インキュバスには負けられない

小森 輝

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 始まったとは言っても、まだお互いどう接していいのか分からないので、未だに気まずい距離感だ。
 あの使われていない焼却炉から教室まで行く間も、一言も話すこともなく、微妙な距離感があった。そして、教室で自分の席に座ってからも、その距離感が続いた。菊臣と僕は前後の席で近いはずなのに、なんだか距離感がある気がする。友達以上の関係になったはずなのに、なぜか、気まずい。
 そんな中、動いたのは菊臣だった。誰かに呼ばれたわけでもないのに無言で立ち上がった。
「菊臣? どうした?」
「ん? いや、ちょっと、トイレに……」
 会話はそれだけで、菊臣は教室を出て行ってしまった。やっぱり、菊臣も気まずかったのだろうか。それも、僕から背中を見られているというプレッシャーがあったのだろうか。
 ただ、菊臣がいなくなったことにより、僕には別の問題が舞い込んできてしまった。
「お、おい。一文字と喧嘩でもしたのか?」
 菊臣がいなくなった途端、クラス中の人が僕の席へと集まってきた。
 正直、菊臣のことで頭がいっぱいだったので、周りの目なんて気にしていなかったが、どうやら、みんな僕たち……いや、菊臣のことを気にしていたのだろう。菊臣の一番の友達と言っても過言ではない僕と気まずそうにしているのが、みんな気になっているのだ。もちろん、女子だけではない。男子も集まっているし、教室の入り口を見ると、他のクラスの女子たちが心配そうに見ている。
「い、いや、そんな喧嘩とかじゃないんだ」
「じゃあ、何だよ」
 一人の男子が民意を代表したかのように僕に問いかけてくる。もちろん、僕は菊臣のことを話すつもりはない。菊臣は僕だから告白してくれたわけで、他の人に知られたくはないはずだ。だから、話せはしないのだが、この場を納めるために、とりあえず、何か言い訳を考えなければならない。
「えっと……僕が今日ちょっと体調が悪くってさ。だから菊臣が気を使ってくれてるだけだよ」
 そう言うと、少し、群衆がどよめいた。おそらく、僕の答えに納得いっていないのだろう。しかし、僕に体調が悪いと言われて問いつめることはできないのだろう。病人を問いつめるなんて、それは良心が許しはしない。
「……分かった。体には気をつけろよ」
 民意を代表した男子がそう言ったことで、集まっていた人も自分の席へと戻った。彼らも菊臣にこんな光景を見られたくないのだろうから、問いつめるような時間はなかったのだろう。
 その予想は正解で、みんなが僕の元から去ってすぐに菊臣は帰ってきた。
「なんか、みんな集まってたみたいだけど……なにかあった?」
 見られないように注意をしたのだろうが、菊臣には見られてしまったようだ。
「菊臣の様子がおかしいからみんな心配してたんだよ」
「そっか……。なら、いいんだけど……」
 菊臣の心配は、自分が男性愛者であると言うことをみんなにばらされてはいないのだろうかと言うことだろう。でも、そんなことはしないと信じてくれたから僕に話してくれたのだ。心配だろうが、それは信じてもらうしかない。
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