インキュバスには負けられない

小森 輝

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 それからも、僕と菊臣の気まずい時間は続いた。感覚的には時間が止まってしまっているかのような感じだが、ちゃんと時間は進んでいて、授業は変わりなく進んでいく。心なしか、いつもよりクラスの雰囲気も重いような気がする。クラスの中心どころか学校の中心でもある菊臣のテンションが低いと、それが周りにも伝わっていくのだろう。
 いつまでもこんな雰囲気を出していることもできないので、どうにかしたいのだが、何をどうしていいのかわからない。もちろん、周りの誰かに協力してもらうこともできないので、僕一人の力でどうにかしなければならない。一応、一人だけ相談できる奴はいる。それはあの悪魔なのだが、こんな時にやつは姿を現さない。おそらく、僕の部屋で暢気にマンガでも読んでいるのだろう。
 どうしようかと頭を悩ませているだけで、授業は終わり、結局いい案もなく途方に暮れていたのだが、まさかの、菊臣から声をかけてくれた。
「今……ちょっといいか?」
「う、うん。いいけど……。場所、変えようか?」
「いや、大丈夫。そんな大事な話じゃないから」
 教室では周りの目もあるので、いつもの使われなくなった焼却炉に行こうかと思ったのだが、その必要はないらしい。
「その……今日、部活が休みなんだ。だから、放課後暇なら……一緒に帰らないか?」
 そんな話をこんなところでしていいのかと一瞬ドキッとしてしまったが、冷静に考えると、特別、おかしな話でもなかった。僕たちがそういう関係だと知らなければ、友達と一緒に帰ろう程度にしか見られないだろう。
「う、うん。大丈夫。買い物とか、どこか寄る場所はあるの?」
「いや、そのまま帰ろうと思ってる。よかったら、家で勉強でも教えようか?」
 まさかの家のお誘い。付き合うとはまた少し意味が違うのだが、初日から家に招くなんて、菊臣はなんて積極的な恋愛観をしているんだ。しかし、菊臣の家になら小さい頃から何度も行っているので、別に特別なことではないはずだ。ただ、そうなると、勉強という言葉もその裏を考えてしまう。普通の勉強ではなく同性愛についての勉強なのではないのかと。もう、思考が汚染されているような気分だ。
 しかし、菊臣に限って、そんなことはないとおもうので、素直にお誘いは受けておく。
「もうすぐテストだもんな。菊臣は楽勝だろうけど、僕はそんなに頭は良くないから、早めに勉強しておきたいなって思ってたんだよ」
 そう言う自分のセリフも勉強という単語を他の言葉に置き換えるとどうなるのかを考えていたりする。
「そうだよな。じゃあ、一緒に帰ろうか」
「お、おう」
 なんだか、今まで流れていた重苦しい空気が少し和らいだ気がする。菊臣の悩みが少し晴れたのだろうか。それはよく分からないのだが、ずっと重い空気のままにはならなさそうなので安心した。
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