
 その発光は円状に伝染していきながら広がっていき、漏れ出た光の雫は床に零れ落ちている。
 落ちた光の雫はすぐにその輝きをなくし、黒い塊になって蓄積していく。
「溶けているのか……」
「そんなはずないです。タングステンの融点は3000度以上ですよ」
 透真さんの言う通り、硬度が高いタングステンの融点が低いはずがない。
 しかし、目の前の映像は俺の呟き通り、溶けているとしか形容できない。
 俺たちがその光景に、何もできず、ただ眺めていることしかできないでいると、タングステンの壁は徐々に輝きを失って行き、そこには人一人が通れるほどの大穴が開いていた。
「マジかよ」
 紀彦が呆然と呟いた。タングステンの壁がここまで無残な姿なったことに驚愕しているのだろう。
 しかし、今、着目する所はそこではない。
「話には聞いていたが、なかなか硬い壁だな」
 壁の外に一人の女性が立っている。背丈は170センチ前後で髪は仄かに赤く腰辺りまで伸びている。服装は黒のスーツのようだ。
 女性の特徴を観察し、顔を確認しようとしたが、なぜか彼女と目が合ってしまった。
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