インキュバスには負けられない

小森 輝

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「ねぇねぇ、君、一文字君の友達でしょ? ちょっと話があるんだけどさ……」
 僕に話しかけてきたのはクラスメイトでもない女子生徒だ。しかも、制服に施されている装飾の色を見ると、同じ学年ではなく2年生だということが分かる。つまり、先輩の女子生徒ということだ。ちなみに、僕とは全く面識はない。完全に初対面の人だ。
「えっと……そうだと思うんですけど……何ですか?」
 菊臣というイケメンの隣にいることで、僕もモテるようになったのではないのかと勘違いしてしまいそうだが、そううではない。だいたい、冴えない僕が何もしていないのに急にモテるなんてことはないんだ。
「私、2年の喜多川なんだけど、一文字君に私のこと紹介してくれない?」
 この2年生の女子生徒の目的は菊臣だ。そして、その足がかりに僕を使おうという魂胆らしい。
「いや……それはちょっと……」
 こういうことがたまにある、訳ではない。しょっちゅうだ。いや、むしろ、菊臣が僕から離れるのをいつも誰かが狙っているようにしか思えない。
 しかし、いいこともある。
 それは、こうやって可愛い女子と話せるということだ。何度も説明するが、僕は菊臣とは違い冴えない男子だ。そんな僕が何もせずとも女子の方から話に来てくれるのだから菊臣様々と言ったところだろう。もちろん、話すだけで何か関係が進展するわけではない。
「そこを何とか! 一文字君に紹介してくれたら私の友達を君に紹介してあげるからさ!」
「いや……でも……」
 美人な先輩女子にそう頼み込まれるが、友達を紹介してあげると言われて実際に紹介された試しはないし、それに、菊臣に彼女を紹介してもあんまりいい顔はしない。おそらく、こういった裏でコソコソやられるのが嫌いなタイプなのだろう。
 そうなると、この話は断るのが相手のためにもなるのだが、彼女だって菊臣に近づきたい一心で僕に話しかけているので、簡単には引いてくれない。
 しかし、焦る必要はない。このまま話を引き延ばしていれば問題は解消する。
 そんな気持ちでいると、あれだけしつこかった相手が一目散に逃げていった。もちろん、諦めたわけではない。話をしていた相手が来てしまったのだ。
「また見ない顔の女子だったな……」
 そう言いながら菊臣が自分の席、僕の前の席に帰ってきた。
「助かったよ。話を切り上げるのが下手でさ……。いつも助かるよ」
「精志郎が困ってるんだから助けに行くのなんて当たり前だろ?」
 そう言ってくれるのだが、菊臣は僕たちの話の内容を少し勘違いしていた。
「それにしても、精志郎はモテるよな。高校になって急にじゃないか? 中学の頃はそんなことなかったのに」
「僕がモテてるわけじゃ……」
「そんな謙遜するなって。友達だろ?」
 菊臣は自分がモテているのではなく僕がモテていると勘違いしているのだ。少しばかり、鈍感なところがあるのだ。でも、菊臣に直接アタックしにいく女子はほとんどいないし、僕の方に話しかけてくる女子の方が多いから、そういった勘違いをしてしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
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