インキュバスには負けられない

小森 輝

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 帰り道、結局、あの悪魔が現れることはなかった。奴は悪魔だし、僕のことが怖くて現れることができなかったなんてことはないだろう。もし、居なくなっていたとしたら、僕としては幸いなのだが、菊臣を元に戻してから消えてほしい。
 そんな思いで家へと帰ってきた。
「ただいま」
 と言っても、親は共働きなので、返事が来ることはない。これは防犯という意味で「ただいま」と言っているにすぎない。
 とは言え、家に帰ってもあの悪魔は姿を現さない。家にいるとしたら、全裸で僕を出迎えたりしそうなものだが、そんなこともなかった。
「本当に消えたんじゃないのか?」
 流石にやりすぎたと思って僕の前から姿を消し、そして、菊臣も元に戻してくれているなんてことはないだろうか。
 そんな期待をしながら、自分の部屋のドアを開けると、そこにあの悪魔の姿があった。
「ん? あぁ、お帰り。案外、早いんだね。部活には入ってなかったんだ」
 そんな暢気なことを言っている悪魔は、床に寝そべって、僕の部屋にあった本を読んでいた。その姿は、見るからにリラックスしている。
「しかし、少年マンガはいまいちだね。エッチなシーンはだいたいあるんだけど、やっぱり乳首が描かれてないと興奮しないな。パンツがチラ見えした程度で鼻血とかベタだよね。あぁ、でも、君ぐらいの歳ならこれぐらいでもオナニーのネタにはなるのかな?」
 そんなふざけたことを聞かされると、帰り道で冷めてきていた怒りが再び沸き上がってくる。そして、その怒りの感情をこの悪魔は瞬時に読みとった。
「え? なんでそんなに起こってるのさ。別にマンガを読むぐらい、いいだろ? 君が学校に行っている間は暇なんだし、マンガを読んで暇つぶしをしたっていいだろ? もちろん、汚したりとかはしてないよ。悪魔だから手垢も付かないし……」
 言い訳をする悪魔だが、僕の怒りとは全く違うことを言っている。あくまで、とぼけるつもりなのだろうか。なら、こちらから何で怒っているのか教えてやろう。
「全部知ってるんだろ?」
「え? 知ってるって?」
「まだとぼけるつもりか! 菊臣に何かしただろ!」
「え? 菊臣? 誰だい、それは」
「僕の友達だ。学校で僕の前に座っていた男子のことだよ」
「あぁ。彼がどうしたんだい?」
「お前が変なことをしたんだろ?」
「変なこと……? もしかして、私の十八番「どこでもラッキーホール」のことかい? あれはちょっとしたお遊びじゃないか。そんなに怒らなくったって……」
 「どこでもラッキーホール」というのは、学校に居たとき急に壁から局部を出してきたあのことだろう。もちろん、そのことではない。こいつ、しらを切るつもりなのか。
「とりあえず、落ち着いて。私も話が見えてこない。何があったのか話してくれ」
 そんなことを言い出した。まさか、本当に何もしていないのか? いいや、そんなはずはない。こいつが気にも止めていなかっただけで、何かの能力でこうなってしまった可能性がある。
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