インキュバスには負けられない

小森 輝

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 急いで机まで戻り、スマホを手に取った。不審者に背を向けるという危険な行為をしてしまったのだが、そんなこと全く気にすることなく走っていた。
「110番110番……」
 スマホを取って警察に電話しようとしているのに、不審者は僕を止めようとはしない。なにを考えているのか全く分からないのだが、これがチャンスだと言うことは分かる。
 焦って押し間違えないように、震える手で画面をタッチしていく。
「おや? 電話かい? なるほど、警察に電話しようとしているんだね?」
 しまった。僕がスマホで警察に電話しようとしているのが不審者にばれてしまった。
 だが、もう遅い。後は通話のところをタッチするだけだ。
「でも、やめておいた方がいいよ、私は」
「あ、警察ですか? 今、家に不審者がいるんです! すぐ来てください!」
 不審者が何か言っていたが、構わず電話で警察を呼んだ。これでこの不審者も怖じ気付いて逃げてくれるはず。
 そう思ったのだが、不審者に動揺は感じられない。
「やれやれ、人の話は最後まで聞くべきだよ。早漏っていうのは相手を満足させられない原因にもなるんだよ」
 僕の行動を見て呆れているようだが、そんなのは関係ない。
 電話を続けて、無事に警察に家に不審者がいることと住所を伝えることができた。その間、不審者は僕のスマホを力ずくで奪うこともせずに呆れながら静観していた。
「電話は終わったかい? 全く、人の話は最後まで聞くものだよ。こっちは親切で言ってあげてるのに。困るのは君の方なんだからね?」
「な、なんでだよ」
 警察が来て困るのは不審者の方に決まっている。それなのに、不審者は全く焦っていない。何か、本当にまずいことでもあるのだろうか。
「私は人間じゃない。インキュバスだよ」
「インキュバス……?」
「そう。まあ、マイナーな悪魔だから分からないのも仕方がないけど。簡単に言えば、サキュバスの男版だよ。サキュバスぐらいは知ってるだろ? まあ、あのサイトでクリックするぐらいだから知ってるか」
「は、はぁ? 悪魔? 何言ってるんだ?」
「何って、私のことを説明してあげてるんじゃないか。これから長い付き合いになるんだ。私のことを知ってもらうのに早すぎることなんてありはしないよ」
 そういうことを聞きたいわけではない。もしかして、自分は悪魔だと言い張ることで、この場を乗り切ろうとしているのだろうか。だからこそのこの余裕なのだろうか。もう、この状況が理解できなさすぎて訳が分からない。
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